が目を覚まし一応葬儀やそれに伴う儀式も終わり、しばらく炎一族邸に大人しく滞在していたが久々にナルトの家に泊まる事になったのは、中忍試験まであと一ヶ月という頃だった。一応中忍試験の準備などで忙しかったナルトとはあまりきちんと話しておらず、その日が久々に二人で過ごす日となった。
「・・・」
気まずい、あまりに重い雰囲気には悲鳴を上げたくなったが、口をへの字にして眉間に皺を寄せる。目の前でが作ったご飯を黙々と食べているナルトは少し怒っているようだった。
当たり前だ。
お互いに気持ちを確かめ合ったのに勝手に満足し、勝手に出て行き、勝手に死にかけたのだ。彼に何の相談もせず、自己完結したのだから、怒られても当然だ。それがわかっていたから黙っていたは、食べ終わったお茶碗から顔を上げる。
すると、ばっちりナルトと目が合ってしまった。
「なぁ、、」
「な、何?」
が戸惑っていると、彼はの手を掴んだ。
「一緒にいたいってのは、今だけじゃないから、」
「は?」
「ずっと、俺が生きてる限りだってばよ。だから、だからさ、」
勝手にどこにも行くなよ、言う彼の手は震えていた。
ナルトは幼い頃から一人だった。両親は生まれてすぐになくなり、繋がりすらもなかった。親族すらもおらず、ただ遠巻きにする大人たちの中で、いつも一人寂しさばかりを抱えていた。だから、一人は嫌いだ。
一緒にいたいというのは、言ったあの瞬間だけではない。ずっと、将来もずっと一緒にいたいのだ。
「おまえはさ、自信ないかもしんないけど、それは俺も一緒だから、」
「なんでナルトに自信がないのよ。ナルトは火影候補で、みんなに認められてるじゃない。」
は少し唇をとがらせた。
霧隠れの里の中では武器としての存在価値以外認められていない。弟の瀧ほど社交的ではなかったせいもあって、いつも冷たい眼で見られてきた。
でもナルトは違う。
火影候補として確固とした信頼があるし、里を守った英雄でもある。ほかの里との繋がりも大きく、風影とも親友同士、炎一族の次期宗主であるとも仲が良く、里の同年代の中心となっている。誰からも認められる忍だ。
「そんなのは、後からで、俺も最初はひっどい扱いだったってばよ。」
今でもたまに、火影候補にまで挙げられる自分が夢ではないかと思うほど、昔は孤独だった。誰もナルトなどに期待はしていなかったし、誰もナルトを見てなどいなかった。
「俺、結構情けないし、女々しいし、料理しないしさぁ。でも、俺は俺だからさ、」
ナルトは自嘲気味に笑う。
火影候補としての今の強いナルトを好きになって告白してくる女性は、ナルトのそう言った部分を見るとすぐに離れていった。強いナルトだけが一人歩きして、いつの間にか昔の本当の自分は望まれなくなっていた。
だが、は心底不思議そうな顔で、ナルトを見上げる。
「そんなこと知ってるわよ。ナルトって、全然格好良くないよ。大丈夫。」
何が大丈夫なのか全くわからないが、にとってナルトはそれほど格好良い存在では元々なかった。
「わたしたちと子供みたいに遊んでさ。花瓶割ってイタチ兄に怒られたりしてたじゃない。情けなく謝ってたの覚えてるもの。」
「そうだっけ?」
「そんなんだったわよ。」
霧隠れの里にを保護した頃、ナルトは寂しがるをよく遊んでやっていた。神の系譜の体は非常に丈夫であるため、乱暴な遊びも問題なくできる。イタチははらはらした面持ちでとナルトを見守っていた。
それに英雄だ何だと言ったところで、は忍界大戦では幼すぎて、戦ったナルトをほとんど見たことがない。他里であるため、なおさらだ。
「そっか、」
ナルトは苦笑して、を抱きしめる。は少し体を硬くしたが、ナルトの肩に自分の頭をもたせかけた。
「なぁ、二度と、俺が生きてる限りいなくなるなってばよ。」
強い腕の力に、は彼の孤独の深さを知る。には常に弟の瀧がいたが、ナルトに兄弟はいない。だからこそ、寂しくても辛くても、寄り添う相手はいなかっただろう。突然がいなくなったと聞かされた時の彼の心境を考えれば、は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめん、なさい。」
謝罪の言葉を口にすると、ナルトは笑って見せた。
「終わったことは、良いってばよ。でももう、どっか行くなよ。」
あっさりとした言い方は、酷く彼らしかった。
「当たり前のことをいっぱいいっぱい一緒に積み重ねていこう。それが幸せだってばよ。」
小さな喜びをいくつも積み重ねていく。それがきっと幸せというものだと、ナルトは思う。の額に口づけて笑うと、は恥ずかしかったのか少し怒った顔をして、照れ隠しをしたが、頬が染まっていた。
「が毎日いるなんて幸せ。」
恥ずかしげもなく頬を緩ませて言うナルトの表情は緩みきっていて非常に情けない。は彼を見ながらも、「うーん」と唸った。
「わたし、ここにいていいんだよね。」
「当たり前だろ?」
「同棲?」
「まぁ、そうだってばよ。」
「・・・お母さん、許すかな。」
娘が他国で同棲します、など普通の親なら許すだろうか。ましてや現在もまだ独身、結婚していないことに酷いコンプレックスを持っている養母のメイが聞けば、卒倒ものだ。ましてや水影の養女であるが他国の男と同棲など、外聞が悪いにもほどがある。
は不安になって目尻を下げた。
「だ、大丈夫だってばよ、だってだって同棲してたし、」
ナルトは少し慌てた様子で口早に言った。
炎一族の東宮であるは、15歳になってからイタチと同棲していた。正直両親がいないため、相手の親への挨拶など考えたこともなかったナルトは、名門とはいえそういう例もあるのだから大丈夫だと無理矢理自分を納得させる。
「でも、婚約してたよね。」
はナルトをじっと見上げて冷静に言う。
二人は確かに同棲していたが、幼なじみとして育っており、昔からの許嫁だったし、が12歳の時点で婚約もとっくに公表されていた。親同士も公認だったからこそ、名門の出身であるたちが同棲することができたのだ。
「じゃ、じゃあ、俺たちも婚約すればいいんだってばよ!」
言うに事欠いて、ナルトはぐっと拳を握りしめて言う。
「え、えぇ!?」
はあまりの展開の早さに目をぱちくりさせる。なんだかんだ言っても、思いが通じ合ったのすらこの間だ。確かにナルトはもう27歳で結婚しても全くおかしくない年頃だが、あまりに唐突な話にの方は驚く。
「え、嫌なのか?」
ナルトはショックを受けたように目尻を下げて、に尋ねる。
「い、嫌じゃないけど、」
「けど??」
不安そうな彼の様子に、は言葉を詰まらせた。
「・・・わたしで、良いの?」
自信がなくて、思わず小さな声で俯いて問う。それはあまりに恥ずかしい問いで、でも、自分を望んでくれる彼は嬉しくて、どう答えて良いかわからない。
でも多分、不安は互いに一緒だ。
「うん。が良いってばよ。」
ナルトが無邪気に、明るい笑みを浮かべる。
それはが初めて彼と会った時と変わらない、必要とされる事を喜ぶ子供のような笑みで、彼のそんな表情を見られれば、は何でも良いような気がした。
寄り添いあう