サスケは自分の姪御であり、兄の長女・阿加流を背中に負ぶって外に出た。あたりは真っ暗で、松明の明かりがゆらゆら揺れているところしか見えない。
「うぅー、」
小作りながら鼻筋の整った顔にさらさらの漆黒の髪、吸い込まれそうな漆黒の瞳は切れ長できりりと美しい。まだ3歳の幼子は兄の子供の中では一番見目が美しく、そのくせに性格は一番やっかいだと言われていた。
だが、サスケからしてみれば結局のところただの子供だ。
「かかさまは?」
「今日は最近体調が悪いから寝かせてやれ。」
5人目の妊娠がわかったはつわりがあまりにも酷く、昼間でも簡単に起き上がれるような状態ではなかった。子供たちにあまり苦しむ姿を見せたくないと塗籠にこもりきりで、夜中に起こしてやってはかわいそうだろう。
「たたさまは?」
「今日は任務だ。」
阿加流の父であるイタチは今日、任務で出かけている。
「・・・かえってこないの?」
「明日になれば帰ってくる。」
サスケは寂しがってぐずる阿加流に言って、あやすようにもう一度揺すった。
あまり騒ぐとせっかく眠っている甥っ子たちが起きてしまう。そう思ったサスケは静まりかえった炎一族邸の庇からゆっくりと外に出て、少し涼しい庭先で阿加流をあやす。幸い他に起きている人間はいないのか、広い炎一族邸の屋敷はゆらゆらと揺れる松明だけが目立って見えていた。
忍界大戦からすでに10年以上の月日がたち、戦争の傷跡は残ってはいるが、それでも戦後に生まれた子供たちはすくすくと育っている。
結婚した兄と幼なじみのの間にも、子供が4人も生まれ、現在は五人目を妊娠中だ。彼女は妊娠すると大きく体調を崩すので周囲の人間は気をもんでいる。
「どして、かかさまは、」
かまってくれないの、という言葉を阿加流は口の中に溶かす。
阿加流が生まれて翌年には弟の八幡が生まれた。そのためどうしてもの目は八幡に向きがちで、母親が大好きな阿加流はそのことが不満なのだ。そしてまた、今度新たに弟が生まれては、母親が阿加流に構ってくれる時間は少なくなる。
の体調が良くないことを聞かされていても、幼い阿加流にはまだよく理解できず、最近母を求めて泣いては兄たちになだめられていた。
「でも、俺や斎さんもいるだろう?」
サスケは阿加流を揺すって言う。
イタチが任務に忙しく、が子育てや妊娠に忙しい代わりに、サスケや祖父にあたる斎はできる限り子供たちと時間を過ごすようになっている。だが、やはり母を求める阿加流には不服なのだろう。それが少し寂しくて、サスケが目尻を下げると、それに気づいたのか阿加流はぎゅっとサスケの首に手を回した。
「ちがう、あかるはさすにーだいすき、じーじもすき。」
みんな例えようもないくらい好きだ。でも、母親に構ってほしい。それだけなのだ。
「そうだな。俺も阿加流が大好きだ。」
サスケはぽんぽんと阿加流の背中を撫でて、ふぅっと小さく息を吐いた。
元抜け忍であるため、サスケへの里からの目は厳しい。未だに昇進もほとんどできず、任務も幼なじみたちが隊長を務める時のみだ。そのことに歯がゆさを感じることもあるが、子供たちはいつもサスケを無邪気に求めてくれる。
兄夫婦がのんびりしているため、甥姪には厳しく接していると思うが、いつも彼らはサスケを慕ってくれていた。生意気な口を叩いていても、可愛い。
「サスケ兄、」
御簾をあげて、静かにイタチの長男の稜智が出てくる。
「起こしたか?」
「うぅん。また阿加流がぐずってるの?」
呆れたような口調は最近阿加流がぐずることを承知しているからだ。
「あかるぐずってない。」
むっとした顔で阿加流は長兄に反論した。柳眉を逆立てる姿は、さながら小さな獣のようで、稜智は小さく笑った。
「早く寝るぞ。夜更かしは良くないって父上もいつも言ってるだろ。」
「だって、ねむくない!」
阿加流は怒って主張するが、少し眠たいのか目尻がおちてきていた。機嫌が悪いのも半分は眠気が来ているからなのだろう。
「そうか?暗くしたらすぐ眠れるさ。」
稜智はサスケに抱きかかえられている妹の頭を撫でて、サスケを見上げる。
「眠らないと、サスケ兄、明日任務でしょ?俺が変わる。」
「良いのか?阿加流は重くなってきてるぞ。」
「大丈夫さ。俺も重くなったから。」
明るく笑う稜智の表情は、幼い頃のイタチによく似ている。屈託のないまぶしいその笑顔は、小さい頃にサスケが何の心配もなく兄に甘えていたことを思い出させた。
「そうだな。」
サスケは阿加流を抱え直して、小さくあくびをする。幼い頃背負ってもらったように、自分が幼い子供を背負うのも悪くはないと素直にそう思えた。
長女と叔父さん