本当はこのままではいけないと知っていたけれど、やっぱりどうしても彼ら好意に頼る以外、どうしようもなかった。




「おまえ、まだいるのか。」





 サスケはナルトの部屋のドアを開き、呆れたような目をに向ける。

 ナルトは爆睡で、馬鹿面を晒してベッドからずり落ちた体勢のまままだ眠っていた。対してはせっせと動いて朝ご飯を作っている。

 先日までナルトは地べたに敷かれた布団、家主に変わってがベットを占領していたはずだ。

 なのに今日はナルトがベッドで眠っていたと言うことなのか、もしくは男女関係を示すものを想像し、それとどうしてもナルトの馬鹿面が釣り合わず、サスケは思わず眉を寄せる。




「…いちゃ悪いの?」




 はむっとして、文句を言ってくる彼を睨んだ。

 いつもの調子で睨んだつもりだったけれど、自信はない。やっぱりナルトも迷惑だと思っているだろうか、大好きだと、迷惑ではないと言って貰ったけれど、自信がなくて、思わず目じりを下げると、それに気づいた彼は少し慌てたように早口に言って目をそらした。




「ナルトが認めてるんだから、良いけどな…。」




 サスケとしても、別にを疎んでいるわけではない。

 ましてやナルトだって良い大人で、彼の借りている部屋で何をしようが、誰を泊めようがナルトの勝手だ。それをサスケがとやかく言う権利はない。

 こういう宙ぶらりんな関係は決して良いものではないし、ナルトの女性関係には迷惑をかけられっぱなしだが、それも自己責任で、サスケが見ていられなくて助けているのだ。面倒ごとが起こっても、放って置けば良い。

 だがどうしてもサスケはナルトの馬鹿さ加減を思えば、放って置くことが出来なかった。




「ナルトが好きなのか?」

「大好きだよ。だって、ナルトは優しいもん。」




 はあっさりと答えたが、それはサスケの望む答えでは全くない。





「そういう意味じゃない。恋愛的な意味合いで聞いてるんだ。」





 もうナルトがを泊め始めてかれこれ2週間となる。どうしてもが水影の養女であり、水影がわざわざ霧隠れから来訪したことで噂は大きくなっている。





「わ、わかんないよ!そんなの!」





 にはまだ恋愛的なことはさっぱり分からない。

 ナルトが好きなのは事実だし、昔から懐いて抱きついたりしていたが、それが恋愛的なことなのかと聞かれれば、何もわからないし、経験もない。ただ単に今はナルトの傍にいるのが一番安心できて、ただ傍にいたいだけだった。




「別におまえが悪いって言ってるんじゃない。思いあってるなら別に悪くない。だが、そうじゃないなら、ナルトが困る。」




 ナルトはもう27歳で、しかも男だ。16歳の女を囲っているとなれば、醜聞にもなる。ましてや相手が水影の養女となれば、ただ遊んだではすまない。里同士の問題になる可能性もある。

 本気ならばまだしも、火遊びには互いのバックグラウンドが重たすぎる。




「…じゃあ、本気で良い。」

「そういう問題じゃない。」

「じゃあ、どうしろって…!」





 が声を荒げた途端、眠っていたナルトがむくりと起き上がった。





「…朝からなんだってばよ…?」





 目元を擦って、もう大人だというのに随分とぼやけた声で言う。それを聞いて、思わずとサスケは口を噤んだ。




「なんでもない。それより早く用意しろ。任務だぞ。」

「えーー、まだ早いじゃん。」

「早くない。あと20分だ。」

「はいはいー」




 ナルトはやる気もなさそうに着替え始める。

 それをため息をついて確認してから、サスケがちらりとを見やると、彼女は何となく自信無さそうに目を伏せていた。





「別に、俺はとナルトがおまえを預かってることについて悪いと思っているわけじゃない。」




 サスケはばつが悪くなって、思わず早口で言う。 

 確かにが炎一族邸、しいてはナルトの所にいると、確かに面倒ごとは増えるが、別にサスケ自身がそれを疎ましいと思っているわけではなかった。

 今となってはナルト、サイ、サスケ、そしてイタチの4人の子ども、の両親なども含めて、3世代同居の大家族だ。家族が多ければ小さな小競り合いが多く、子どもの兄弟喧嘩はもとよりトラブルも抱えることになる。

 面倒臭いと思いながらもその処理にはサスケも既に慣れていた。だから、がたったひとり増えたところで、別段疎ましいと思っているわけではない。




「…サスケってさぁ。損してるって言われない?




 は少し目じりをつり上げて、呆れたような口調で言う。



「…そうだな。」

「結構もナルトも無茶苦茶通すし、サスケもみーんな、二人に弱いよね。」




 イタチの妻、要するにサスケにとっては兄嫁に当たるも、そしてサスケの親友であるナルトも、性格のそれ程強いタイプではないが、無邪気に無茶を通してくる。それを現実的に処理するのはいつもサスケやイタチたちだ。

 特にふたりともサスケの同期であるため、尻ぬぐいは当然のことだった。




「仕方ないだろ。ナルトは火影候補様だし、は上層部の相談役だぞ。」




 サスケはため息をつく。

 里を抜けたという前科のあるサスケは、今は随分と丸くなったとは言え、やはり昇進は簡単ではない。は同期で一番に上忍に出世した優秀な忍で、とんとん拍子に昇進したし、ナルトはイレギュラーながら火影候補だ。

 地位も気合いも、無邪気なあのコンビに勝てない。




「おまえも年頃だから、色々考える事があるんだろう。」




 サスケは何も聞くこと無く、一つ頷いて息を吐いた。

 に、そしてナルトに会いに来た原因は、きっと彼女に思う所があるからだろう。15,6歳になれば、いろいろなことが見えるようになる。任務もより難しくなり、他人からの目も厳しくなる頃だ。単純に多感な時期でもある。

 両親を霧隠れの里に殺されているのに、霧隠れの里で仕えるには思う所があるだろう。




「だから、逃げてくるのも悪くないと思うぞ。」

「何それ。慰めてくれてるの?サスケって本当に変。」





 は小さく笑って、憎まれ口を叩いた。

 彼は確かにあまり感情を表情に出さないが、面倒見が結構良いことも知っている。誰よりも常識人で、なんだかんだいって破天荒なことをするナルトを常にフォローする側に回っている。甥姪の面倒もよく見ている。




「木の葉の人は、優しいよね。」

「そうか?」

「そうだよ。霧隠れは、冷たいよ。」




 は霧隠れで何も見つけられない。義母である水影の事もこないだの一件から避けている。





「そういえば、おまえの弟はどうしてるんだ。」

「…瀧は、次の水影になるって。」





 の弟・瀧は次の水影になるとどんなに他人から嫌な顔をされようが、奇異の眼差しを向けられようが霧隠れの忍に話しかけ、溶け込んでいる。

 アカデミーでも上手にやっていたのか友達も多い。

 だからこそ、姉であるが霧隠れで溶け込むことも出来ず、どうして良いか分からずにとどまり続けるのは、到底良いこととは思えなかった。




「…わたしどこに行けば良いのかな。」



 は小さく呟いてから、肩を落とした。

惨めな比較