は結局、水影が一端里に帰ってからも、木の葉にとどまり続けることになった。





「一応、門限は9時だからな。」






 出かけようとしているの背中に、イタチは軽く声をかける。迎えに来ていたナルトは、それを聞いて少し嫌そうな顔をした。





「たまにはおまけしてくれってばよ。」

「それが水影との約束だろう?」





 ナルトを諫めるように言うと、彼は口をへの字にして見せた。

 もう27歳の彼にとっては門限9時は相当厳しいものだろう。少し夕飯を食べに行けば9時などすぐに来てしまうし、任務も忙しいため夜でも会いたい時はある。だが、破ることは同時にが霧隠れに帰る可能性を示していた。

 水影との話し合いの結果、ナルトと正式に婚約したが、同棲するのではなく、はイタチたちが住む炎一族邸に、一緒に住むこととなった。門限は9時、無断外泊は一切禁止。破れば即霧隠れの里に連れ戻すという厳しい条件を、は何があろうときちんと守り通している。




「大丈夫。20分前にはちゃんと帰ってくるから。」






 不機嫌丸出しのナルトに対して、遊びたい盛りだろうに、は大きく真剣な顔で頷いた。

 霧隠れの里では任務を放り出し、すべてをかなぐり捨てて木の葉に来てしまっただったが、それは本当にいっぱいいっぱいだったからで、落ち着いてからのは非常に真面目だった。

 ナルトは時間にルーズだが、は存外規則に厳しく、遅刻しがちだったナルトを遠慮なく任務にたたき出すこともいとわない。大人であるナルトは門限が9時であるということが少し不満だったようだが、に守るようにきつく言われて、渋々毎日を夜の九時に炎一族邸まで送りに来ている。

 たまに炎一族邸に泊まりに来ることもあった。とはいえ炎一族邸はイタチの子供たち4人がいるため、甘い空気などなく押しかけられて終わりなのだが。





「ナルトも明日任務で早いんでしょ?ちゃんと起きなきゃ駄目だよ。」

「・・・、なんか母ちゃんみたいだってばよ。」

「うっさいわね。ナルトがだらしないから悪いんでしょ?」






 はむっとして、ナルトの耳を引っ張る。






「いでででで!だっておまえ全然さぼらせてくれねぇじゃん!」

「当たり前でしょ!任務サボるなんて何考えてんのよ!!」






 ナルトはいい加減だ。物事には適当で、勝手に決めて、感情のままに勝手に走って行ってしまう時がある。対しては気が強いくせに存外規則にうるさく、まだナルトに押し切られてしまうところはあるが、ルールはきちんと守ろうとする。

 そのため、早朝の任務がある時は朝に、わざわざがナルトをたたき起こすようになっていた。





「水影様もなかなか厳しいが、仕方ないさ。あと二年だ、我慢しろ。」





 イタチが肩をすくめると、「わかったってばよ」と不服そうにナルトが言ったのに対して、は大いに納得しているという様子で、真剣な顔で同意した。





「それに今日は早めに帰ってくるわ。阿加流や八幡と一緒に寝るって約束したのよ。」





 は明るく笑ってイタチに言う。

 彼女は木の葉に住まうこととなったわけだが、木の葉では任務に参加しておらず、まだ幼いイタチの長女と三男の面倒を見たり、時には料理を作ったりして日々を過ごしている。

 特に無愛想でちっともかわいげがなく、他人にあまりなつかない長女の阿加流がに懐いており、三男で年子の八幡と大げんかをしていた。一つ差とはいえ幼い頃は女の子の方が力が強いものであり、今のところ阿加流の10戦9勝といった雰囲気だった。




「嫌なら言うんだぞ。あいつらはうるさいからな。」





 長男と次男はあまり喧嘩しない。互いに適当に折り合いをつけながらうまくやっているわけだが、年子の三男と長女はそれはそれは酷い喧嘩をする。父親であるイタチですらも辟易するほどだ。長男と次男が存外大人で構ってくれないことを不満に思っていた末っ子たちにとって、は突然できた優しい“姉”というわけだ。

