がナルトとともに青白宮に会いに行ったのは、木の葉に来てから少したった頃だった。
青白宮は火の国の神の系譜、炎一族の現在の宗主・蒼雪の異母兄にあたり、次世代に力をつなぐ能力のない、と同じ“種なし”だ。もうすでに40過ぎた彼に、はどうしても聞きたいことがあって、仲が良いというナルトを通じて会えるかどうか聞いてもらったのだ。
彼は里の忍として働いてはいないが、炎一族の集落の片端で薬師として、この葉隠れの里、炎一族両方から信頼を勝ち得ている。
「大きくなったね。」
忍界大戦の時に一度を見ている青白宮は、その灰青色の瞳を細めてとナルトを迎えた。
少し波打った柔らかそうな銀色の髪に、切れ長の灰青色の瞳。美形と言っても良いほど整った顔立ちから、若い頃は随分ともてただろうと思う。彼は40を過ぎても魅力的な容姿をしていた。
「久しぶりだってばよ。あ。これからお土産、」
ナルトはから頼まれた土産を彼に渡す。
「あぁ、あの子は律儀だね。気にしなくて良いのに。」
青白宮は異母妹である炎一族の宗主・蒼雪との仲もよく、当然のその娘であり、次期東宮のとも頻繁に行き来がある。大人になってから会う機会も減ったが、それでも一族の会議などでは顔を合わすし、子供ができてからは、子供の成長の折々に連絡を取り、祝いを取り交わしている。
「入って入って、多分おはぎだと思うから、お茶にしよう。」
青白宮は明るく奇策に笑ってナルトとを家に招き入れた。
家は4部屋ある完全な書院造りの和風家屋で、一人で住むには広い。質素な調度品は綺麗に片付けられていたが、棚には薬師だけあってたくさんの薬の引き出しがあって、職業を示している。
「待っててね。」
彼はすぐに奥へと消えていき、お茶を持ってきた。どうやら用意していてくれたらしい。用意された座布団の上にとナルトが腰を下ろすと、彼はおはぎを二人の前に置いた。
「最近がおはぎを作れるようになったらしいんだけど、ちょっと形がいびつだね。」
いくつか置かれているおはぎは、所々白いご飯が中から見えているものもある。もちろんうまくいっているものもあるが、あまりにまばらで手作りだとすぐにわかる品だった。
「・・・、かなりぶきっちょだって、サスケが言ってたってばよ。」
ナルトは苦笑しながら、おはぎのお皿を持ち上げた。
同じ班の親友でもある炎一族の東宮・は、幼い頃から少しのんびりした少女だったが、実家が名門で家事をしたことがなかったせいか、料理などは全くできなかった。そのため恋人のイタチと同棲していた時はかなり苦労したらしい。
最初の子供の出産で体調を崩してからは実家に帰り、専業主婦をしていたが、実家には侍女もいるし、家事をする必要性はなかった。だが、長男、次男、長女、三男と次々と子供を産んだ彼女は、最近長女が年頃になって料理に興味を持ち始めたため、一緒に作るようになったそうだ。
危なっかしいを一番心配しているのは、義弟となってしまったサスケだ。物事を理路整然としたいタイプのサスケは、の危うさにいらだつ事も多いらしく、よくナルトに愚痴っていた。
「サスケ君は随分真面目に甥っ子たちの面倒を見ているらしいね。」
青白宮も少し肩をすくめた。
任務に忙しいイタチとのんびりした兄嫁・のかわりに、サスケは甥姪の世話をよく見ているらしい。長男は手がかからないとはいえ四人もいれば喧嘩は多いし、収拾がつかないこともよくある。トラブルも多い。
留守にしがちなイタチやのんびりしすぎて話にならないの代わりに問題に対処するのはいつもサスケだった。
「がのんびりしているから、サスケ君とイタチ君がしっかりしていて、ちょうどくらいかな。」
柔らかく目を細める青白宮からは、確かな姪御への愛情が感じられる。穏やかな愛情を抱く彼に、はどうしても聞きたいことがあって、ここに来た。
「・・・貴方は姉のことをどう思ってますか?」
