赤司はの意志など、ほぼ確認しなくなっていた。


「っ、舌をつかって、」



 座っている赤司の足の間に座って、彼の物を慰めているが、苦しそうに眉を寄せたまま、その大きく潤んだ瞳を赤司に向ける。それにぞくりとした高揚感を覚え、目尻にたまった涙を拭ってやりながら、唇の端をつり上げる。

 赤司がを力で支配してから、赤司は彼女に対して遠慮をしなくなった。

 の持っていたスマートフォンを取り上げ、赤司が契約した自分と数人の洛山のレギュラーとの連絡先しか入っていないガラゲーを渡してある。おかげでが他の男、特にキセキの世代と連絡を取り合うことはなくなり、赤司の嫉妬は完全に軽減された。

 とはいえ、何もかもが良いわけではない。



「うっ、んっ、」、




 の頭を押さえると、彼女は苦しそうに呻く。だが、歯を立てたりはしない。

 この間少し歯を立てた時に赤司が彼女の首を血が出るまで噛んだからだ。痛みを恐れる彼女は今までにないほど赤司の顔色を窺っている。



 元もとは器用なタイプではない。そのためよく無意識のうちに赤司の苛立ちを煽る。今まではそれについて赤司が我慢をし、何も言わなかったが、今は赤司も我慢せず、に痛みを与える。それを理解しているため、怯えているのだ。



、」



 頭を撫でると、一瞬はびくりとする。手を上げたことはないが、首を締め上げたことはあるので、それに怯えているのかもしれない。



「本当、はっ、玲央と、おまえを、見て、る、のも、嫌なんだけどっ、ね。」




 彼女に言うと、びくっとの身体が震え、それとともにがのど元をしめる。それは赤司のものを締め付け、直接的な快楽に結びつき、愉悦に赤司は表情を歪めた。自然との頭を押さえる手に力がこもり、かふっと彼女が苦しそうに咳をしようとしたが、赤司が押さえているため口を離すことは出来ない。

 に口淫を強いたことは今までになかった。自分で入れさせたこともない。恥じらいはわかるが、こういう行為はよほど愛情がない限り出来る物ではない。もしくは、脅すか、だ。



「そ、裏も、良い、子だ、、」



 情けなく息が上がる。だが彼女はもっと余裕がないのか、彼のものを苦しそうに口にふくみ、舌で包みながら、ぽろぽろと涙をこぼす。

 その乱れきった表情が酷く加虐心を煽る。



「っ、、」



 顔を見られたくはなかったため、赤司は俯き、ぐっとの頭を抱き込むようにして自分の精をの口にはき出す。だが結果的にのど元まで赤司の陰茎をくわえ込むことになった彼女は頭を押さえられたためどうしようもなく、くぐもった声を上げた。



「はっ、」



 息を吐き、自分を落ち着けるように深く息を吸っての頭から手を離す。途端には咳き込んで口を覆い、飲み込みきれなかった精液が手の間からあふれる。それを見て、ベッドサイドのテーブルにあったティッシュをに渡した。

 彼女は自分の口元と手を拭うと、潤んだ瞳を赤司に向けた。



「・・・きもち?」



 酷くつたない、掠れた高い声音で彼女は問うてくる。それが何を問うているのか一瞬赤司はよくわからなかったが、あぁ、と思い当たった。


「うん、良かったよ、」



 そっと彼女の肩までに切りそろえられた頭を撫でる。彼女は嬉しそうな、悲しそうな、何とも言えない顔で笑った。それは安堵したようでもあった。

 は昔のように無邪気には笑ってくれなくなった。幼げな容姿に浮かぶその諦めたような、悲しそうな笑みは酷く儚げで、今にも消えてしまいそうに見える。白い肌には赤司がつけた咬み痕や、痣がたくさんあり、掴めば折れてしまえそうな程、腕は細い。

 その腕をとって、赤司はをベッドに引き上げた。



、」



 彼女の身体を組み敷くと、が怯えた表情のまま、覚悟を決めたようにぐっと歯をかみしめ、一つ大きく頷く。赤司の心労は減ったけれど、前のように穏やかに身をゆだねてくれることはない。行為をしていても、笑いあったり、愛情を確かめ合うこともない。

