「・・・なああああああああんで、俺の家じゃなくて、の家なんだよ!!」





 ナルトは飲み会の席で、酒を片手に大きな声で叫ぶ。






「そりゃ信用が違うもんな。」





 シカマルは冷静に、そしてあっさりと言った。





「水影様も流石だよね。同棲はさせない。正式に18歳になるまでは炎一族邸に、門限は9時だっけ?」





 詳しく話を聞いていたサイはにこやかに酒の杯を傾けながら、肩をすくめる。

 水影のメイは、ナルトの人柄に納得したが、彼がまだ16歳のに安易に手を出したという、感情に素直すぎるという欠点も同時に気づいていた。その彼女が出した結論は、まだが若すぎるので18歳までは婚約にとどめること、同棲は認めず、同じ神の系譜である炎一族邸に住むことが条件だった。

 しかも無断外泊は認めない、門限も9時。すべての采配は炎一族東宮の婿であるイタチに一任するという。イタチは礼儀正しく、他人にそういったことを押しつけることは少ないが、社会的な常識を非常によくわきまえている。

 メイはイタチならナルトの自分勝手な部分も是正できるし、を任せるに問題ないと思ったのだ。

 彼自身は神の系譜ではないが、妻であるの力の一部を使用することが出来、一時は神の系譜と同じ扱いを受けていた。子供たちも当然神の系譜だ。


 彼は人として、神の系譜として関わってきた経験がある。も同じだ。彼ならば上手にから意見を引き出すだろうし、自分の手元から離すのなら、彼に預けるのが一番信頼できると判断したのだ。ナルトよりも。





「イタチさん、なんだかんだ言ってもにも婚約してからしか手を出さなかったしね。そりゃ信頼あるわよ。」





 サクラは酒を片手に小さく息を吐いた。


 ある程度の年齢になってからのナルトの女性関係での問題は同期の誰もが知るところであり、文句を言われても仕方がないほどとばっちりも受けている。正直言って、何を言われても仕方がないところだ。しかも積極的な女たらしではないところが始末に負えない。








「おまえを見てると、女ってのはつくづく肩書きって奴に弱いが、見限るのも早いとよくわかるぜ。」






 シカマルが小さく笑って、日本酒の杯を傾ける。

 大抵ナルトの恋愛というのは相手から告白され、つきあい、愛想を尽かされるというのがいつものパターンだった。





「うるせぇってばよ。」

「今度は見限られねえように気をつけろよ!」





 少し向こうの席で肉を食べていたキバが大きな声で叫ぶ。





「なんだ、やんのか!?」






 酒の力も手伝って、ナルトが苛立ちのあまりに立ち上がる。その瞬間、横っ腹にサクラからの一撃が加えられた。一瞬でナルトが吹っ飛ぶ。







「あれ?そういやはどうしたのよ。」






 やりとりをあきれた表情のまま見ていたいのがサクラに尋ねる。






「あぁ、あの子、ちょっと体調悪いらしくて、師匠のところよ。」

「え、なに?大丈夫なの?」

「風邪みたいよ。微熱があるとかで、まぁ元気みたいだから後から来るらしいわ。」





 サクラは少し目尻を下げて心配そうに言った。

 元からはあまりからだが強くない。必ず2ヶ月に一度は風邪を引くし、体調を崩すと長いため、皆気をもんでいた。





「ナルトが心労ばっかかけるからじゃないかしら。」





 サクラはぎろっとナルトを睨む。






「そ、そんなことないってばよ!」

「そんなことあるだろ。何かとに助けてもらってる癖に。」







 ナルトの否定を横からサスケがいなす。





「何?またなんかやったの?」






 サクラはもう聞き飽きたとばかりに呆れたと言うよりは情けない子供を見るような目でナルトを見る。





「この間の不倫女の件を片付けてもらってたよな。」

「あぁ、直接怒鳴りこんできたあれ?」




 サイがすました顔のままサスケに問う。

 それはナルトのアパートに数ヶ月前、ナルトが浮気していると思い込んだ女が怒鳴り混んできたのだ。束縛の厳しい女で、ナルトも分かれたかったのだが、死ぬとごねまくるのでどうしようもなく途方に暮れていたのだ。

 何度も怒鳴り混まれることに困ったのはサイやサスケなど同じアパートに住んでいる面々で、苦情が大家に入るようになった頃、たまたまよく遊びに来ているイタチとの長男がそれを目撃し、両親に告げ口したのだ。アパートの大家は、の父母である。




「だーーー!その話はなし、なし!」

「ナルトは黙ってなさい!」





 サスケを止めようとしたナルトだったが、あえなくサクラの一撃で昏倒する。サスケは屍に哀れみの目を向けたが、身から出たさびだと自分を納得させて口を開いた。





「兄貴も話し合っていたんだが、女が奇天烈でうまくいかなくてな。そしたらが、女の経歴が気になると言い出したんだ。」

「経歴?」






 いのも興味津々で耳をダンボにして聞く。先ほどまで別のテーブルで話していたキバもいつの間にかサスケの話に耳を傾けていた。







「あぁ。・・・調べてみたら、既婚者だったんだ。」

「はあぁあああ!?」





 全員があまりの展開に眼を丸くして呆然とする。






「既婚者?どういうことだよ!」






 キバは意味がわからずあごが外れんばかりの勢いで叫んだ。サスケは不快そうに耳をふさいでから、大きなため息を一つついた。





「ナルトは知らなかったらしいけど、不倫してたんだと。で、訴えた。と。」





 ナルトは相手が既婚者だったとは全く知らなかった。それは今までにかわした手紙や会話から十分に読み取れたため、イタチが弁護士を頼んで、詐欺で相手を訴えたのだ。流石に旦那にバレたのか、向こうは向こうで修羅場だったため、相手の女は来なくなった。

 ついでにナルトへの接近禁止が裁判で出たので、ナルトは平穏な生活を取り戻すこととなったのだ。




姫、勘良いからね。」





 サイもよく知ることだが、は非常に勘が良い。簡単なことなら結構あっさり当ててみせるのだ。だから、彼女の言うことはたとえ適当だったとしても、他人の推測よりはあてになる。





「まぁこれでに何かあったら、今回の水影の養女に手を出した件の心労だな。おまえのせいだぞ、ナルト。」 







 キバは冷たい目で未だ倒れ伏しているナルトを見下ろす。




「そうよそうよ。」





 いのもそれに賛同して、うめくナルトを助けようともしない。殴った張本人のサクラはもちろん、とばっちりが怖いサイもナルトに手をさしのべることはなかった。





「兄貴はともかく、あいつはそこまで神経細くないと思うがな。」





 サスケは小さくため息をついて兄嫁を総評した。

 兄嫁となったとはいえ、はサスケの幼なじみで、恋心を抱いたこともある相手だ。幼い頃からよく見ていたが、は確かに勘は鋭いし、聡いが、繊細ではなく、存外図太いところが多かった。だからきっと、心労などで倒れるタイプではないだろう。

 とはいえ、もそうだが、かたくなに誰にも言わずに無茶をするのは一緒だ。

 だからこそ、こちらが気づいてやらねばならない部分が多いと言うことを、サスケは知っていたが、ナルトはよくまだわかっていないようだった。







愚痴