の恐ろしいところは青峰と同じフォームレスシュートだ。

 不安定な体勢でも打つことのできるバランス感覚と空間把握能力。青峰と身長こそ違うためダンクなどの大がかりな物は出来ないが、それでも背が小さいからこそその力は一番に必要な物であり、だからこそ青峰もそこを重点的に教えた。


「なー、どうやってやるんだよ。それ。」

「え?こーんなかんじ。」




 火神がにフォームレスシュートのやり方を問うが、の回答はまさに適当だった。振りかぶって、投げて、そのままあっさりとゴールに入る。




「わかんねぇよ!」




 流石の馬鹿の火神でもの説明はわからなかったらしい。だがはきょとんとした顔で首を傾げる。




「火神君、何を言っても駄目ですよ。はそれで教わってきてるんです。」




 黒子はぼそっと火神に言う。

 にバスケを教えたのは青峰だ。青峰は感覚的にしかに説明しなかっただろうし、彼女もそれをぴたりと捉えてくるほどに鋭い。そのため、は教えると言うことがよくわかっていなかったし、それを求められることもない。

 才能が天才的だという点では、青峰と同じなのだ。



「もっかい!もっかいやれよ!!」




 火神はそれでも諦めきれないのか、のフォームから何かを学ぼうとに叫ぶ。




「・・・しつこい奴だな。」




 緑間は黒子の隣に立って眼鏡を持ち上げる。だが黒子から見てもと火神は性格的にも二人ともあまり深く考えるタイプではなく、しかも明るいバスケ馬鹿だ。それは昔の青峰とを見るようだった。




「気が合うんでしょうね。」




 黒子は苦笑する。それは昔を思い出したからだ。

 中学時代、青峰と、そして黄瀬、黒子を加えてよく2on2をしたりしていた。と黄瀬はいつも青峰に本気でくってかかっていて、夢中で諦めずに勝ちに行く。それがとても楽しそうだった。夢中でプレイするところは、火神も同じだ。




「駄目だよーこーなめらかにー手首?」




 は自分の手首を回して言う。




「手首?」

「そうだよ。ブロックされても、こー、手首ですっと切り返せばいけるでしょ?」

「あー、あ!」




 同じく感性的なことしか理解できない火神であるため、理解できたらしい。性格が似ているというのは理解レベルも似ていると言うことで、の言うことが難しい説明の火神には理解しやすいということだ。そのため二人でバスケをしていれば、別にそれ以外共通の話題などないだろうに楽しそうにずっと遊んでいる。




「あはは、大我ちゃん、全然入らないね。こうだよ、」

「むむむ、見てろー」




 と火神は楽しそうに笑いあっている。その姿は本当にただただバスケを楽しんでいて、そこに何の共通点もないはずなのに、わかり合っている。




「赤司は、怒るだろうな。あれを見たら。」




 夢中でプレイをしている火神とを見守りながら、緑間はため息をつく。




「誰よりも、なんであっても一番でいたい。そう思うのが恋愛ですからね。」




 黒子も大きく頷く。

 火神と、そして自分たちとバスケをしている時のは酷く楽しそうだ。赤司のバスケをつまらないと言った時の彼女と同一人物とは思えないほどバスケが好きで、ただ夢中にプレイをする。満足感、充実感、それはまさに赤司がに与えられなくなったもの。

 確かに赤司はの一番かも知れない。でも、バスケではの一番ではない。

 そして同時にも理解し始めている。は赤司の最も必要としていない、楽しい勝利を、それとともにあるバスケを望む人間である、と。




「でも多分、赤司君はそれを認めないでしょうね。いや、認めたとしてもが離れることを認めない。」




 黒子は細い息を吐いた。




「僕、ずっと思っていたんです。」

「・・・?」

は天才だ。あの子は、ちょっと考えが足りないところがありますが、優れた物を持っている。」




 相田にを見せて、黒子は確信した。

 やはり彼女は誰が見ても明確な才能があるし、相田が説得したくなるほどバスケに向いている。潜在能力は誰よりも高く、今は体力に問題があるが、それは練習をすれば問題ないものだ。頭は良くないが、あの記憶力故の統計を使えばだいたいのことは補える。

