手から器用に方向を整えて放たれた手裏剣が的の中心に吸い込まれるように突き刺さる。
その様子をぼんやりと見ていたは顔を上げた。
感心するしかない。
的は全部で十八個、真ん中に手裏剣が一ミリの狂いもなく刺さっている。
イタチは写輪眼を普通の黒い目に戻し、それを確認する。
暗部に所属するうちは一の天才。
「すごいイタチ、」
自分との違いをまざまざ見せつけられ、は少し沈んだ。
イタチは穏やかに笑っての頭をなでつける。
日頃は朝の苦手なだが、今日はイタチに起こしてもらってイタチの早朝修行に同行している。
前回の任務も震えているだけで結局何もできなかった。
だから、一生懸命修行しようと頑張ることにしたのだ。
「水遁、できそうか?」
「うーん。わたし性質変化が炎と風みたいだから、すごく難しい。」
「そうだな。まぁ、ゆっくり覚えればいいさ。」
イタチはもう一度印の組み方とチャクラの練り方をに教える。
を意識してゆっくり組まれる印をはぼんやりと見つめた。
大きな手。
骨張っていて、短く爪の切られた手は、細いけれどよりずっと大きい。
より、ずっとたくさんの人を守れる。
「イタチみたいになりたいな。」
は無意識につぶやいた。
強くなりたい。
この間の任務も結局がやったのは結界を破っただけで、後はイタチが対処してくれた。
ちっとも役に立っていない。
「は、今のままで良い。」
イタチはしゃがんで、と目線をあわせる。
黒い瞳と、大きな紺色の瞳が交わる。
どこか似ていて、違う色。
「は弱くて良いんだ。は、俺が守るから。」
まっすぐ前を向く、漆黒の瞳は、を一番守ってくれる。
背中を押してくれる。
イタチはいつもそうだ。
優しく頑張れと励まし、背中を押して、どうしてもつらくなったら、逃げる道も残してくれる。
誰よりもに優しい。
だから、は今まで、そしてこれからも頑張れる。
イタチが守ってくれるから、まだもう少し頑張れると思える。
「うん。」
は笑って頷く。
しばらくぼんやりと二人で抱き合っていると、一人の青年がやってきた。
「ご飯、らしい。」
この間の任務で助けた風の国の神の系譜・飃家の宗家だ。
名前は榊。
飃家の宗主は名前がないらしい。
けれどそれでは不便なので、がつけた。
薄い緑色の髪がさらさらと揺れる。
同じように緑色の瞳が、朝の柔らかな太陽の光に煌めく木の葉を映した。
風の国にいたが、大蛇丸に一族を滅ぼされた上に自分自身も捕らえられ、結界の媒体としてつなぎ止
められていたのだ。
人間を恨むような言葉を発した榊だが、今は炎一族の屋敷の端っこで暮らしている。
大怪我を負っていたが、そこは流石神の系譜、数日もすれば全快していた。
何かしたいと言うことなので、ひとまず屋敷で雑用をしている。
火の国と風の国は同盟国なので、風の国に帰るかと尋ねたが、答えは否だった。
人間に反意を見せた榊を、ただ里の忍びとして働かせるわけにもいかない。
やイタチを食事に呼びに来たり、掃除をしてみたり、慣れない手つきながらいろいろやっている。
本人もそれが楽しいようだ。
助けられた頃は、全く表情が動かなかったが、今は少しだけ頬が揺れたり、唇が上がったりするよう
になった。
良い傾向だと思う。
「今日の朝ご飯は何か知ってるか?」
「・・・・確か、鯖の塩焼き。」
イタチの質問に、無表情のまま答える。
はうっとひるんで嫌そうな顔をした。
「鯖の塩焼きは塩辛いからあまり好きじゃないのに。」
基本的には味の濃いものが苦手なのだ。
「でも、は鮭の塩焼き。」
「ほんとー?」
榊が付け足すと、途端の表情が明るくなった。
イタチの腕にくっついて笑う。
「鮭、鮭。」
は魚の名前を連呼する。
鮭はの好物だ。
あの柔らかい色から、まろやかで脂ののった身まで、全部が好きらしい。
半分くらいとってつけの理論の気もするが、ひとまずは鮭が好きだった。
榊が本当に薄く笑う。
久々にのんびりとした朝だった。
安
( 穏やかな様 心に波が立たず 緩やかに構えることできる様 )