「中忍試験?」








 は首を傾げる。

 こいつ何も知らないな。

 サスケはにあきれた視線を送りながら、内心で勝手にそう思った。








「そ、いきなりだが、おまえ達を中忍選抜試験に推薦しちゃったから。」







 カカシが軽く言う。 



 だが、事実はそんなに軽くはない。

 中忍とは、隊長をすることだってできる立場だ。

 簡単に受験できないことは、誰もが知っている。

 以外は。








「そうなんだー、」

「いや、冗談だろ。」








 素直に頷くにサスケは思わず隣からつっこむ。

 カカシは全く信じていないサクラやナルト、サスケを一瞥しての頭を撫でた。







「何でうちの班は以外はみんな捻くれてるだろうね。先生哀しくなっちゃうよ。」








 わざとらしく嘆いてみせる。

 3人は胡散臭そうに細い目でカカシを見たが、だけが真面目に哀しそうな顔をした。




 逆にそれにカカシがひるむ。



 押して駄目ならひいてみろというやつだろうか。

 今度カカシが遅刻したら、をけしかけてみよう。








「まぁね、で、これが志願書だ。」








 カカシは気を取り直したように息を吐く。


 ぱらりと四枚の判子の押された小さな紙切れを取り出すと、やっと全員が信じた。







「カカシ先生大好きー!!」







 ナルトがカカシに喜びとともに抱きつく。

 カカシはナルトにとまどいながら志願書をひとりひとりに配っていく。








「・・・といっても推薦は強制じゃない。受験するかしないかを決めるのはおまえ達の自由だ。」







 は受け取った志願書をじっと見る。


 中忍試験と言えば、イタチの時を思い出す。

 イタチは十歳で中忍になった里できっての天才だ。




 担当上忍はの父・斎。




 イタチはあまり中忍になりたがらず、斎もあまりイタチを中忍に押したがらず地味に渋っていたらし
いが、イタチの生家うちはの意向から結局受けて、受かった。



 その後あっさりと暗部入りが決まったのだが、中忍試験では一悶着あった。

 イタチは同じ班だった二人と本戦で戦う羽目になり、それを倒して中忍になったらしい。

 彼は彼なりに傷ついていたのを覚えている。

 イタチは、あまり感情を親しいもの以外の前で表に出さない。



 人に感情を見せることを嫌う。



 でもとても優しいから、いっぱい傷つくのだ。

 の家で随分長い間沈んでいたのをはまだ覚えているから、他の3人のように中忍試験に良い印象
はなかった。








「それと、。おまえは中忍試験は受けても受けなくても良いぞ。」








 まるでの考えを見透かしたように、カカシが言う。







「ふ?」

「なんで?」








 カカシの台詞にいまいち意味のある答えを返せなかったのかわりに、サクラが尋ねる。








「中忍になるには登用という方法もある。正直な話、おまえの性格を考えば、あまりおすすめはできな
い。」








 の一族は里でも最大の規模を誇る炎一族だ。 




 は宗主の一人娘、次期宗主となるべく生まれた。



 炎一族は木の葉隠れの里、ひいては火の国との宥和政策をとり、多くの炎一族のものが宗主を含め、
里に貢献している。

 だが、は元は身体が弱く、アカデミーに一年しか通わずに卒業した、まだひよっこだ。

 もちろん卒業試験をずるしたわけではないし、実力はあるが、忍びとしての本質を何も知らず、性格
は温厚。

 の能力は里にとって有益だし、わざわざ死の危険を孕む中忍試験を受けさせる必要性はなく、登用
で良いんじゃないのか、というのが、今の上層部と一族の考えだ。




 なら何故推薦書がとれたのか、

 それはの父・斎と、炎一族の女宗主でありの母・蒼雪の考えだ。





 ――――――――姫宮の意志を尊重します。





 蒼雪ははっきりと上層部と一族の前でそういった。

 の意志を一番として、が受けたいと言えば受けさせる。



 一族は、宗主の言葉を絶対としている。



 また上層部は、予言の力を持つ斎に頼りきりのため、斎に頭が上がらない。

 結果的に、の意志に任せるという結論に相成ったのだ。









「ま、よく考えて受けたい者だけ、その志願書にサインして、明日の午後四時までに学校の301に来
ること、以上。」








 よけいなことを全く言わずに、カカシが消える。

 それは担当上忍の意志に関係なく、彼ら本人で決めさせるため。








「・・・・、」








 は俯いたまま、いつでもたれ気味で気弱そうに見える目尻をますます下げた。

 乗り気でないことはすぐにわかる。

 サスケはの様子を窺いながら、ため息をついた。









「なんだ怖いのか。」

「・・・・・・怖いんじゃなくて、・・・」







 自身にもわからなかった。



 カカシの言葉の裏に、は一族の者達の意向を敏感に感じた。 

 別に一族の人々が、を思って中忍試験を受けなくて良いと言っていることはわかっている。

 いつでも、彼らは東宮であるに優しい。



 大切にしてくれる。



 でも、みんなからまるで蚊帳の外におかれているみたいで、とても寂しい。

 いつもそうだ。

 身体が弱くて、遊んでほしくて、でも彼らはいつもを東宮として敬う。

 対等の立場には決して立ってくれない。



 ぽっかりと心に開いた穴。



 なんと表現すれば良いんだろう。

 は彼らにとって、いつも弱くてちっぽけな守る立場の人間なのだ。

 とてもとても、歯がゆい。








も一緒に受けようぜー、だっても七班じゃん。な、」







 にっとナルトが屈託なく笑う。




 は目を丸くしてナルトを見た。

 けれどあまりに迷いなく言われてしまうと、そうなのかも、とか思ってしまうだ。







「うん。」






 はナルトにつられて、あっさりと頷いた。

 それが波乱の幕開けだった。












( ゆらゆら揺れる流れるもの たゆたうもの 時に人を陥れるもの )