 いつも一方的に彼女のことが好きだとばかり思っていたが、今考えてみれば彼女はいつもちゃんと赤司に応えてくれていた気がする。流されるままに抱かれていると思っていたが、好きだと言えばちゃんと好きだと返してくれたし、自分から口づけてくれることもあった。

 今は命令しなくては彼女がそういったことをしてくれることはなく、酷くそれが空しい気持ちにさせる。

 彼女が赤司を責めたことはない。起きたばかりの時のように泣きじゃくることもない。赤司から逃げ回ることもなくなり、携帯電話のことも、何もかも、他人に助けを求めたり、不満を漏らすこともない。だが同時に元気もなくなった。赤司に怯えるようになった。

 少なくとも赤司の望むような恋愛としての愛でなくても、は赤司に愛情を抱いていたし、信頼していた。結局の所、赤司は身体を手に入れたが、彼女からの信頼をぶちこわし、今となっては愛情すらも彼女の中に残っているのかわからない。



「・・・」



 見下ろすの漆黒の瞳は、まるで赤司がこれから歩む道であるかのように真っ暗だ。光がなく、ただ悲しみの色ばかりが目立つ。



、」



 そっと、怖がらせないように頬に手を当てるが、彼女はびくっと一瞬目をつぶった。赤司の中に宿っていた熱が消えていく。

 赤司はそのままの隣に身を横たえた。は少し驚いた、それでいて安堵した表情で隣に転がった赤司の方を向く。戸惑いを宿す瞳を慰めるようにそっと彼女の髪を撫でて、その身体を自分の方へと抱き寄せた。

 前のように彼女の身体からすぐに力が抜けることはない。小さく震えて、いつ赤司の機嫌が変わるのかと怯えている。



「今日はもうしない。」



 赤司が口に出して言うと、彼女はやっと安心できたのか、少しだけ身体の力を抜いた。



「ねえ、征くん、」

「ん?」

「戸院先輩のことなんだけど、」



 不安そうに目尻を下げて、言いにくそうにたどたどしく言う。




「なんだ。」

「・・・退学なるの?」

「当たり前だろう。前にも言ったはずだ。」




 赤司としては戸院のことを仮に退学にならなくても、退学にするために追い込む気だった。

 彼女は生徒会長で、元々赤司にとって邪魔だったし、何よりもにどういう形であれ手を上げたのが許せない。被害者のがなんと言おうと、は頭に縫うほどの怪我を負ったのだ。赤司はに対する加害者を誰であっても許す気は全くなかった。

 それににも、力がありながらそれを行使する方法を知らないが、赤司の言うことを聞かず、迂闊に動くことで人間一人の運命をたやすく破滅に追い込むことがあると言うことを、理解し、二度と同じような過ちを繰り返して欲しくなかった。

 だからこそ、ここで戸院には消えてもらう。それが赤司の出した安易な結論だった。



「ねえ、征くん、・・・お願いだよ、どうにか、」



 は罪悪感でいっぱいなのか、赤司に縋り付く。



「駄目だ。ここでおまえに答えてもらわねば意味がない。」



 何も赤司が戸院を退学に追い込むのは、自分のためだけではない。の理解のためでもある。ここで彼女の“自分で出来るかもしれない。”という自信を壊しておかなければ、また彼女は同じことを自分の力で繰り返す。

 が目尻を下げればやはり同じように心は痛むが、今回はその感情にほだされる気はなかった。



、おまえは僕の言うことを聞いていれば良い。」



 赤司はの細い身体を抱きしめる。

 ずっとこの細い身体を守ってきたのは自分だ。はいつも赤司に守られていなければならない存在で、同時に自分の隣にあって温もりを与え続けてくれた。だからこれからも、そうでなければならない。赤司が呼吸をするために、何よりも必要な存在なのだから。



「僕に従っていれば、間違いなんてない。」



 赤司はの耳元で囁いて、の心のすべてを捕らえていく。

 自分ばかりが彼女に囚われ、依存しきっているなど、不公平だ。彼女も依存して、求めるべきなのだ。赤司征十郎という存在を。

 ただは、赤司が願うほど力のない存在ではないし、大人しくもなかった。

in die Nacht 夜の中で