イタチは目をぱちくりさせて目の前の光景を見やる。




「父上、感想は?」

「・・・すばらしかったと思うぞ。」





 思わず素直に口にすると、イタチとよく似ている長男は少し安堵したように息を吐いた。

 目の前に先ほどまであった林は彼の火遁・豪火滅却によってほぼすべて灰と化している。術の範囲も非常に広く、印を結ぶ速度も申し分ないから、実戦でも使えることだろう。



「おまえ、これをいつ覚えたんだ?」



 うちは一族がよく使うこの術は、それでも範囲が大きく、イタチも実戦で使用することはあっても、模擬戦などではほとんど使うことはない。イタチやサスケが教えた記憶はなかった。




「ん?父上と斎じーじが模擬戦していた時に、やってたじゃん。忘れた?」

「俺はこの間の父上との模擬戦をおまえに見せた記憶はないんだが、」




 1週間ほど前に、イタチはもはや恒例行事となっている自分の師・斎との模擬戦をした。とはいえ木の葉の中でも指折りの忍同士のぶつかり合いであるため、1年に一回程度だ。イタチの妻の父、要するに義父にも当たる彼との模擬戦は危険なため、子供たちが観戦できるはずもない。



「因幡の水鏡で見た、」




 稜智はぺろりと舌を出して、いたずらっぽく笑って見せる。

 水鏡は蒼一族お得意の忍術で、自分が千里眼の効用を持つ透先眼で見たものをそのまま水鏡に投影することができる。次男の因幡は微細なチャクラコントロールが得意で、まだ6歳ながらも医療忍者から引き抜きがかかっている。本人は全くやる気がないため普通にアカデミーに通っているが、のぞき見したい衝動から習得したらしい。




「・・・あいつは本当に困った奴だな。」 




 義父・斎そっくりの明るく、親しみやすい性格の因幡は、その反面非常にだらしなく、今風少年で問題もしょっちゅう起こして帰ってくる。できることが増えれば問題も大きくなるだろうなとすでに予想できていた。先日もクラスの女子をいじめていた男子を半殺しにして帰ってきたところだ。

 イタチの最近の頭痛の種の一つだった。




「良いじゃんか。俺の役には立ってるよ。」

「そうか、」




 性格は違うが、10歳の長男と6歳の次男はうまくやっているらしい。イタチは暗部で忙しくしている中で、長男として稜智はわがまま放題の弟妹たちをうまく御してくれている。そのことにイタチは素直に感謝していた。

 だから忙しくなってからも月曜日の朝は必ず休みをとって、長男の早朝修行にどんなに眠たくてもつきあうようにしている。



「ナルトとはどうなんだ?」

「最近姉のことで頭がいっぱいなのか、酷いさ。この間もあっさり鈴とれたし。ナルト兄って強い時と弱い時の波ありすぎだろ。」

「・・・」




 4歳になる頃から、稜智はナルトに師事している。

 ここ最近稜智の成長はめざましいが、それでもナルトに普通は勝てるレベルではない。なんと言っても彼はまだ下忍で、今中忍試験の真っ最中だ。にもかかわらず鈴をとられるというのは、ナルトの不注意に他ならない。




「来週ナルト兄と母上の模擬戦だよね。負けるんじゃない?」




 稜智は楽しそうにケラケラと笑って見せる。

 来週ナルトとイタチの妻であるとの模擬戦が行われる予定だ。今行われている中忍試験の後に上忍や有名な忍の中でも若手の模擬戦が余興としてある。それに今回はナルトとが出る予定なのだ。とはいえは妊娠中のため、的当てになったらしい。




「普通に負けるだろ。的当てなんて、の十八番じゃないか。」




 イタチは口元に手を当てて笑った。

 これが実戦であるというならば、おそらくよりナルトが有利だろうが、今回の課題はいかにして飛んでくる複数の的に当てるかというものだ。戦略が必要とされる試合に関しては、の右に出るものはいない。日頃のんびりしている彼女は、頭だけは非常に良いのだから。

 ましてや近距離戦闘が大好きなナルトが、遠距離戦闘にむいているに勝てるはずもない。




「サスケ兄はどうするんだっけ?」

「我愛羅君と再戦だと。」

「へーそりゃおもしろそうじゃん。鈴取り?」

「あぁ。」





 サスケと我愛羅の大戦は、なかなか見物だろう。砂でどうやってサスケのスサノオや天照をかわすかが見物だろう。こちらは勝敗が全く予想がつかないと言うことで、稜智もイタチも楽しみにしていた。




「今回は母上とサスケ兄は模擬戦しないの?」

「妊娠中だからな。それにしてもちっともおもしろくないだろう。」

「・・・サスケ兄って母上に弱いよね。全敗だっけ?」




 サスケとも何度か模擬戦をしているが、見事に全敗記録を更新中だ。何度やっても駄目らしい。が遠距離戦闘に特化しており、中距離戦闘の得意なサスケが遠距離の防壁を打ち破れないのが大きな原因だが、それだけではない。

 昔からの恋愛感情のもつれの部分もあるだろうから、イタチはそれを知らない息子の言い方に苦笑してしまった。




「それはな・・・。」




 サスケは昔からが好きだったのだ。彼女に素直になれず、冷たく当たった事はあったが、それでも好きな女に本気になれるはずがない。サスケに隙があるのに許してくれるほど、は弱くない。は筋だけならイタチよりも遙かに才能があるだろう。

 まぁサスケが仮に本気になったところでも強いので、互角程度だろうとイタチは見ていた。




「おまえも大人になったらわかるさ。」




 イタチは息子のさらさらとしていてしなやかな黒髪を撫でる。



「何さそれ。」




 子供扱いをしたのがわかったのか、少し不機嫌そうな顔をして稜智はイタチの腕を叩いた。





長男と父親