土遁で掘った穴は結構大きかったので、入りやすかった。

 流石暗部のイタチである。


 一応今や向かうところほとんど敵なしとされている彼だ

 その上と一緒なので、安全にいつも以上に気を配っていた。


 洞窟の入り口近くにあった小さな結界は、があっさりと破った。

 洞窟の中は暗く冷たい。

 しかし何か空気が生ぬるくて、気持ちが悪かった。








「・・・・血の臭いがするな。」







 イタチが小さくつぶやく。


 はその意図を察すことができなかったが、サスケが顔色を変えた。

 カカシ達が囮役として敵の忍びを引きつけてくれているせいか、一人二人倒せばもう忍びはいない。

 不気味な空気の中、奥へ奥へと進んでいくと、大きな鉄の扉があった。

 ひとまず、イタチが押してみるが、あかない。

 鍵がかかっていて、それを外さなければ到底開きそうになかった。




 は白色の炎の蝶に命じる。








「溶かして、」







 ふわりと蝶は鍵の上にとまり、一瞬輝くと、まるで水のように鍵が融解して地面に落ちた。

 じゅう。


 冷たい物と、限界まで熱された物がふれあうときにする音が静かな洞窟に響く。






「サスケ、手を貸せ。」







 イタチとサスケが二人がかりで扉を開く。

 なかなか重そうだったが、それでもじわじわと開く。

 中から生ぬるいむっとした風が吹いてくる。




 どこかに風穴が開いているのだろう。

 外からの空気が通っていた。







「暗いね。」






 夜目の利かないは目をこらす。

 イタチは、扉の隙間から中を窺って、目を見張った。







「なんてことを・・・・・、」







 呆然とした台詞に、サスケも中を覗く。

 おぞましい光景がそこにあった。




 男が、つながれているのだ。

 鎖が、たまに音を立てる。

 体中に釘が打たれ、血が止めどなくしたたっている。

 長い間放置されていたのだろう、傷や足下にたまる血が悪臭を放っていた。


 たまに上げるうめき声は酷くくぐもっていて、この厚い扉の 向こう側に届くことはなかっただろう。

 死んではいない。

 どう見てもその男は死んで当然の傷をして、なのに生きてそこに放置されていた。







「なんで・・・・、」







 サスケはその男を見ながらつぶやく。

 内臓は腹から出て、腕に傷口から白い骨が見えている。






 それでも男は死なない。




 か細い息をする音が、まだ男が死んでいないことを自分たちに知らせる。

 サスケが知る限りの知識では、この状況を説明することができない。

 しかし、イタチは説明する知識を持っている。



 神の系譜の直系だ。


 炎一族をはじめとする神の系譜の中でも直系に当たる人間は、人間ではない。

 恐ろしい能力と、生命力を持つ。

 そして、チャクラがつきない限り死なない。



 もそうだ。

 神の系譜の直系は長命で、かつ刺されても死にやしない。

 イタチは目を写輪眼に変えて、その男を見つめる。



 今にもチャクラがつきそうだった。

 不幸なことに、チャクラがつきない限り死なないという神の系譜の特性が、彼の苦しみをのばし続け
ていたのだ。

 神の系譜の者の血には傷を治す力や、他者を隷属させる力があると言われる。



 強い力を持つ血は強い結界を張るための媒体になる。

 そのことを考えれば、彼以上に媒介にうってつけの人間はいないだろう。






「大丈夫!?」







 目が闇になれてきたが、彼に近づく。

 ぱたぱたとの肩にとまる蝶がせわしなく動く。






「・・・・・・・・ね・・・・、」







 男の血まみれの唇が小さく震える。





「え?」







 は首を傾げて男を見上げる。

 彼は血走った目をに向け、言った。






「・・・人間なんて・・・死ね・・・、全部、滅ぼせ・・・」






 ぞくりとするような暗い声。

 怯えたようにが彼から離れる。

 五大国に一つずつ存在すると言われる神の系譜の直系の中で、穏健派と言われるのは火の国木の葉隠
れの里に属し、他の忍びと同じ扱いを受けることを望んだ炎一族と、土の国に独自の領土を持ち善隣外
交をする堰家の二つだけだ。

 雷の国に存在する麟家は、国をも支配下においていると言われる。


 炎一族と堰家は仲が良いが、基本神の系譜はそれぞれと関わりを持たない。

 だから、彼がいったいどの国の神の系譜なのか、見当もつかない。

 だが、言葉から、神の如き力を持つであろうこの男が、人間を嫌っていることだけはわかる。




 は目を丸くして、哀しそうに涙をためた。

 イタチはを背中に庇いながら、彼を縛る結界の術式を解いていく。

 すべて取り終わると、男はざわりとチャクラを不穏に揺らした。





「殺してやる・・・」






 手負いとはいえ、神の系譜の直系だ。

 イタチはすぐにとサスケを背中に庇う。

 周囲の風が、男に集まる。

 イタチはの肩にいた蝶を手に取った。

 の神の系譜としての力である高温の炎の塊でもある蝶は、イタチが持つのチャクラに反応して鱗
粉を散らし、周囲の風を支配下におこうとする男のチャクラに抗う。




 油断すれば、その瞬間全員が死ぬことになるだろう。



 結界が外れた洞窟の中で、二人の男がにらみ合う。

 身動きするのも躊躇われるほどの緊迫した空気。

 しかし、洞窟を襲った震動が、その空気を破った。







「なっ!どうなって、」

「崩れるのか?」







 イタチが男から目を離さずせっぱ詰まった声で言う。

 それに答えるようにぱらぱらと頭上から小石が振ってくる。







「兄貴!」







 サスケが叫んで、イタチの服をひく。








「あぁ、!」







 答えて、イタチはの手を取ろうとしたが、するりとはすり抜け、男の方に走る。

 そして、傷だらけの男の肩に手を置いた。







「早く外に出よう!死んじゃうよ。」







 膝をついている男に手を貸して、何とか立たせようとする。







「サスケ、先に行け!」







 サスケの背中を押してから、イタチも男に歩み寄る。


 男は目を丸くしたが、イタチが肩をかすと大人しくされるがままになった。

 あまりの傷に、もう意識がないのだろう。

 を振ってくる岩から庇いながら、男を連れて外へと続く道を歩く。






「オレも手伝う。」







 サスケが、もう片方の男の手をとって手伝った。

 やはり、先に行かず待っていたのだ。

 上から砂や小石が降ってくる。

 をちらりと見ると、大丈夫と青い顔で頷いた。


 なんと言っても怖いだろう。

 イタチは軽くの頭を撫でて励まし、外に出ることだけを考えた。







( いろいろなことが砕ける音 おちていくこと )