「えぇええ、結局姉、ナルト兄と結婚すんの?」







 その事実を聞いた次男の因幡はその青みがかった不思議な色合いの瞳を瞬いて、僅かに眉を寄せた。




「因幡、なんか不満そうだね?」





 隣で食事をしていた祖父である斎は、不思議そうに自分とそっくりの顔をした孫を見下ろす。





「だってぇ、たらしのナルト兄でしょ?姉真面目なんだからさぁ。」

「まぁ、たらしって言うより、勝手によってきて、幻滅して、ふられるってパターンでしょ?」

「それを受け入れる方が問題でしょ。気に入らなかったら最初っからふりなよ。」




 もっともな意見を言う因幡に、斎も流石に反論なく黙り込む。




「至って普通の意見だな。」 





 長男の稜智は一応ナルトの弟子だが、それでも彼の女性関係の軽薄さを擁護する気はないらしい。





「ね?酷いよね。誰でも良いから彼女ほしいなって言う裏があるからでしょ?最低。」






 因幡は6歳という年齢のせいか潔癖、否、男女関係を話すくらいにはませている。誰に似たのか口も達者で、頭の回転も速いため、父親のイタチも閉口するほどだった。





「良いんじゃないの?ナルト兄の恋愛だろ?」





 稜智はそれ程興味がないのか、人の恋愛に口出しする弟の言動がよく分からないらしい。半ばあきれ顔で必死の弟を見やる。




「あははは、稜智は浮いた噂はないの?」





 斎は孫の話をあっさりと別の孫に話を移した。

 口達者で誰もが閉口するほどの因幡も暗部の親玉として、また策士として有名な斎には勝てない。ころりと話を変えてもまだ戻すだけの賢さはないのだ。

 それに気づいている長男の稜智は軽く首を傾げて、いつも通りすました顔で話に乗る。






「あんまり?ラブレターとかは貰うけど、ちゃんと断ってる。」

「あ、そうなんだ。イタチ似でハンサムだからね。好きな子はいないの?」





 斎はにこにこと孫たちに笑って尋ねる。稜智が嫌な顔をしたが、はっと顔を上げて斎の後ろに立っている人物を見た。






「それ、聞くの野暮ですよ。父上。」






 イタチが少し呆れた様子で義父である斎を諫める。





「そう?みんな恋愛話が好きだよ?やだなぁ。ね、因幡。」

「うん。楽しいじゃん、父さんだって聞きたいでしょ?」

「…他人の恋愛ごとを聞いて楽しいか?」





 イタチには因幡や斎の気持ちは全く分からず、首を傾げる。稜智もよく分からないのか、イタチと同じように納得いかないといった表情の弟と祖父の様子をただ訝しんだ。

 イタチと長男の稜智は顔立ちもそっくりだが、どちらかというと性格もそっくりだ。年代が違うため話し方や多少の考え方の違いはあっても、お互い話し合えば考えにそれ程の違いはない。

 対して祖父の斎と孫でイタチの次男の因幡は顔も性格もそっくりで頭の回転も速い。ゲームに漫画にと今風なことに忙しいところもそっくりで、先日イタチはアカデミーから呼び出しを食らった。因幡はほとんど授業に出ても遊んでいるらしい。担任のイルカが頭を悩ませていた。






「ちーうえ、」






 イタチの後ろからやってきた長女の阿加流が、口を開いた。

 まっすぐな黒髪にくるりとしていて少し目じりの上がった、家の中では一番整った顔立ちをしている阿加流はねだっているくせに不機嫌そうな顔でイタチに手を伸ばす。





「なんか阿加流っていつも、構ってっていうか、構えって言ってるみたいな顔だよな。」






 稜智は妹をそう評して、軽く額をこづく。すると彼女は嫌そうにぺちっと稜智の手を叩いた。





「もっとみたいににこやかに笑えば良いのにな。」




 イタチはそう言って娘を腕に抱える。

 小作りながら美しいその容姿は、イタチと言うよりはの母である蒼雪によく似ている。彼女は今も炎一族の宗主としてこの屋敷の主であり、寝殿に住んでいるが任務や話し合いなどに忙しいが、それでも孫たちをよく可愛がってくれている。





