「明日長期任務なんだって、」






 四人で並ぶ家族の食卓。

 一人づつ取り分けられた配膳が畳の部屋に四つ。



 座布団が四つ。



 御簾のかかった部屋は電灯の光だけで照らされている。

 寝殿造りの古いこの屋敷は、いつでも薄暗い。

 はうつむき、大きな紺色の瞳を潤ませる。



 明日から、は初めての遠出の任務に出る。

 アカデミーに出てからの初めての難しい任務。

 穏やかな両親の元で、ぼんやりと育ったは自信なさげに息を吐いた。








「大丈夫だよ。」





 とそっくりの顔で、斎が笑う。

 と同じ紺色の髪と瞳。

 笑うとますますよく似る。






「そうですわ、」







 夫の言葉に、母親の蒼雪も笑んで言い添えた。


 二人は穏やかだが、里でも火影候補にあげられるほどの手練れで、血継限界を持つ家の出身だ。




 蒼雪は炎一族の宗主。



 斎は純血の蒼一族最終血統にして予言者。

 けれど、だから、気質的にさっぱり忍に向かないが、忍になる羽目になった。

 宗主のたった一人の娘で、炎一族の東宮(次期宗主)として一族中から可愛がられて競争を知らないはアカデ
ミー時代から他の子供たちから浮いていた。

 其れが班分けをされてから顕著だ。



 自分でも分かっている。


 みんなは必死で忍として身を立てようとしているが、はいざとなれば宗主となって忍をやめることも、誰かと
結婚して早々結婚退職することもできる。

 別に稼ぐ必要はない。

 意識的なレベルで、すでに境遇が違うのだ。




「はぁ・・・・、失敗しそう。」








 は茶碗片手に黙り込む。



 彼女の長くつややかな紺色の髪を横から伸びてきた手がそっとなだめるようになでつけた。








「明日は俺も一緒だから大丈夫だ。」







 わずかに低い声で、イタチは笑った。

 家族の団らんに参加している彼は、しかしの兄ではない。



 里で一番の名家うちはの嫡男だ。


 父親との仲が悪くなり、かつての担当上忍であった斎のところへ転がり込んだのだ。

 現在は居候としてこの家に滞在している。

 元々はうちはの嫡子二人のうちのどちらかを婿に迎える予定だった。



 彼女は炎一族の一人娘だ。


 だが、誰の目から見ても彼女はぼんやりしたいかにも育ちのよいお嬢さんであり、お人好しで大変だまされやす
い。

 そのため里の名家からしっかりした婿をもらおうと、うちはが選ばれたのだ。

 本来長男のイタチではなくその下の弟の予定だったのだが、イタチの家出で現在はイタチが婚約者という見方が
強くなっている。

 おかげでイタチの家出も事実上黙認されているわけだ。





 幸い、はイタチによくなついている。 

 イタチは忍としても大変優秀で、暗部の分隊長だ。








「あれ?イタチも通常任務にでるの?」






 暗部は本来通常任務にかり出されない。

 暗部出身の上忍である斎はイタチよりもずっと暗部の慣習をよく知る。

 そのため訝しんだ。






「らしいですよ。簡単な巻物奪還の任務なんですが、どうやら盗んだ奴らのアジトが音と関係のある研究所みたい
です。」

「まぁ、またですの?」







 イタチの言葉に蒼雪が声を上げる。



 音とは木の葉から抜けた忍、大蛇丸の作った里で、怪しげな研究で不老不死を求めている。

 は意味がわからないのかきょとんとしている。

 知らない方がいいだろう。







「けれどイタチさんがいるなら安心ですわね。」






 蒼雪がゆったりと娘にほほえむ。







「そうだね。よかったじゃないか、。」








 斎もそれに賛同し、両親に後押しされてはやっとうなずいた。

 そしてイタチにはにかみ笑いをこぼす。



 はイタチが大好きだ。



 12歳で、まだそれが恋なのかただの好きなのかよくわかっていない。

 けれどひとまず好きなのだ。

 ちなみに、年の同じイタチの弟とは、あまり仲良くないらしい。

 最近同じ班になったと聞いた。






「そういえばサスケと一緒の班なんだろう?あいつは元気か?」








 弟のことは家出をしても気になるのか。


 イタチはに尋ねる。



 はしばらく考えて、イタチに言った。







「元気。いつも腕を組んで眉毛のとこにしわがついてるの。」

「皺・・・・・、」

「それでね。いつもナルトくんとけんかしてる。」

「あらまぁ、」

「サクラはサスケに会うとくねくねするし。」







 よくわかんない。

 ものすごくまじめな顔では言う。 




 イタチと斎は目を合わせてともに吹き出した。

 小綺麗で中世的な顔は女性受けする。

 いつの時代も変わらない。

 そういう女性がたくさん身近にいたため、簡単にその姿が想像できる。




 肩をふるわせて笑う二人に、と蒼雪は首をかしげる。

 本質を理解できない二人はくねくねする女性を不気味に思えても、おもしろいとは思えなかった。










( 緩やかに流れる ぬくもり )