外に忍びはもういなかった。

 そのかわり、木の葉の暗部がたくさん集まっている。

 イタチは男をその場に寝かした。







「大丈夫?」






 が泣きそうな声で男を心配する。

 理屈はわからなくても、男が自分と似た存在であることには気づいたのだろう。

 男は青い顔でぼんやりと空を見上げていた。


 外で見てみると、案外若い。


 多分20そこそこだろう。

 薄緑の髪が、森の木々と同じように風に揺れる。


 イタチは血と汗と泥で酷い顔になっているの頬をタオルで拭いてやってから、ついでにサスケの顔
にタオルを投げつけた。







「すごい顔になってるぞ。」

「うるさい、兄貴も変わらない。」






 ふんっと顔を背けて、サスケはタオルを受け取った。

 確かに、自分もすごい顔になっているだろう。






「大丈夫ですか?」






 暗部で自分の部下をしている男が、慌てた様子で駆け寄ってくる。


 イタチは鷹揚に頷いて、男の怪我の治療をするように促した。


 ぐったりとしてはいるが、男もしっかり生きている。

 が男を助けようとしたときは驚いたが、ひとまずよかった。

 結界が破れたから、もう巻物の奪還は終わっているだろう。

 今回の任務はもう終わりだ。


 イタチはサスケと二人を見て、サスケが足を引きずっていることに気づいた。






「サスケ、足どうした?」

「さっき出るときにけつまずいた。」








 随分と間抜けな話である。

 イタチは半ば無理矢理サスケを岩上に座らせ、足の状態を見る。







「サスケ、大丈夫なの?」







 が潤んだ瞳のまま尋ねる。

 艶やかな紺色の髪は砂や泥をかぶってしまって煤けていた。






「大丈夫だ。軽いねんざだろう。」








 イタチは端的に答えて、医療班の治療を受けている男に目を向ける。







「あの人ね。風の国の人だったんだって。飃家のひとでね。捕まってたんだって。」

「誰に?」

「えっと・・・・・音って・」







 音とは誰も表だっては言わないが、大蛇丸のことだ。

 いろいろな術や血継限界に興味を持っている大蛇丸ならば、神の系譜に興味を持つだろうし、神の系譜を捕らえるだけの力を持っている。

 大蛇丸が神の系譜に興味を持っていることがわかった以上、一族は違えど、も神の系譜なのだ。


 気をつけなければならない。




 しかし、風の国にいるはずの飃家がどうして捕まったのだろう。




 大蛇丸が、風の国に不法侵入したことになるではないか。

 大蛇丸との関係があからさまになったから、たかが巻物奪還任務にこれほどの暗部が集まったのだ。

 は不思議そうに暗部の人々や、事後処理に駆け回る医療班を見ている。






「もう、大丈夫だって。」








 サスケが疎ましそうにイタチを睨む。


 せっかく手当をしてやったのにその態度が気に入らなかったイタチはふてぶてしく笑った。









「昔みたいにおんぶして帰ってやろうか?」

「はぁ?いつの話だよ!」

「まだ、三年もたってないだろう?」

「そうなの?サスケもイタチにおんぶしてもらってたの?」






 が無邪気に目を丸くする。







「そうなんだ。昔は兄さん兄さんってそれはもう可愛らしかったのに・・・・、」

「黙れ!」







 サスケが顔を赤くして怒鳴る。

 それが面白かったのか、は本当に楽しそうに笑った。






、サスケー、大丈夫だってばよー?」







 遠くから、カカシにつれられたナルトとサクラが走ってくる。

 を見るなり、サクラはを思いっきり抱きしめる。








「よかったぁ。洞窟が崩れたとか聞いたから。」








 涙目で言いつのる。


 ナルトはサスケにいち早く駆け寄った。






「サスケぶっさいくになってんじゃん。」

「おまえよりましだ。ウスラトンカチ」

「せっかく心配してやったのに。」

「それが心配した奴の言うことか。」







 早速喧嘩の様相を呈してきたので、カカシは苦笑した。


 いつも通りの光景だ。

 だが、気を抜けない問題が浮上した。







「イタチ、音か?」






 カカシがいつもとは全く違う真面目な顔で尋ねる。



 イタチは頷いた。








「はい。彼も神の系譜らしいんですけど、どうやら風の国の神の系譜のようです。」

「風の国で捕まったってことか。」






 不穏な動きが、そこにある。



 最近音の動きが活発化していることは、カカシもイタチも知っている。

 そして、これから数ヶ月のうちにある恒例行事が待ちかまえている。








「何もないと良いんですが、」

「そうだね。」







 カカシはイタチの言葉に大きく息を吐く。

 今年度アカデミー卒業の中で優秀な者ばかりを集めた班の担当上忍であるカカシだ。


 大蛇丸は力のある者、才能のある者、潜在能力の高い者をねらう。

 カカシ班は、うってつけのねらい目である。

 それも才能があるとはいえ、まだひよっこにすぎない。


 何もなければいい。




 それはただの願いにすぎないが、それを実現させることができるのも自分たちだ。

 大きな大きな、ため息を二人でつきながら、考える。

 大切な者を守れるのは、自分自身。

 この手と、この力だけだ。
 


 




( 未来 またはいまのもっと明日、 むこうにあるもの )