「っ、」
の表情が僅かに苦しそうに歪む。
「痛いのか?」
赤司は彼女と自分がつながっている部分を確認するように指でそっと撫でた。
「あっ、う、」
ぴくりとそれに反応して、中が赤司の物をぎちっとかみしめる。
血は出ていないし、濡れていたが、限界まで開ききったそこはそれ以上の余裕はなさそうで、苦しいほどに赤司を締め付ける。ちゃんと濡れているのできつい締め付けは赤司にとって快楽を与える物で、問題はないが、彼女にとっては苦しいのだろう。
元々赤司は平均身長だが、彼女は150センチと小さい。中も浅く、何度しても慣れないのか、前戯は気持ちよさそうにするが、入れると辛そうな表情をする。
「くるしっ、あ、」
は縋るように潤んだ瞳を赤司に向けてくる。
絡めた彼女の左手は湿っていて、赤司の手をこれでもかと言うほど強く握りしめている。彼女が落ち着くように、顔を近づけて彼女の髪を撫でる。まっすぐで、肩までのさらさらした髪に指を絡めると、は少しだけ安心したようにとろりと潤んだ瞳を細めた。
それだけで、ぞくりとわき上がる支配欲と、高揚感。
「あ、あぅ、うぅ、」
中にある赤司が膨張したのを感じてか、はますます苦しそうに眉を寄せて、きつく目を閉じる。
「っ、力、抜けるか?」
「んっ、ん、」
赤司が声をかければ、彼女は苦しそうに呻いて首を振った。
中学時代、心が通じ合っていた頃はまだ、彼女はきついまでもちゃんと力を抜いて、赤司を受け入れていた。だが、高校に入って彼女は赤司に身を委ねるのが下手になった。昔なら赤司にすべてを任せ、縋り付いて耐えているだけだったのに、声を抑え、必死で顔を背けるようになった。
「、こっちを見ろ、」
涙に濡れたの頬に口づけて、耳たぶを軽くはむ。
「・・・やっ、」
耳まで赤くして、は首を振って視線をそらそうとする。
人は成長すれば変わっていく、彼女も少しだけ大人になって、服を脱いでするのを、躰を見られるのを恥じらうようになった。イく時の顔を見せたがらず、声も抑えようとする。全部見たいと願う赤司と、隠したいと思うは、何かがすれ違っているのかも知れない。
それでも、行為をしているときだけは、彼女を一番近くに感じられる。
が怖くないように抱きしめて少し躰を揺らすと、苦しそうにしていた理由はイきそうだったからのようで、目を見開いて赤司を押しのけようとした。
「だめ、だ、」
「ふぅっ、あ、あ、やだ、イちゃ、やっ、!」
ぽろぽろと涙をこぼして、片方の手でこぼれる嬌声を抑えようとする。だが赤司はその小さな彼女の口に自分の指を突っ込んで、軽く彼女の赤い舌を押した。
「ふっ、せ、せ」
くぐもった声を出して、舌がびくりと動く。
の感覚をゆっくりと追い詰めてやるように、腰を動かす。赤司としては快楽に結びついてもイくことはできない程度の戯れだが、あまり耐性のない彼女には十分だったらしく、首を振って、嫌がる。いつもイく前は怖いのか、拒否するのだ。
じらせば、イかせてくれと、ねだるのに。
「あ、ふっ、ああ!」
あっけなく躰を跳ねさせて彼女はイった。
見開かれた漆黒の瞳は一切飾らず、必死で赤司に縋ってくる。その支配しているとわかる瞬間が、赤司は好きだった。
彼女が言う“征くん”である自分が初めて抱いた時、自分の味方であることを証明しろと、に詰め寄った。ずるいやり方だったと知っている。紫原とやりあって、自分が入れ替わったあの日、彼女は赤司を受け入れる道を選んだ。彼女がそれから行為を拒んだことはない。
それは、まだ彼女が自分の味方でいると、傍にいると、示している。何故そのことを、赤司は忘れていたのだろう。
「、」
こうやって、彼女は自分に応えてくれる。積極的でないまでも、いつも拒んだりはしない。それは中学時代から全く変わっていない。
