ナルトはを連れて木の葉の里を案内するのが楽しくてたまらなかった。

 忍耐大戦後は水影の養女となったと同時に彼女は霧隠れで育てられることになったため、木の葉隠れに来ても水影と一緒で、なかなか気軽に出かけることは出来なかった。

 ナルトに懐いてくれていたのは変わりなかったが、水影の手前もあり早早簡単に連れ出すことも出来ず、何となく歯がゆい時もあったし、気軽に食べ歩きなんて事は絶対に出来ない。それを少し不満にいつも思っていた。

 だから、こうやって二人でいろいろ遊びに行けたりするのは嬉しい。

 が家出をして、ナルトの部屋に泊まることに同意した時も、ナルトはすごく嬉しかった。年齢を重ねてもやっぱり彼女は自分を慕ってくれていて、生意気を言っていてもやっぱり自分を頼ってくれる。それが小躍りしたくなるほどに嬉しかったのだ。

 はいつも自分が人柱力なんて欠片も知らないし、里の英雄なんて事もよく分かっていない。それでもいつもナルトを慕ってくれる。ナルトが一番良いと笑ってくれる。

 それが、嬉しくてたまらなかった。




「本当に賑やかよね。」





 町並みを見て、は言う。

 随分と背が伸びたのか、彼女の背はナルトの肩当たりまであって水色の珍しい色合いの髪が風にふわふわと揺れている。柔らかくて少しくせのある髪は肩当たりまでしかない。

 前見たのはかれこれもう1年くらい前に霧隠れを訪れた時だから、随分と大人になった。




「何よ。」




 じっとナルトが見ていたのがいけなかったのだろう。大きな濃い青色の瞳がじっと不満そうにナルトを見上げていた。つり上がった目じりは彼女の気の強さを表している。

 だが、彼女が本当は決して強くないことを、何となくナルトはよく知っていた。




「なんでもないってばよ。」

「嘘ばっかり髪の色が変だとでも思ったんでしょ。」




 唇を尖らせて、むっとして彼女は言う。どうやらナルトが髪の毛を見ていると思ったらしい。は自分の髪を隠すようにフードを被った。





「何してるんだってばよ。」





 ナルトは突然そんなことを言い出したに首を傾げつつ、後ろからそのフードをとる。





「な、何すんのよ!」

「綺麗な髪なのに隠すなよ。」

「嘘つき!」





 は怒ったようにナルトを睨み付けた。真っ向からつり上がった青色の瞳に見つめられ、ナルトは小首を傾げる。

 綺麗な髪だと言ったのは、心からナルトの本心だ。

 確かに珍しい色合いだが、とても綺麗な髪だと思う。冬の高くて透き通った薄い色合いの空と同じ、水色。癖毛だが柔らかくてふわふわしていて、とても綺麗だ。




「なんで、そう思うんだってばよ?」




 怒られたような気持ちになって、途方に暮れて問うと、はふんっとそっぽを向いた。





「だって、みんな気持ち悪いって言うわ。」

「みんな?」

「そう、みんな!」




 霧隠れでの話なのだろうか、気持ち悪いはどう考えても髪の色に対して漏らす感想としては相応しくない。だが、はそれを誰かから言われたのだろう。

 ぐっと唇を噛んで一瞬俯いたが、彼女は早足で歩き出した。





「誰が、言ったんだよ、そんなこと。」

「…」






 ナルトが尋ねても彼女は無言だ。

 最後に会った時、彼女はナルトが木の葉隠れに帰ると聞いてぐずぐず泣いていた。いつもそうだ。彼女はよく笑うし気も強いがよく泣いていた。 

 なのに、今はまったく泣かない。何かあったからここに来たのだろう。なのに、何も言わない。泣かない。




 ―――――――――――――――姉、なんか暗くて今回きもいよ。





 そう言っていたのはイタチの次男の因幡だ。今年で6歳の彼は人の感情を驚くほど言い当てたり、相手の顔を見るだけでイエス、ノーの答えを当てたりとなかなか鋭い。

 母方の一族で、劣性遺伝で予言や遠見で有名だった蒼一族の血継限界を持つほど蒼の血が濃く、予言などもこれからするのではないかと言われるほどだ。



 ―――――――――――――――姉、つぶれちゃうかもなぁ。ってかもう折れちゃってるかも




 因幡はナルトの前であっさりと呟いていた。

 何故と聞いても自分の中で納得した理由があるが、それを言葉には出来ないらしく、「なんとなく」と言っていた。とはいえ、彼の何となくは90%以上当たっているので、真実と扱っても大抵問題無い。要するに彼なりにに気をつけて見ていないと駄目だとナルトに忠告していたのだろう。

 つぶれるとはどういう意味なのだろうか。

 を預かると決めたも、そのことについて何か感づいたから、彼女を預かるために綱手や水影を説得したのだろう。




「…綺麗なのに。」




 ナルトは太陽に透ける水色の髪をぼんやりと眺めた。少し前より背が伸びたし、大人っぽくはなったが何も変わっていないように見える意地っ張りなの、何が変わったのだろうか。





「なあ、なんでおまえ、木の葉に来たんだってばよ。」





 ナルトは一番疑問に思っていた言葉をにぶつける。の肩がびくりと揺れて、足を止めた。





「き、来ちゃ駄目なの?」





 彼女の声が僅かに震えていて、いつもの強さや張りはあるのに、弱々しい。





「違うってばよ、ただ。」

「じゃあ良いじゃない、」





 彼女は叫んでナルトを振り返った。その濃い青色の瞳が、ゆらゆらと水をたたえて揺れている。それがもう聞くなと言外に言っていた。





「わかった。」





 ナルトもすでに25歳を超えた男だ。を追い詰めて聞きたいわけでは無いし、年齢を経てやはり昔のような勢いだけではなく、分別も出来た。

 聞かない代わりに、ナルトはの細い手を掴む。





「え、ちょ、」

「一楽行こうぜ。俺のお気に入りの店なんだ、おまえ行ったことなかっただろ。」





 いつもが木の葉にやってくる時は養母である水影のメイと一緒で、あまり気軽に外に出ることは出来なかったはずだ。だからラーメン屋の一楽に行ったことも一度もなかった。





「ラーメン?美味しいの?」





 は少し戸惑うようなそぶりを見せたが、いつものように強気で問う。





「めっちゃうまい。」





 ラーメンなら一楽が一番だ。

 ラーメン好きのナルトはせっせと各国のラーメンを食べ歩いた。確かにこってりとしていて美味しいラーメン屋などはあったが、それでもやはりいつ食べても飽きないのは一楽のラーメンだけだ。




「ナルトの味覚って当てになるの?」

「なる!ラーメンに関しては一楽が一番だってばよ!」





 自信を持って言うと、は呆れた視線をナルトに向けたが、ぎゅっと手を握り替えしてきた。





「ふぅん。じゃあ、ナルトの味覚がおかしくないか、私が試してあげる。」

「おまえ、言うに事欠いて。しっかたねぇな。」





 いつもの調子が戻ってきた彼女にほっとして、ナルトはちらりと道の向こうを見やる。

 通りの向こうの道を沢山の人々が埋め尽くしており、その中央を人が通っている。彼女は気づいていないが、それが彼女の養母である水影のメイとその従者たちだと、ナルトは知っていた。



明けない夢がほしい