「それにしてもまた母上妊娠したの?」






 稜智は少し困ったような顔でイタチに尋ねる。






「あぁ。なんだ。不満か?」

「不満じゃないけど、本当に仲良いよね。」






 もう10歳。アカデミーに行かずにナルトに師事していたせいか、随分と早熟の稜智には色々と分かる部分が多いのだろう。両親の仲の良さをたまには恥ずかしく思う時期なのかも知れない。とはいえ、稜智と同年代の子供の両親よりイタチとは若いので、子供が生まれる年齢といては決して遅い出産ではない。





「ふぅん。今度は男?女?」






 因幡は楽しそうに笑ってイタチに尋ねる。




「あぁ、多分次も男だと思うそうだ。」





 の勘は鋭い。今まで子供の性別を調べたことは一度もないが、性別をが外したこともない。また名前を考えなければならないなと思うが、5人目ともなると段々疲れてくる。一人目の稜智は感じなどを考えて真剣に考えたが、次男あたりから面倒になって先祖の名前や神の名前をそのまま引用するようになった。




「また男?」

「おまえは阿加流みたいな女がもう一人欲しいのか?」

「…微妙。」





 稜智は素直に答えて、父親の腕の中にいる妹を見つめる。

 むっとして眉間に皺を寄せているが、どうやら父親の膝の上に座って満足らしい。もう少し素直に嬉しそうな顔をすれば良いというのに、どこか威厳があると言えば聞こえは良いが、不機嫌そうだ。なのに顔立ちだけが整っているから、文句を言う気にはなれない。





「ねー、超仏頂面。絶対うちはのじーじに似たんだって。可愛くないよねー」 






 因幡はけらけらと笑いながら阿加流の頬をつつく。だがそれは阿加流の機嫌を頗る崩させたらしい。阿加流はその小さな手で思い切り因幡の顔を叩いた。3歳の子供のやることとは言え、流石に痛い。





「阿加流!」






 イタチは慌てて声を上げるが、因幡の反応は早く、叩かれた頬を抑えて阿加流を見た。





「なにすんだよ!!」

「いなばにーにきらい!」





 甲高い声を上げて阿加流は次兄を睨む。因幡も叩きかえそうとしたが、それを後ろから斎が止めた。





「すとっぷー!どっちも叩いちゃ駄目だよ。」

「あっちからやってきたんだよ!?」

「だからどっちもだよ。阿加流も手を出しちゃ駄目でしょう?おじいちゃんそういうのは嫌いだよ。」





 斎は膝を折って目線を合わせてから、イタチの膝の上に座っている阿加流の両手を取って諫める。幼い阿加流は怒られていることが分かったのか、ますます眉間に皺を寄せたが突然くしゃりと表情を歪めてぱっと立ち上がると、ぎゅっと斎に泣きついた。






「はいはい。ごめんなさいは?」

「きらいはいや!!ごめんなさい!!」






 素直に謝った阿加流に、斎はにっこりと笑って孫娘の背中を叩いた。

 阿加流はなんだかんだ言って祖父である斎が大好きで、素直に甘えられないが、嫌われるのは嫌らしい。不機嫌そうに装っていてもやはり子供で、思わずイタチと斎は顔を見合わせて笑ってしまった。





「うるさいぞ、おまえら。特に阿加流。東の対屋まで響いてる、って兄貴もいるのか。」






 サスケが三男の八幡を抱えて、御簾をあげて部屋に入ってくる。まだ2歳の八幡は親指を咥えてサスケの腕に収まっている。

 漆黒の髪に、漆黒の瞳。比較的イタチに似ているがそれ程彫りの深くない顔の八幡は、姉が斎に抱かれているのを見ると途端に嫌そうな顔になり、手に持っていた小さな人形をおもいっきり阿加流に投げつけた。





「八幡!」





 サスケが止めようとしたがあまりのことに間に合わない。その人形は斎の手によってたたき落とされたが、阿加流は一瞬凍りつき、されたことが分かったのだろう、途端に表情を怒りに染めて、仕返しをしようと斎の腕から逃れようとする。





「こらこら、」





 斎は阿加流を逃がさないように、腕の力を緩めないように努力する。





「あのさぁ、お願いだから問題起こすなよ?母上に何かあったら困るんだからさ。」





 稜智は弟妹に呆れてため息をついて言う。


 イタチはなんだかんだ言って任務で忙しいのだ。家にいるのは任務の少ないサスケとサボり気味の斎、そして長男の稜智で、弟妹の喧嘩まで面倒見ていられない。ましてやこれから母まで家にいるようになるのだ。

 それ自体は嬉しいことだが、問題の方が多すぎてため息が出た。




蛇足