「・・・怒られちゃった、」
はぐずっと鼻をすすって、黒子を振り返る。
「いや、まぁ、そりゃそうでしょう。」
黒子は当然のことだと思ったが、彼女はそうではないらしい。黒子や火神が柔軟運動をしている隣で枕を持ってころころと寝間着姿で転がってまだぐずっていた。
は夕飯の時に食堂で電話をしていて、突然泣き出したのだ。高尾や緑間が慰めたりしたが、大騒ぎになり、黒子が請け負って、黒子と火神の部屋で話を聞いていたら、赤司ではなく、チームメイトの方に怒られたらしい。
ただ反省の色はなく、泣いたらすっきりしたらしく、今は別に深く悩んでいる風はない。
「寝る時はちゃんと監督の部屋に行くんですよ。」
「どうして?」
「そう赤司君に言ったでしょう?」
男女の自覚のないとしては中学時代のようにみんなで雑魚寝がしたいのかも入れないが、流石にもう高校生ともなればそういうわけにはいかない。ただには自覚がないので、赤司に言ったからという理由の方が聞きやすいだろう。
「うー、はぁい。」
は少し不満そうだったが頷き、ころころとまた右左と転がってみせる。その隣で大型のミミズクがほーほーと鳴いてに遊んでとねだっていた。
「・・・、一つ聞きたかったんですけど、そのミミズクどうしたんですか?」
「ひろったの。ひよよ可愛いでしょ。」
は黒子の質問に答えるようにミミズクを手元に引き寄せ、のど元を撫でる。するとミミズクは懐いているのか、心地よさそうに目元を和ませた。子供とミミズクの戯れは可愛らしくて、を見ると黒子にも悶える桃井の気持ちが少しわかった。
ただ何故その名前になったかについては同意できない。
「ちっこいのにおまえバスケはすごいよな。」
火神はの頭をぐしゃぐしゃと撫でて言った。
「そうかな。そうだと良いな。」
あの後しばらくと火神はがっつり1on1やシュートの練習していた。とはいえ流石にも風呂に入った今は疲れているようで、随分うとうとしていて、口調ものんびりしている。
「そういえば京都の生活はどうですか?」
メールや電話はしていたが、直接会うのは本当に中学の卒業式以来で、黒子はに向き直って尋ねる。
「うーん、変わらないよ。相変わらず征くんと一緒だし、悩みは友達がいないことくらいかな。」
はミミズクと頬を摺り合わせながら尋ねる。その姿があまりにも可愛くて、黒子は携帯電話のシャッターを押した。
「え、今とった?」
「はい。嫌がらせに黄瀬君に送信しようと思って。」
「なんで涼ちゃん?」
大きな目のとミミズクのツーショットはなかなか悶えたくなるかわいさだ。桃井に送ってやれば気絶するかも知れないなと黒子は考えて黄瀬にメールを作成しながら、顔を上げる。
「洛山のマネージャー業はどうなんですか?」
嫌だと言いながらも、は結局赤司に押される形でバスケ部に入部したのだ。それは納得できるが、どうにも彼女は真面目に部のマネージャーとして働いているわけでもなさそうだった。
「んー、えっと、わたしは公式戦とか重要な時だけ見に行くけど、それ以外は征くんに捕まったらいくくらい?」
「・・・そうなんですか?」
「うん。あ、でも、公式戦を休んだのは今回が初めてかな。」
帝光中学時代、皆がばらばらになってからもマネージャーとして毎日行っていたし、統計も行っていた。彼女が試合は愚か、練習を休んだことはなかったし、マネージャーとしても真面目だった。
は赤司が主将になると同時にその方が円滑に事が運ぶだろうと、バスケ部のマネージャーのまとめ役になり、2年、3年とそれを続けていた。彼女は精一杯の力で赤司を支えていたと思う。
だが、全中の決勝が終わってから、彼女は大きく変わったのだ。
