自分の中にある透明のチャクラがざわつくのを感じてイタチは顔を上げた。

 とイタチはチャクラを共有している。




 初めてであった頃のは寝たきりだった。



 弱い身体はあまりに大きすぎるチャクラに押しつぶされ、成長どころか起きあがることすらままなら
なかったのだ。

 イタチはその大きなチャクラの半分を肩代わりしている。

 イタチは身体が強いし、チャクラの形質がとよく似ている。

 の特殊なチャクラにも十分耐えられる。

 だが元はのチャクラだ。

 がチャクラを使えば同じようにざわめく。








「サスケ、か?」







 生返事をした弟は、おそらくイタチの言うことをこれっぽっちも聞いていなかっただろう。

 誰かがイタチがわざわざ張ってやった結界から出た感じがした。

 ため息をつき、戻るべく急ぐ。




 しばらくして、木の上でたたずむサスケとを見つけた。



 は真っ青な顔で震えている。

 今にも泣き出しそうだ。

 その隣でサスケは途方に暮れた顔でを見ていた。







、」







 呼ぶと、イタチに気づいたは堪えきれなくなったのか涙をこぼす。

 イタチはの頭を撫でてから、サスケを睨みつけた。






「おまえ、任務やる気がないならおりろ。」






 冷ややかな声音。







「おまえ一人の浅慮が仲間を危険にさらすことになるんだ。」

「オレは何も聞いてなかった!」

「そうだ、おまえは何も聞いてなかった。俺の話をな。だがそれで敵が避けていってくれるのか。」







 あまりにも鋭い緋色の瞳に睨まれて、サスケは言い訳を口の中で溶かした。



 言い訳など、言えない。



 任務では、一人の浅慮がすべての仲間の死を招く。

 わかっていたはずのことなのに、サスケはの忠告を聞かなかった。

 イタチの言葉に耳を傾けなかった。

 はイタチにすがり、自分の陥った状況に怯えている。







「ごめん。」







 怯えさせて、泣かせて、不安にさせて。

 サスケは彼女に対して、謝る以外の何もできない。

 この状況を打開するだけの力を持っていない。



 は少し顔を上げてサスケを見る。



 ふるふると首を横に振って、それから涙を着物の袖で拭った。

 イタチはサスケを軽く睨んだが、何も言わずに視線を違うところに向けた。







「媒介は、洞窟の中にある。土遁を使えば気づかれずに中に入れるだろう。」

「え?前からじゃなくて?」

「あぁ、」




 イタチは頷く。

 をできれば殺伐とした危険に置きたくない。

 それならばできる限り戦闘をさけるのが一番だ。







「・・ねぇ、媒介ってなになの?」 








 唐突に、が尋ねた。

 媒介とは、術の要石とするためにおく忍具だ。







「基本物や貴石、剣だな。」







 チャクラを宿す物が、使い勝手が良いのだろう。



 特に貴石が多い。



 チャクラを宿す特性がある貴石はごまんとあるのだ。

 だが、イタチはもう一つありうる答えを隠した。

 穏やかに育ってきたに言うのが、あまりに躊躇われたのだ。


 は少し考えるようなそぶりを見せ、尋ねる。








「じゃあ、人間ってこともあるの?」







 イタチが言えなかった、もう一つの答え。

 人間。

 気まずい沈黙がおちる。







「ある。特に血継限界を持つ人間は、強い結界を作る媒介なるそうだ。」






 隠しておくこともできず、イタチは重い口を開いた。







「でも、人道的に許されないんじゃ。」








 サスケが驚いたように反論する。


 だが、戦いの世界に人道もへったくれもあったものではない。

 そのことを暗部のイタチはよく知っている、

 女子供でも里のためならば平気で殺す。

 それがこの世界だ。



 忍びの世界の闇。



 励ますように、イタチはの頭を撫で、サスケの背中を叩く。

 彼らには知らないままでいてほしいことが、世界にはたくさんあった。













( 消えていくもの どんなにあがいても どこかになくしてしまうこと )