「・・・なんだこれは。」




 イタチは思わず目の前に見せられた紙を眺めて、眉を寄せる。




「嫌だな父さんってば老眼?早くない?まだ30すぎたばっかでしょ?」




 イタチの次男・因幡はからからと笑ってみせる。

 人なつっこい笑みを浮かべて小首を傾げて見せる姿は、青みがかった黒髪ながらも、イタチの妻と、上司でもある義父・斎そっくりだ。日頃なら妻に弱いイタチはそっくりの因幡の笑顔に頬が緩んで退きたくなるところだが、今日はそういうわけにはいかなかった。




「・・・すごいね、初めて見たかも、1」





 相変わらず年を経てものんびりしているは、息子の成績表にも寛容で、ふんわりと現実味のない声音で呟く。ただやはり驚きは程度は違えど一緒なのだろう。イタチの隣に座って目を丸くし、小首を傾げるその仕草はやはり次男にそっくりだ。

 長男はイタチによく似ているため、次男がに似ているとわかった時、イタチは素直に喜んだ。だがふたを開けてみたら顔は確かにそっくりだが、性格の方はに全く似ず、容姿がそっくりの義父・斎に似ていた。

 もちろん4人いる子供には分け隔てなくめいっぱい愛情を与えてきたし、どの子供のためでも死んでも良いと思えるほどに愛している。

 だが、たまにどうしてこう育ったのかと疑問に思うことがある。




「一応聞いておくが、・・・なんでこんなことになったんだ。」



 イタチは頭痛がして、額を押さえながらため息をつく。

 成績表という名の紙切れに並んでいるのは、1の文字だ。たまに5があるが、慰め程度で、その後ろの生活欄にも、人の話を聞かないというところに、三角どころか×がついている。

 ちなみに父親のイタチは飛び級した上で学年主席、母親のも病気で半年と少ししかアカデミーに通っていないが、学年で3位となかなかの好成績だった。長男の稜智はそもそもアカデミーに行かずに4歳でナルトに師事していたため成績表がない。ここまで悪い成績表を見たのは初めてだ。

 因幡は頭の方は全く悪くない。イタチが勉強をやらせる時は、かなりできている。それに忍術の筋も良く、チャクラ量も多い。能力的には成績がこれほど悪くなる原因はないはずだった。



「んー?1の時はねー。寝てたー。」

「テストにか。」

「うん。退屈だったんだもん。簡単だったしさぁ。あ、算術の時は外がぽかぽかしててね。気持ちよさそうだから外でお昼寝してたんだ、」

「テストぐらい起きていられないのか、おまえは。」




 イタチはこめかみを押さえて、呆れるしかなかった。

 他のところが5と言うことは能力的には5なのだろうが、寝ていて何一つ問題を解かなかったのならば、1なのも当然だ。担任のイルカも随分と追い回してくれているそうだが、いつも因幡にまかれて終わるのだという。

 長男の稜智もそこそこやんちゃだったが、因幡はもっと強烈で、3歳の頃には行方不明の常習犯、彼について行けるのは斎だけというひどさだった。




「・・・次に1をとってきたら、ゲームと漫画を全部燃やすからな。」

「えぇえええ!!」

「当たり前だ。昼寝の原因はそれだろうが。」




 イタチは紙切れを因幡の方に放り出す。

 両親から常に良い成績をと望まれて苦しんだ経験から、別にイタチは子供たちに良い成績を望んではいない。だが、努力はするべきだし、眠っていたなんて言うくだらない理由で成績を落とすのは論外だ。




「全部やれとは言わない。だがせめて、辻褄くらいは合わせる努力をしろ。」

「はぁい。」



 ぶすっとした顔で、因幡は口をとがらせる。だがイタチが口にした限りは脅しではなく本当にやるとわかっているだろうから、すぐに成績表だけは改善されるだろう。そういうところも頭が回るから始末に負えないのだ。




「もう、困った子。」




 は仕方ないなぁとでも言うように笑って、因幡に手招きする。




「だってぇ、」




 因幡は素直に母親に抱きついた。まだ6歳。なんだかんだ言っても子供そのものだ。イタチもさらさらと流れる因幡の青みがかった漆黒の髪をそっと撫でてから、抱き上げた。




「わっ、父さん!」

「だいぶ重たくなったな。」




 いったい何キロになったのかはわからないが、随分と重たくなった。

 因幡は火の国としては初めて1年生からアカデミーに通う神の系譜となった。は体が弱く、半年ちょっとしかアカデミーに通っておらず、長男の稜智は4歳で直接ナルトに師事したため、アカデミーには全く通っていない。

 やんちゃな因幡のことをイタチもも心配したが、幸いアカデミーの友人たちとはうまくやっているようで、こちらが拍子抜けするほどよく遊び回っていた。



「あ、そうだ。参観日があるんだけど父さんも来てくれる?」

「行って良いのか?」




 イタチは躊躇いがちに尋ねる。

 入学式というものが初めてだったため、家族全員で行ったのだが、大騒ぎになったのだ。里最大の炎一族の宗主蒼雪と婿で暗部の親玉の斎、東宮の、うちは一族のイタチとサスケ、火影候補のナルト、アカデミーに行かなかったほどの天才である稜智。保護者たちは騒然とし、イタチたちは何よりも注目を集めてしまった。

 だが、因幡はそんなことを気にするようなタイプではない。




「えー、良いじゃん。格好良いでしょ。ぼくの自慢だよ」




 因幡は楽しそうにイタチの首に手を回す。

 よくも悪くも、彼は賢いくせにあまり考えない性格のようで、両親が名門の出身であることもそれほど気にしていないらしい。



「母さんも絶対来てよ。母さんすぐに体調崩すんだからさぁ。」

「あまりに無茶を言うな。は今妊娠中なんだから。」

「わかってるよーーーるうさいなぁ。」




 因幡は父親に強く抱きつきながらも、父親の小言を適当にいなして笑った。



次男