火影を通じてナルトが正式にとの婚約を水影であるメイに申し出たのは、数日後のことだった。




「ナルト、・・・おまえが女にだらしないからこんな事になるんだぞ。」




 綱手は隣にいるナルトを肘でつつき、遠慮ない言葉を浴びせる。




「わかってるってばよ。」




 ナルトは不満に思いながらも、後ろにいるの手前何も言えなかった。

 から責められた後、こんこんとイタチから男としての義務と踏むべき手順について語られたナルトは、げっそりとした様子で頷いた。正直な話イタチよりも隣でにこやかに笑っているの方が百倍怖かったのだ。

 ナルトが何か言い訳をしようとするとゆったりと口を出すのだが正論な上に容赦がない。日頃怒らない人間を怒らせると怖いというのは本当だと身をもって知った。

 イタチの言った落としどころというのは、結局のところ正式な婚約をして、一度を霧隠れの里に帰すことに同意しろというものだった。火影を通せば約束が簡単に反故にされることはないし、水影で養母のメイも心の整理がつくだろうと。

 ナルトはを霧隠れの里に帰すことがどうしても嫌だったし、まるで里同士の道具のように火影を通しての求婚は避けたかったが、社会的な責任を考えろと言うイタチと、にこやかなの無言の圧力に屈するしかなかった。





「本当にあり得ないわよね。」




 サクラは腰に手を当てて大きなため息をつく。




「まったくだ。」




 サスケも同意して、腕を組んで柱にもたれたままあきれた目をナルトに向けた。






「あの水影の大切なお嬢さんに手出すなんて、首がもげなかっただけ良かったんじゃないかな。」




 サイもなかなか辛辣だ。




「あーー!もうおまえら野次馬か!?なんで来るんだってばよ!!」




 火の国の神の系譜であり、炎一族の次期宗主のはともかく、元七班のメンバーであるサクラ、サスケ、サイがわざわざ綱手の執務室に来る必要などない。にもかかわらずここにいるのは、婚約を正式に申し出たナルトをおちょくるために他ならない。

 遠慮のない意見をしてくる級友たちに、ナルトは叫ばずにはいられなかったが、後ろにいたがにっこりわらってぽんと肩を叩く。




「わたしが呼んだの、何か問題があった?」




 おっとりとした口調で尋ねてくる。




「な、なんでもありません!!」 




 穏やかながらも無言の圧力を受けていたことを思い出して、ナルトは慌てて姿勢を正して叫ぶ。




「そう。」





 は知ってか知らずか、軽く小首を傾げてそう言って、サクラの方へと向き直った。




「まったくね。流石にないわよ。しかも水影の養女にもう手を出しちゃった?あり得ない。」




 サクラは首を横に振る。

 この年にもなれば社会的なルールくらい持っていてしかるべきだというのに、ナルトはそんなことすらわかっていなかったのだ。ましてや水影の養女に手を出したのだからそのくらい少しは考えるべきだ。





「だーかーらー、だって言ってるってばよ。俺はが好きなんだ。」

「そんなことはわかった。だが、数週間で手を出したなんて普通最悪だ。ましてやまだ16歳だろ?10代の盛りのついた馬鹿か。」





 サスケは眉を寄せて軽蔑のまなざしをナルトに向ける。





「おまえだって、結構女ったらしじゃねぇか。知ってんだぞ、この間そういう店で・・・。」

「言っておくが、俺は面倒な女に手を出した事はないし、選んでるぞ。」

「そうだよ、ナルト。サスケは女性関係でわたしたちに迷惑をかけたことはないよ。」






 ゆったりとはサスケをフォローする。

 里に帰ってきてから長らく、身元引受人が兄であるイタチだったことから、とサスケは同居してきた。イタチとが結婚し、子供が生まれたりといろいろあったが、なんだかんだ言って誰よりもサスケは新しくできた家族を大切にしてきたし、迷惑をかけたことは一切ない。

 今も生まれてきた甥姪の面倒をよく見るよいおじさん(お兄さん)だ。





「それに比べてナルトは、彼女が勘違いして私を殴りに来たとかあったわね。」

「そう言えば、浮気したと勘違いされて女に怒鳴り込まれたとかもなかったっけ?」




 サクラが大きすぎるほどのため息をとともに言うと、アパートの部屋が隣のサイが手をひらひらさせて言う。

 今、サイ、サスケ、そしてナルトが住んでいるのは前に炎一族邸の南の対屋があった場所で、炎一族邸の目と鼻の先だ。当然だが隣で騒ぎが起きればすべて聞こえてくる。時には女性関係で班員に多大な迷惑をかけると言うことも少なくなかった。