躰をびくりと震わせていた彼女は、目をゆっくりと開いて赤司を見上げる。その潤んだ瞳をいつも間近で見てきた。動かずを宥めるように頭を撫でていると、の手が赤司の頬に伸びてくる。手はまだイった余韻が抜けきれないのか、震えていた。
「征っ、くん、すきだよ、」
泣きそうな顔で、は赤司の髪を優しく撫でる。伸びてしまった前髪から見える彼女は、昔のように笑うことはないけれど、それでも赤司を思っている。
だが、その感情はもう一人の自分に向けていた“大好き”とは違う。
「あぁ、僕もだよ。」
疑ったり、嫉妬したり、傍におらず逃げられたりと、いろいろあるけれど結局、大切に思っているというのは、変わりない。赤司はが自分から離れていくのが怖すぎて、動けないくらいに彼女を心から大切に思っている。
彼女の濡れた唇に自分のそれを重ねた。彼女の躰を抱き込むと、びくりと彼女の躰は過敏の反応を返してくる。
「辛いの、か?」
イったばかりであまり早い動き方をすると、すぐにイってしまうだろうが、こちらもこの蛇の生殺しのような状態は厳しい。そう思って彼女の様子を窺うと、小さな手が自分の背中に回ったのがわかった。
「・・・征、ちゃ、も・・・?」
苦しそうにが名前を呼ぶ。漆黒の瞳からぽたぽたと涙が落ちる。
それはしばらく聞かなかった自分に対する、そしてもう一人の自分に対する呼び方だった。辛くてたまらないと、自分の中に隠れてしまった、もう一人の自分は、多分今も赤司の中で、を大切に思い続けている。
結局の所どちらも赤司であり、とる手段は違えど根本的な感情は同じだ。
彼女はいつもふたりの赤司を明確に判別していながら、どちらがどちらと言うこともない。ただ赤司の傍にずっと居続けた。赤司征十郎という存在そのものを彼女は愛し、頼り、依存していて、どんな赤司でも受け入れる。例え赤司がどれほど酷いことを強いようとも。
思えば、彼女の悲しみは、もう、赤司が入れ替わった時から、始まっていたのかも知れない。
「辛いのは、っ、、だろう?」
赤司は自分が入っているの白い腹をその手で撫でる。
同じ物を共有している、だから、本当は彼が辛ければ、同時に今の赤司もその感情を抱えることになる。でもそれを知らないふりをする。
「はっ、あ、」
ぴくんとは赤司の手に反応して、僅かに苦しそうに眉を寄せ、息を吐いた。少しだけ躰から力が抜ける。それを見計らって少し奥へと入り込むと、はびくっと躰を震わせて、熱っぽい息を吐く。少し息が整ったらしい。
ゆっくりと徐々に彼女の中の自分を動かす。
「うっは、あ、征、く、まっ、」
敏感になっているのか苦しそうだったが、上あたりにすりつけるように動くと、イく前のように、ぴくんと太ももが揺れて、怯えた目がこちらを捉えた。中もひくりと痙攣する。
赤司は思わず唇の端をつり上げて、の目を見て笑う。
「、中がいいの、か?」
今までは前戯や花芽でイけても、中ではいけなかった。だから大抵赤司はそこをいじってイかせていたし、ある程度高めてやれば、痛みも含めて刺激があればイくので、それに頼っていたが、どうやら慣れてきて、中でも感じられるようになっていたらしい。
道理で最近しまりがよく、身を委ねるのが下手になったわけだ。信用していないとか、そういうわけでなく、快楽に負けるから、どうしても躰から力が抜けなかったのだ。
「せ、い、いや、怖、」
イく前に怖がるのと同じように、は首をふって、赤司の肩を力の入っていない手で押す。
「僕も、だよ、」
耳元で囁いて、彼女の躰に溺れる。彼女の悲鳴が耳元で響き、背中にまわされた爪が僅かな痛みを赤司に与えるが、そんなこと気にならない。
多分、一番が離れていくのに怯えているのは、赤司だ。
Eine weite Entfernung 遠い距離