 最近彼らの面倒を見ているがストレスを感じていないか心配で尋ねたが、は首を振る。






「元気なのは良い事よ。」

「・・・は大人だな。」






 イタチは感心したように言って、軽く手を振る。




「いってらっしゃい。」

「いってきます!」





 元気に返事をして、は出かけていった。

































 
 木の葉は雑貨屋さんなどもたくさんあり、出かけるのは本当に楽しい。ナルトにつきあってもらうことに最初は気が引けたが、それもデートだと言われても納得した。





「なんか、おまえ楽しそうだな。」





 ナルトは少し不思議そうにに尋ねる。






「うん。すっごく楽しいよ。戦わなくても良いし、」






 は木の葉隠れの里の忍となったのではなく、ただナルトと婚約し、同じ神の系譜である炎一族の屋敷に預かられている。それはあくまで霧隠れの里としてではなく客人としてだ。忍として働く必要はない。もちろんこれから望めば別だが、今のところその予定はなかった。





「それに姉がまた妊娠したらしいし。」

「え?マジで?この間体調が悪いって言ってたのって。」

「うん。五人目らしいよ。」





 炎一族は大きな一族だが、乳母をつける習慣がないらしい。今まで近親婚を重ねてきていたため、子供は少なかったし、多くの側室がいたため問題なかったが、は子だくさんで、人手がいる。そういう点でがやるべきことはたくさんあった。そして、これからも増えるだろう。





「良かった。この間の飲み会で、みんなからが体調を崩したのはおまえのせいだって責められたんだってばよ。」

「・・・あながち間違えじゃないかも。」





 ナルトが何かおこると同期のサクラやサスケ、に頼るというのはあながち有名な話だ。特には名門の出身で、社会的な問題を起こすと大抵が始末にかり出される。





「おまえまで言うのかよ。」





 ナルトは不服そうに言って、軽くの頭を小突く。





「だって・・・。まぁ姉とイタチ兄もこんな時に子供ができるんだから、結構余裕があったのかも?二人とも子供できてから余裕がある気がするし。」






 二人目ができたあたりから、イタチもも寛大になると同時にたくましくなった気がする。

 守るものができると強くなるというが、まさにその通りなのだろう。の母も死ぬ瞬間でも、強くあろうと努力していた。幼いに不安を持たせないように。自分より弱かったを守るために。

 そういう風に、いつかも弱い人を守れるようになりたいと思う。




「忍として任務はしないけど、・・・もちろん、これからも修行はするし、中忍試験の模擬戦とかには、出ようかなと思ってるんだ。」




 戦う力を失うのは怖い。それが自分から心の余裕も失わせる気がするのだ。だから、忍として働かなくても、その力を失ってはならない。備えは忘れてはならないと思う。もしもの時のために。





「んー、わかんねぇけど、俺はが傍にいるならそれで良いや、」





 ナルトとてこれから考えるべき問題はたくさんあるだろう。それでもひとまず今、が自分の隣にいるのならば、それで良い。




「うん。」





 は笑って、後ろからナルトに抱きつく。

 二人とも片付けなければならない問題はたくさんある。霧隠れの里で人殺しの子としてののしられた時のような憎悪を受けることはないだろうが、それでも神の系譜として莫大な力を持っているは、これからもいろいろな中傷を受けるだろう。

 他里の出身ということでののしられたナルトの母のように悲しい思いをすることだってあるだろう。しかしそれはこれから二人で乗り越えて行くべき事だ。その過程もまたある意味で重要なのだと思う。





「一緒だね。」






 軽やかに響く高い声音と背中の後ろに感じる温もりに、ナルトは目を細める。

 カカシやイルカに負ぶってもらった記憶はあるが、誰かを本当の意味で頼り、負ぶったことは今までになかっただろう。の温もりを温かいと感じると同時に、自分がしっかりする必要があるなと、初めてナルトは思った。

 水影はずっとを守ろうとしてきた。木の葉隠れの里では今度は自分がを守らなくてはならないのだ。

 その考えは、ナルトが思ったよりもずっとしっくりと心に留まった。





「うん。一緒だってばよ。」






 ずっと一人だった。それが二人になるのは、きっと幸せなことだ。





「さ、早く行こうぜ。」






 ナルトは明るく笑っての手を取る。




「うん。そうだね。早く帰らなくちゃだもんね。」





 も同じように笑み返して、木の葉の商店街へと足を踏み出した。








手をつなぎ共に歩く