「重いー?おりようか?」
少し息を整えると、はサスケの背中でこの二語を繰り返す。
「うるさい。」
サスケはそれを必ず一語で切り捨てた。
サスケの兄イタチとは昔から仲が良かった。
イタチの担当上忍はの父親だったから、その関係で炎一族の屋敷に訪れることも多く、いつでも身体が弱くて家
にいたにとっては良い話し相手だったからだ。
とサスケは同班になるまでもそれなりに会ってはいたが、特別親しかったわけではない。
は病気がちでアカデミーに一年たらずしか通わなかったから、接点は演習の班が数回一緒だったことと、たまに斎
の家に食事をさせてもらいに行ったくらいだ。
新年会でうちはと炎一族が一緒になったとしても多くの場合は風邪を引いて休んでおり、会う時は必ずイタチ
が一緒で、話の主導権はイタチが持っていたから、彼とはほとんど喋らなかった。
別に嫌いだとか、イタチと似ていないから嫌だとか思ったことはない。
でも今のサスケは、イタチが嫌いで、はイタチが好きで、そういうよくわからない中途半端な関係が、そこにある。
サスケは、イタチに劣等感を持っていて、いつもイタチと比べられることにおびえながら、自分でもイタチと比べ
ている。
そんなサスケを、一人娘として一族中から大切に育てられ、競争を知らないは、理解できない。
「はぅ・・・・・、」
空気が重い。
サスケはこのごろすぐに黙ってしまう。
どうすればいいかわからず、は泣き出しそうな顔でカカシに助けを求めた。
カカシは肩をすくめたが、人の気配ににっこりとに笑った。
がさりと木の葉の擦れ合う音が聞こえる。
がこれでもかと言うほど嬉しそうな顔をし、サスケがこれ以上ないほど嫌そうな顔をする。
「あ、イタチの兄ちゃん。」
ナルトが指を指してぽかんとつぶやいた。
イタチはちらりとカカシをみて軽く会釈した後、サスケの背中から泣きそうな顔で手を伸ばすを、サスケから抱
き取る。
その際、一瞬交わる兄弟の視線。
アイスダストが飛びそうな冷たさにナルトやサクラは呆然としたが、確執をよく知るカカシにはうなずけるものが
あった。
本来は炎一族の一人娘で婿を取る立場にある。
そのためうちはの家を継ぐ長男のイタチより、次男のサスケの方がとも年が近いし、うまくおさまるとされてい
た。
だが、イタチは実父との折り合いが悪くなり、その優秀さ故に一族の期待を背負っていたのにあっさりと、元担当
上忍だったの父を頼って家出。
いつも兄に隠れて何の期待もされなかったサスケ一人が、家に残された。
イタチは、自由だ。
いざとなればかくまってくれる担当上忍の斎や、逃げれば快く迎えてくれる炎一族の人々、の母親、そしてがいる。
同年代の友人がいなくても十分にやっていける。
でも。サスケは違う。
ひとりぼっちで時に閉鎖的で、期待をかけているようで未だにイタチを望んでいる家に、おいて行かれたのだ。
「イタチ、早かったのね。」
カカシはを慣れた動作であやすイタチに困ったような顔で笑う。
涙をためるの目尻をぬぐい、そっと背を叩いて宥める。
が落ち着く方法を知っている。
「はイタチさんが良いのねー」
ときめいたようにうっとりとサクラが言う。
「へっ、まぁサスケよりは良いってば・・・、」
「はい、黙った黙った」
いらないことを言うナルトの頭を軽く叩いて、カカシは止めた。
それから無言でサスケを示す。
「あ・・・、」
ナルトは小さく口を開けた。
サスケはぐっと拳を握りしめ、イタチをにらんでいる。
サスケはアカデミーを首席で卒業した。
だがイタチは飛び級した上で首席だった。
いつもサスケの上を、イタチはいく。
「複雑なんだね。」
サスケの様子から察したサクラが、サスケの背中を寂しそうに見つめる。
日が暮れると必ず、イタチは「先生が心配する、」と言って、彼女だけに向ける優しい笑顔とともに迎えにきてい
た。
それをサスケはどれほど歯がゆい思いで見つめていただろう。
は知らない。
何も。
揺
( 不安定にたゆたう それは心か それとも夢か )