が率直に尋ねると、彼は少し驚いた顔をしたが、迷いなく答える。
「どうって、可愛いよ。」
さらりとした短い答えからもやはり同じように愛情がうかがえた。青白宮がを初めて抱いたのは赤子の時だが、未熟児として生まれた彼女を何があっても守ろうと思った。それが自分の役目だとすらも思ったものだ。その気持ちは今も変わっていない。
だが、それはの望む答えではなかったらしく、少し彼女は考えるそぶりを見せた。
「君が聞きたいのは、“種なし”であることをどう思うか、ということだろう?」
優しく問うと、は眼を丸くしたが、まさにその通りだったため、大きく頷いた。
神の系譜の中で、“直系”と呼ばれる人間は、莫大なチャクラとなかなか死なない肉体を持って生まれてくる。その能力を受け継ぐことができるのはたくさん子供がいたとしても一系統のみだ。しかしたまに、兄弟ふたりが力を持つことがある。そういう時も、結局どちらかが本当の“直系”であり、どちらかは“種なし”と呼ばれる、能力を子供たちに受け継がせることのできない人間と言うことになる。
種なしは一般的に苦難の時代に、本来の“直系”を守るために生まれてくると言われる。要するに種なしが力を持つのは、直系の盾となるためなのだ。実際に種なしが直系以上の力を持って生まれることはない。
出来損ない、他人のために盾となるために生まれた自分を、どう思うのか。
「なんで、自分じゃなかったんだろうって、思ったことはある。恨んだことも、あるよ。」
青白宮はにっこりと笑って、そう言った。
なぜ自分では駄目だったのだろうか、直径にはなれなかったのだろうかと、考えたことはある。幼い頃は“直系”である異母妹を憎んだ。青白宮の母は側室、異母妹の母は正妻であったからなおさらだ。兄として無邪気に自分になついてくる妹を、むげに扱ったこともある。
「でもね、孤独は一緒だったし、つらさも結局一緒だったから、年とともに納得した。」
一族の中での扱いは、確かに後継者であるという点で異母妹は重く扱われたが、それは青白宮もそれほど代わりのあるものではなかった。力故に同じように腫れ物を扱うようだった。妹が自分が感じていた孤独を同じように感じていると知った時、青白宮の憎しみはいつの間にか溶けた。
無邪気に自分を同じ存在として慕ってくる妹の手は、自分と同じように温かかった。
「・・・それに、自分は、自分でしかないから。」
一つだけ、一つだけ青白宮にとって異母妹より優れた点があるとすれば、それは母親だった。身分の低い側室だった母は、青白宮を産んでも、別に後継者として育てることもなく、質素な生活を心がけ、高望みしなかった。
正妻が異母妹に後継者としての振る舞いを強く常に求めていたのと対照的に、青白宮の母がいつも彼に願ったのは彼が彼らしくいることだけだった。愛情はふんだんに与えられたが、社会的な強制は何もなく、抱きしめてくれる母がいつもいた。
だから周りの言うことも気にせずにいられたし、劣等感も抱かなかった。自分の価値を信じることができた。
「一番大事なのは、君が君を認めることだよ。」
青白宮はがたくさんのことで悩み、行き詰まっていることをどこかで知っていた。だが、その答えを与えることは青白宮にはできない。何より大事なことは、自分が自分を認めることだと知っているからだ。
そうすれば、他人に何を言われようが、自分を信じることができる。
「・・・どうやったら、自分を、認められますか?」
は途方に暮れたようなつかれた声音で、問うた。それはまだ16歳のが出すにはあまりに掠れて道をなくしたようなつぶやきだった。
「それは、自分で探すしかないんだよ。」
青白宮は哀れむようにそう言って、自分で入れたお茶をすする。
ナルトは話がよくわからずにぼんやりと茶飲みの中の緑色の液体を眺めていたが、茶柱がゆっくり沈んでいくのが見えた。
ない未来を見つめる