洛山に行ってから、は赤司の言う勝利のために、重要な試合の統計に関しては行うが、明らかに洛山に負けるとわかっている相手や優勝経験のないところとの練習試合は見に行かなくなっていたし、常日頃のマネージャーとしての業務にも関わらない。
ただ本当に赤司の言うとおり、勝利のために統計を取るだけだ。
それを話すは淡々としていて、驚くほどに感情がなく、心底つまらなそうだった。実際に彼女は赤司のバスケを退屈な物としか思っていないのだろう。
「はバスケが好きですか?」
不安になって、黒子はミミズクと遊んでいるを見て、尋ねる。彼女は一瞬その元々丸い瞳をますます丸くしたが、それを柔らかく細める。
「うん、大好き、バスケするの楽しいもん。」
曇りなく、ふんわりと笑うその明るい表情を、きっと赤司も求めている。でも彼女が赤司のバスケを見てそうやって笑うことはない。それは何を勝利のために捨てたとしても、に焦がれる彼にとってきっと、悲しい現実だろう。
「そうですね。・・・僕は諦めません。」
黒子はミミズクと遊んでいるの頭をそっと撫でてから、その小さな頭を抱き寄せる。は笑って黒子に抱きついてきた。もしかするとは、桐皇に負けてしまった黒子が諦めていないか、確認しに来たのかも知れない。
は理想を自分で追い求めることがまだできない。だから、黒子が諦めていないか見に来たのだ。でも、いつまでも他力本願では、もいけない。
「だから、君もいつか僕と青峰君に、ちゃんとリベンジに来てください。」
少し低い声で言えば、抱きしめたの身体がぴくりと反応する。
帝光中学時代、いつも青峰と黒子、そしてと黄瀬は2on2をしていた。ほとんどと黄瀬は青峰たちに勝つことが出来ず、悔しいと思いながらもどうしようもなかった。いつしか青峰が練習に来なくなり、黄瀬も同じようにいなくなり、も赤司に言われて彼の隣にいるようになって、やめてしまった。
でも、そこに黒子は留まり続けた。
「・・・そっか、そうかもね、」
まだは納得したようではなかった。だが、少し考えるところがあるらしく、無理だとか、そう言った言葉は言わなかった。黄瀬はどうなんだろうか、とは考えたのだろう。
その答えを、黒子は知っている。だからにも思い出して欲しい。
「また来いよ。バスケしようぜ。今度はちゃんと教えろよ。」
火神は笑って、に言う。
インターハイが終わればはすぐに京都に帰らなければいけないから、簡単に会えるような距離ではない。それでも、火神にとってもとバスケをするのはとても楽しかった。
「うん。大我ちゃんと遊ぶの楽しいしね、」
はミミズクと一緒にころりと畳に転がった。ミミズクと一緒に大きな瞳を細めて遊ぶ姿は、本当に可愛い。ひとまずついでに黒子がそれも写メにおさめていると、早々メールの返信どころか着信があった。黄瀬からだ。
『っちと何やってるんっスかぁ!?ずるいっス!』
電話に出ればけたたましい声が響き渡る。
「黄瀬かよ。」
火神が心底嫌そうな顔で小さくぼやいた。黒子も黄瀬は随分とまめな男だなと思いながら、ふっと小さく息を吐く。
「今、はうちと秀徳の合宿に遊びに来てるんです。」
『赤司っち怒ってるっしょー。』
「みんな同じこと言うんだね。」
はミミズクにほおずりをしながら言う。
『それに黒子っち!縁起ものって件名はどうなんっすか!』
「縁起物じゃないですか。座敷童とフクロウ。君のためですよ。」
黒子は静かな声で答えた。だがそこには強い意志が内包していて、黒子が明日の試合のことを知っているということを示している。
はころりと転がった。自分が何を待っているのか、は徐々に気づき始めていた。
Aussr dir libe ich.貴方以外を愛してる