「これで婚約を拒否されても文句は言えないもんね。」




 サイは口元に手を当ててくすくすと笑う。





「うるせぇってばよ。」

「事実じゃないの。」






 サイの言葉への反論も、あっさりとサクラにいなされた。




「いい年こいた大人がけじめのないことをするからだ。」






 綱手も火影候補とまで言われているナルトの感情的な行動には昔から頭痛がしていたが、まさかその年にまでなってなんの表明もなく、水影の養女に手を出すなど驚きの極みだ。





「勘弁してくれ・・・」




 流石に昨日からイタチとに説教をされ、またここでこれ以上いじめられたら、ナルトの方の心が折れてしまいそうで、思わず懇願する。サイやサスケもあきれていたが、火影の手前もあり、黙った。だが、とサクラは違う。





「自分でやったこと棚に上げて何言ってんのよ。」

「ね。」




 二人は火影である綱手の愛弟子だし、怒っているのか口を噤むつもりはなさそうだった。




「明日水影と話し合ってもらうが、くれぐれも失礼のないようにな。」





 綱手はナルトに念を押すように言う。





「・・・わかってるってばよ。」

「まぁどちらにしても別にを嫁にもらうというのは、おまえにとっても悪いことじゃない。」





 4代目火影の息子とは言え、ナルトはすでに両親がいない。後ろ盾もいない。火影になる上で後ろ盾がつくという点では滅びた一族であるとは言え、神の系譜の翠一族出身のと結婚するのは決して悪いことではないだろう。

 ましてや政情不安定な水の国の水影にとっても、養女が火の国の次期火影と結婚するのは大きな意味がある。綱手が納得していることもあり、大きく反対することはないだろうと思われていた。






「もちろん、正式に迎えるならな。」






 綱手も白い目でナルトを見る。ナルトものことでは綱手にも迷惑をかけていることがわかっていたため、申し訳なくは思っていたため、反論の余地はない。




「わかったってばよ。今日はもう帰るってばよ。」




 ナルトは部屋を逃げるように出て行く。それを見送ってから、サクラは興味津々でを振り返った。





「で、実際のところどうなりそうなのよ。」

「ん?ま、二、三発殴られてから婚約で落ち着きそうかな。」




 は落ち着いた様子でさらりと言う。

 ナルトはに手を出して殴られ、と会うことは許されないし、謝りに行っても締め出しをくらい、イタチやに説教をされてどん底まで沈んでいたが、とイタチはすでに正式に水影に話しに行っていた。というか、両思いになることはある程度予想していたらしい。

 メイもの気持ちは承知していた。

 とはいえ、娘を手放すのが嫌なメイは渋っていたが、霧隠れの里でのの立場が非常に難しいことも承知している。メイもを他里に住まわせると言うことは考えていた。そうすれば彼女は水影の養女として丁重に扱われるはずだからだ。

 特に安定しており、同じ神の系譜である炎一族の側の方が、にとって不安がないのかもしれないと言うことをメイも十分認めており、将来的にはナルトでなくても、木の葉隠れの誰かが良いのではないかと、考えていた。





「・・・手さえ出さなければね・・・許容範囲内だったんだよ。」






 が目を細めて遠い目をする。

 メイも覚悟していたとはいえ、それは遠い未来のことだと思っていた。の方もまさか27歳にもなって、ナルトが水影の養女に順序も踏まずに手を出すと思わなかったのだ。





「・・・本当に、一度刺されたら良いのにね。」






 サクラは嫌悪感丸出しで呟く。





「4人くらい前の元カノに刺されてなかったか?」





 綱手は椅子の背もたれに体を預けて、軽く首を傾げる。





「既婚者だってわかってナルトが珍しく振ったら、逆恨みされたって奴だったか・・・、」






 サスケは少し考えてから答える。だがどちらにしても、ろくな恋愛遍歴を歩んでいないと言うことはまったく議論の余地はなく、話題に絶えない男だと全員が嘆息していた。







社会的責任