ぱちゃっと音を立てて水の上を歩く。



 水面歩きは苦手だが、は母に教わっている。

 カカシも同じく水面を歩いているが、ほかの三人の班員――――サスケ、ナルト、サクラはふつうに水の中を歩い
ている。







「疲れるわねー、」








 サクラがため息をつく。

 足が水に取られてよけいに体力を使うのだ。



 それでも文句を言える口があるだけ良い。

 など疲れのせいでチャクラコントロールが徐々に悪化、今や無言で足だけをやっとの事で進めている。


 は体力がない。





 元々が姫君だし、その上幼い頃の境遇も影響している。

 アカデミーにおいての体力テストは万年最下位だ。


 けれど文句は決して口に出さない。







、おまえ平気か?」










 見かねたサスケが尋ねる。










「へ・・・・き・・、」









 息切れしてまともな返事も紡げない。

 本当によく頑張っていると思う。









、サスケにおんぶしてもらいんさい。」









 カカシが隣に並ぶの頭をなでる。



 いつもに付き従う白い炎の蝶も今日はの肩の上でぐったりと羽を閉じている。

 もう限界だ。









「だい・・・じょ・・・ぶ・・・、」








 今にも倒れそうでも、がんばろうとする。









「もう良い!」








 サスケがの手をつかみ、半ば無理矢理背中おぶる。

 しばらくはいやがるように手足をばたつかせていたが、も疲れているのだ、すぐにおとなしくなった。








「いいな〜、」








 サクラが声を上げるが、は荒い息を繰り返している。








はがんばりすぎだってばよ。」






 ナルトがの頭を軽く叩く。


 するとサスケがぎろりとナルトをにらんだ。

 相変わらず、他人に対する態度に容赦がない。

 のこととなると、頓に酷くなる。





 険悪な空気を払拭するようにカカシがへらっと笑う。







「もうすぐ音の国との国境だよ。」









 目的地は音の国との国境近くである。



 そこの研究所が、木の葉のある場所から巻物を盗んだ。

 暗部の下調べでは結界が強すぎて全く中に入れなかったらしい。

 結界破りの天才として有名なの両親だがほかのSランク任務に忙しく、妥協してになったのだ。



 にはあまりに重い事実で沈みそうなので、何も言わなかったが。










「そういえば、今回は暗部からイタチが出てくるんだって?」










 カカシは話題をに振る。


 カカシには、小さな懸念があった。

 イタチは暗部一の手練れ。




 その彼が、普通任務に出る。


 ただではすまない気がしたのだ。

 上層部はずいぶんの能力をおそれつつも評価している。

 それについてはカカシとて、異存はない。

 の力はすごい。今のカカシも、本気のには到底及ばないだろう。





 だが、“本気”ならの話だ。



 は性格が温厚で争いごとを好まず、どちらかというと喧嘩を仲裁するか、後ろを向いて逃げるかのどちらかの子
である。

 能力は評価に値するが、の気質を考えると早めに結婚でもして退職するのが一番ベストだと思う。





 まぁ、カカシの勝手な思いこみも入っているが、イタチとをセットにした限りは上層部にもそれなりの思惑があ
る。

 詳しく知っておきたかった。









「うん。」









 はうれしそうに顔をほころばせた。



 イタチの同行はをとても落ち着かせる。

 そして、イタチの同行は、逆にサスケをざわつかせる。

 彼にとって天才的な兄は劣等感の対象なのだ。




 でもにとっては一番大好きな人。









「斎さんは何か言ってた?」

「いろいろ言ってたけどわからなかった。」

「いろいろって、ちっともあてにならないな。」










 サスケの八つ当たりめいたつっこみ。




 でもは応えない。

 そこに本気の心がないことを知っているからだ。

 だから、サスケの粗雑な言い方もは気にしない。









「おと・・・、母上様が、まただって・・・・、」









 また、



 の母親・蒼雪はそう言った。



 彼女はSランク任務に出る上忍の上、200人規模の炎一族の長でもある。一族のものからたくさんの話を聞いている
だろう。



 その彼女が、また、といったのだ。



 ここのところ音の問題が頻繁に持ち出されるが、カカシが思う以上に事態は深刻になっているのかもしれない。

 カカシは飄々とした態度のまま嘆息する。






 前途多難だった。










( 不安をつれて 音もなくはびこる もの )