目を開けたら見慣れない天井があることに、少しずつだが慣れてきた。

 ベッドの近くにある窓からは既にさんさんと太陽の光が降り注いでいて、ちゅんちゅんと朝から元気な鳥がけたたましく鳴いている。

 だるい体を起こし、ふわぁっと大きく欠伸をし、腕をくるくると回してから、水色の珍しい色合いの髪を掻き上げる。そして目を擦りながら辺りを見回すと、ベッドの下に敷かれた布団に黄色の頭が見えた。





「…なるとー、起きないと怒られるよ。」






 は彼に声をかける。

 確か今日の任務は10時からだったはずだ。ぼんやりとした意識ながらも隣の時計を見ると、既に9時半だ。目覚まし時計は昨日彼が自ら9時にセットしていたが、どうやら自分で止めたらしい。





「ねー、なると、起きて…」





 眠たいながらもベッドの下に降りて、ゆっさゆっさと彼を揺する。





「うー…」

「うーじゃない…おきなきゃだめー」





 ナルトはもぞもぞ動くんだけで、まったく起きる気配がない。

 炎一族邸の敷地内にあるこの建物は、少し木の葉の里から遠く、今から用意をしても間違いなく遅刻すれすれ、しかも40分には隣に住んでいるサスケが彼を迎えに来るはずだ。

 一応昨晩ナルトに眠っていたら起こしてくれと言われていたは、自分も眠いながらも自分の枕でばんばんとナルトの頭を叩く。





「なんだってばよ…、…便所か?」





 寝ぼけているナルトはぽんぽんとをあやすように膝を叩く。トイレに一緒に行ってと泣いたのなんて、一体いつの話なのだ。

 ましてや既に日は出ており、明るい。





「おきて、時間。」





 なんだか眠いこともあって段々苛々してきたは、眉を寄せてもう一度ばしっと枕でナルトを叩く。途端に近くにあったカエルクッションが顔に飛んできた。





「…うるさいってばよ…」





 寝ぼけているナルトは布団にもう一度ごそごそと潜り込む。

 ぽろりとカエルクッションが膝の上に落ちてきたは、すっきり目も覚め、苛立ち紛れにぎゅっと膝の上で拳を握りしめる。




「死ねーーーーーーーーーーー!!」




 の絶叫とともに、次の瞬間爆音がとどろいた。























 ナルトの部屋を訪れたサスケは目の前の光景に首を傾げる。




「なんでこんなことになったんだ?」

「し、死ぬかと思った。」

「だから、なんでそうなったかって聞いてんだよ。」





 欠伸をかみ殺しながら、サスケがテンションの低い静かな声音で問うと、ナルトはなんとか大量の氷の中から這い出て寝間着姿のままため息をつく。

 布団は上から降って来た大量の氷の丸い塊だらけで、早くのけなければとけて布団が水浸しになるだろう。





「起こしてって言ったから、起こしたのに、カエルクッション投げてきたんだけど、あり得なくない!?」





 代わりには怒りに頬を真っ赤にしてサスケに主張する。




「あり得ないが、ナルトなら十分に考えられるな。」





 サスケは眠たそうに口元を押さえながら、朝からテンションの高い、若々しいから目をそらす。

 ナルトとは長いつきあいで、だらしないところや時間にルーズなところも承知している。だからこうして迎えに来ているのだ。





「おまえも早く炎一族邸に行けよ。」





 サスケはついでににも声をかける。

 同じ敷地内に一応預かりという立場のだ。しかも水影の養女である限り、木の葉の里で何かあっては困る。そのため基本的には結界も貼られ、安全で、神の系譜である炎の屋敷が一番滞在先としては適任だと思われている。

 ところが現在、炎一族邸に住まっているサスケの兄一家はいつの間にか子どもが増え、兄夫婦に子供4人の計六人、それに祖父母、曾祖母も付け加えれば9人の大所帯だ。昼は上の子どもたちは任務や学校に出かけるため人も減るが、夜は気兼ねもあって、はナルトの部屋に身を寄せている。




