「いず兄の反則だよ!そんなの無理!写輪眼とかずるい!」
弟の因幡が高らかに叫ぶ。
「あのな。俺の写輪眼は透明のおまえの白炎は見えないんだぞ。対しておまえは透先眼あるんだから、どう考えてもおまえが反則だろ。」
対して稜智も負けず、理論でねじ伏せようとさらさらと彼の言葉を打ち落とした。
稜智の持っている写輪眼は確かに行動の先読みなどは出来るが、チャクラを視るという一番の効能は白炎を持つ因幡には通じない。対して因幡の持っている透先眼は遠目の能力と、過去視、そして短期未来予測が出来る。こちらは稜智に対しても当然有効的な能力となっている。
要するに稜智が写輪眼を使っても、全くずるくない。むしろ因幡の方がずるいくらいだが、負けたのが悔しいのか、因幡は頬を膨らませてむっとしていた。
「おまえはまだ6歳なんだから、負けて当然だ。」
軽く弟の額を小突いて言うと、彼はむっとした顔で額を撫でた。
「だって悔しいじゃん。いず兄はすました顔してさぁ。」
「この顔は元々だ。」
「・・・すぐに追いついてやるから。」
「望むところだな。」
稜智は軽く返した。
同じ炎一族の嫡男として生まれた二人だが、歩む道は全く違う。能力も違った。
稜智は父親そっくりの顔立ちと、写輪眼、父親とよく似たセンスを持っている本系となる白炎使いだ。それなりに真面目で、物事は理路整然とやるタイプで、アカデミーに通う前からチャクラを勝手に使うようになり、その必要性から4歳からナルトに師事している。
対して次男の因幡は母親、しいては母方の祖父そっくりの童顔とひょうきんな性格をしており、皆からは“口から生まれた”と言われるくらいのしゃべりだ。透先眼を持っており、予言の能力もあり、どちらかというと能力、顔ともに母方の蒼一族寄りで、普通にアカデミーに通っている。
「アカデミーはどうなんだ?」
「退屈だよ−。アカデミーに行かなかったいず兄がうらやましいくらい。普通に木陰で昼寝とかは楽しいんだけど、担任のイルカ先生まくのも結構骨が折れるし、この間もテスト中に寝ちゃってさぁ、父上が辻褄あわさないなら、ゲーム燃やすとか言われちゃった。」
「・・・いったいどんな成績とったんだ。」
「テスト受けた奴は5だったよ。」
「寝てた教科はどのくらいの成績で、いくつあったんだ?」
「1、四つあった。」
半分は1だったということだ。それは怒られて当然だと稜智は思うが、弟はそうでもないらしく、父親は厳しいとぶつくさと言ってみせる。
「だいたいさ、今時ゲームをしないとかないでしょ。」
「おまえみたいなゲーマーもなかなか少ないんじゃないのか?」
「斎のじーじだってすんじゃん。」
「あの人は特別だろ。」
「本当に何でうちははみんな仏頂面なわけ?いず兄もあんまりすました顔してると、うちはのじーじみたいに仏頂面になるよ。」
「・・・」
確かに、うちは一族は比較的渋い顔をしている。祖母のミコトはにこやかにいつも迎えてくれるが、うちはの屋敷に行くと父はほぼ無言、叔父であるサスケも同じく無言。ついでに祖父のフガクも無言だ。昔のしがらみによるものらしいが、微妙な関係の悪さは明らかだ。
ちなみに義理の娘のはずの母、の方は普通に接しているのだから全く不思議だ。
しかしそんなことをまだ知らない因幡にとって、うちは一族は常に全員仏頂面というイメージなのだろう。
「阿加流なんてさぁ、あの年でうちはのじーじにそっくりじゃん。ぶすっとしてさ。顔だけせっかく雪さんに似たのに。」
因幡の言う“雪さん”は斎の妻、要するに因幡たちにとっては実の祖母に当たる。もう40だが非常に容姿が美しく、あまり年をとっているように見えない。かといって斎のように童顔ではなく、整った美貌を持っている。
あまり祖母という感じはしないし、炎一族の宗主は未だに事実上彼女であるため皆“雪さん”と呼んでいた。
その“雪さん”にそっくりなのが妹の阿加流だが。こちらは性格の方は誰に似たのか、常に不機嫌そうな仏頂面で、かわいげがない。
「うちはの家でみんなが仏頂面の理由は大人になったらわかるさ。」
「何それ。母さんはにこやかじゃん。僕もにこやかだよ。」
因幡は軽く反論して、笑って見せる。
別に父に似ていることに稜智とて不満があるわけではないが、その明るい笑顔は母そっくりだ。祖父、母、そして因幡と三代同じ顔という希有な自体を、存外父が喜んでいたことを知っている。ただ性格は父の期待に反して誰も似なかったのだが。
「今度こそ母上に性格が似ると良いな。」
因幡はころころとよく話すしうるさい。阿加流は仏頂面で、下の八幡といつも喧嘩ばかりしている。今度生まれてくる弟も年が近いことだし、性格が似たような感じならばまた喧嘩が増えるだろう。弟妹の喧嘩に辟易している稜智としては切なる願いだ。
「うーん、母さん遺伝子も弱そうだからなぁ。」
「おまえは顔だけは似たじゃないか。」
「・・・それは斎のじーじの血じゃないの?未だに父さんより強いんでしょ?あの化け物。」
因幡はあっさりと一番仲が良いはずの祖父をそう評して、肩をすくめる。確かになと酷く納得できてしまった稜智は、これからの苦労を考えてため息が出た。
長男と次男