 彼女は歴史に名前を残すプレイヤーになるだろう。



「でも、それに赤司君が気づいていないとは思えない。」




 赤司は他人の才能を見抜く、特別な目を持っている。

 誰も見つけられず、自分ですらも信じられず埋もれていた黒子の可能性を見いだすくらいだ。誰よりもの傍にいて、明らかなの才能を見抜けなかったとは思えない。実際に赤司はの記憶力という利点をこれ以上ないほど使っている。バスケに彼女を利用している。




「どういう、ことなのだよ。」

「そういうことですよ。」





 緑間の質問に、黒子は目を伏せる。




「赤司君は多分、知っていて無視しているんです。」





 赤司はの才能を一番間近で見てきたはずだ。知っている。それでも知らないふりをしている、といえば良心的で、むしろ恐らくが才能を発揮することを望んでいない。




「・・・どういうことなのだよ。赤司に何のメリットがあって・・・いや、」




 緑間も思い当たる節があった。

 常にと赤司はともに育っている。赤司は日本で有数の名家の出身だが、の方も名門の公家出身で、しかも歴史と家格は赤司の家に勝る。の兄たちはそのIQや運動能力で有名で、実際に長兄の忠煕は数年前まで圧倒的なバスケプレイヤーだった。

 実際も幼い頃は神童と言われていた。

 成長とともにが目立たなくなったのは、赤司がいたからだ。だが、もし赤司が最初からいなければ、は自然な形で自分の力を誇示する方法を学んだだろうし、実際に彼女にはそれだけのポテンシャルがある。

 恐らく、赤司がいなければ彼女は天才であり続けた。




「・・・そう、赤司君にとって隣にいるが天才であっては困るんです。」




 元々彼女の方が赤司よりも、良い家の出身だ。彼女が仮に突出した才能を持っていた場合、赤司を上回らずとも、目立つのは彼女になる。だからこそ、赤司にとって彼女は影であらねばならなかったし、彼女が光であってはならなかった。

 それは決して彼女を側に置きたいという意味だけではなかっただろう。




「だから赤司君はいつも過不足なくに与えてきた。でも、それが崩れた。」




 問題が起こるとすべて赤司が解決して、彼女が成長しないように、他人と関わらないように、そうやって育ててきた。不満がなければは赤司の言うことをよく聞く。だが、結果的に赤司の生活に一番関わっていたバスケが、二人の間に亀裂を生んだ。




にとって、赤司のバスケは不足なのか。」





 勝利を常に勝ち取っているのに、結果を残しているのに、赤司のバスケはを魅了しない。それが明確化すれば、は自分で行動を始めるだろう。



「でも、赤司君は認めないでしょうね。」

「あぁ、恋人だというのももちろんあるだろうが、あの利益での切り捨てのうまい赤司が、絶対にだけは切り捨てない。切り捨てられない。」




 緑間もへの赤司の思い入れはよく知っている。それがどちらの赤司であっても打。




「・・・でもは。」



 黒子は楽しそうに笑っている彼女を見ながら、一緒に明洸中学に行った時の彼女を思い出す。




 ――――――――――――・・・ご、ごめん、悲しい、悲しいよ。ごめんなさい、ごめんなさい・・・



 彼女は明洸中の部員の前でこそ泣かなかったが、校門を出た途端に泣き崩れた。自分の協力したものへの重さと、それによって壊したものの大きさに、は耐えられなかった。小さくても確かに光だったそれを踏みにじることに手を貸した、

 赤司に隠された天才は、心だけは平凡なまま、他人を踏みつけることなくここまで来た。




「だから、あの子は・・・」





 赤司と決定的に違う。そしてそれがすれ違いを生んでいるのだと、歪な関係の末路を思えば黒子は切なさすらも覚えた。



Sie sind leicht zerbrechlich 彼らは壊れやすい