「わかってるよ。退屈−。」

「今日は稜智が休みだから買い物に連れてってくれるらしいぞ。」

「何それ。稜智より絶対に私の方が強いのに。」

「そうでもないだろ。あいつはなかなかだぞ。」





 サスケは甥っ子をあっさりとそう評する。

 兄の四人の子どもたちの中で、神の系譜としての力を受け継いでいるのは二人だけ。長男の稜智と、次男の因幡だ。基本的に力を次世代に繋げるのは白炎使いは一系統だけ。次男の因幡は種なしと言われる一代限りの神の系譜だ。

 それぞれ子どもたちは個性的だが、能力的にやはり長男の稜智が一番強い血継限界を受け継いでおり、またチャクラも他の子どもたちの2倍はある。また母親と同じくその身に鳳凰を宿して生まれてきている、神の系譜の中でも特別な先祖返りだ。

 年齢を加味したとしても種なしであるが、本当の神の系譜であり、先祖返りの稜智以上の力を持っているとは思えない。だからこそ、稜智とともにならの外出許可が出たのだ。





「ひとまず稜智から離れるようなマネはするなよ。」

「サスケはうるさいなぁ。わかってるわよ。」




 口うるさいサスケに悪態をついて、はカエルのクッションを抱きしめる。

 いつもサスケは自分に対して正論を言う。それが今のには心に突き刺さるようで、痛くてたまらなかった。わかっているのだ、だって。それでも納得出来ないものがあるからここにいる。

 だが、そんなの様子に眠たいサスケは全く気づかず、ナルトをせかす。




「ひとまず、ナルト。とっとと用意をしてくれ。俺がサクラにどやされるだろ。」

「今日の隊長はサクラちゃんなのか?」

だ。だがどうせはサクラを止めない。どっちでも一緒だ。」



 面倒臭そうにサスケはナルトを見て、手をひらひらさせてナルトをせかす。

 サクラと姉妹弟子で彼女の暴力にも慣れて死まっっているは、ほとんどサクラを止めない。死にかけなければ放って置くだろう。そんなこと期待するよりは早く用意をして遅刻しないことを優先させるべきだ。




、おまえ、ちゃんと飯食えよ。」





 ナルトは用意をしながら、自分は朝食を食べる時間もないのに、の頭をぽんぽんと軽く叩いて言う。





「ナルトだって食べてないじゃない。うるさいなぁ。子ども扱いして。」

「おまえ、子どもだろ。」

「もうすぐ16なんだから、子どもじゃないわよ。」 





 ナルトの手を払いのけ、はベッドに戻る。

 その隣でナルトとサスケは話しながら、今日の任務の用意を始めた。二人は幼なじみ同士で、誰が聞いても分かるほどの親友で、文句を言いながらもサスケはナルトを頼っているし、ナルトもサスケを頼っているという。





「良いわよね。」

「何がだってばよ。」

「…別に」




 は素っ気なく答えて、大きなため息をついて布団に潜り込む。





「おまえ、俺の言ったこと覚えてるか?」





 サスケは二度寝の体勢に入ったに呆れたように言う。





「はいはい。炎一族邸に行けって話でしょ。」




 それは聞いた、と適当に返して、枕に顔を埋めた。サスケのため息が後ろから響いてくる。




「なんだ?おまえご機嫌斜めだな?どうしたってばよ?」

「うるさい。」

が冷たい…前はナルトナルトって来てくれたのに…」

「いつの話よ。」





 そんなのかれこれもう5年近く前の話だ。ここ数年任務が忙しくて木の葉隠れに来ることはなく、来たとしても水影とともに少しの間だけで、ナルトとも少ししか会話をする時間がなかったのだから、もう随分前の話だ。





「そうだっけ?ま、ゆっくりしてろよ。」





 の逡巡もお構いなしに、ナルトはくしゃくしゃと珍しい色合いのの髪を撫でてから、出かけていった。








平穏たる日常