一番の恐怖がいなくなってもサクラとサスケは十分ほど、呆然としたままだった。

 それでも敵はやってくる、先に我にかえったサスケは、木にぶら下がっていたナルトと、を寝かせ
た。






 二人とも別に大怪我はない。眠っているだけのようだ。 



 ほっとして、サスケは大きく息を吐いた。

 首筋の傷が痛む。

 恐怖が過ぎ去ったとはいえ、まだ自分たちはスタートラインのままだ。




 天の書はさっき大蛇丸にとられ、燃やされてしまっている。



 だが、自分たちは誰もかけていないし、死んでいない。

 あれ程の敵にあって生き残ったと言うことを考えれば、幸運だとも言えるだろう。








「んっっ・・・ふ・・・」









 がのそのそと目を覚ます。

 むくりと起きあがって状況がつかめないのか、きょろきょろ辺りを見回した。








「よかったぁー、。」 









 呆然としていたサクラが、に抱きついて涙をこぼす。

 サクラとて、怖かったのだ。不安だったのだ。









「よかった、よかった。」









 何度も同じ言葉を繰り返し、を抱きしめる。



 だけに向けられた言葉ではないだろう。

 全員に向けられたものだ。








「あの蛇みたいな人はどうしたの?」








 不安そうに、は尋ねる。








「イタチと斎さんがおっぱらってくれた。」

「イタチと父上様が?」







 はサスケの答えに意外そうだった。








「そうか・・・・父上様ってやっぱり強いんだ。」







 再確認するように頷く。



 サスケは文句の一つも言ってやろうかと思ったが口を噤んだ。

 斎は日頃ぼんやりしている。

 財布は盗まれるし、溝にはまってこけるし、ひとまず抜けている人だ。

 娘のもそう思っていたから、斎が強いのを大人しく認めることができないのだろう。










「サスケ、すごい怪我。」








 がサスケの肩や口から流れる血を見て悲鳴のように叫ぶ。







「サクラも髪の毛ぼさぼさなってるよ。」








 あまりに青い顔で尋ねるの方が調子が悪そうだ。

 何かを気にしているのだろうか。

 酷く俯きがちなのが、サスケにも見て取れた。




 は精神的に沈むと、必ず俯く。



 サスケはナルトを蹴り起こしながら、の様子を気にかける。

 木の葉が、廻るように風が吹く

 この状況で敵に襲われれば、全滅も考えられる。








「陰に隠れるぞ。」








 全員で、木陰に行き、の透先眼の情報を元に緻密な罠を張ってから、そこで休むことにした。









「二日ほど、怪我の治癒についやすしかないな。」










 忌々しげにサスケはつぶやいて周りの様子を窺う。





 はサクラとナルトの怪我の治療をしながら、頷いた。

 ナルトも大蛇丸に殴られたりで、酷い怪我をしている。

 は打ち身には湿布を、小さな傷には絆創膏を、大きな傷にはガーゼを張っていく。もっと酷いとこ
ろには包帯だ。




 医療具と非常食は、中忍試験をよく知るイタチと斎が持たせてくれた。

 何を持っていっても良いのが、中忍試験だ。


 非常食がお菓子というのには笑えるが、甘い金平糖は恐怖と疲労ですさんだ達の心をいち早く癒してくれた。







「甘いもんっていいもんだな。」








 甘いもの嫌いのサスケまでがつぶやく。








「ほんっと、が非常食持っててよかったってばよ。」








 ナルトも安堵の声を上げる。



 もちろん四人もいるのだから四日間全部保つとは考えにくい。

 それでも乾パンや水などの非常食をはだいぶたくさん持たされていて、二日三日ならば持ちそうだ
った。

 二日ほどは動かずに治療に費やせる。

 敵を警戒しさえすれば。




 は透先眼で辺りを見回す。



 敵が、近づいている。音符の額あてから音だと言うことはすぐにわかった。

 このせっぱ詰まった状況なのに、唐突にサスケは疲れたようにふらりと倒れる。








「サスケ君!!」








 サクラが抱き起こすと、すごい熱だった。 

 呪印が効いているのだろうが、この場にいる誰にもそんなことはわからない。







「どうしよう。音の忍者が来ちゃうよ。」







 が慌てた様子で言う。


 だが、皆が疲れ切ったこの体勢で、サスケを抱えて逃げ切れる確率は低い。







「ナルト、わたしたちは音の忍びを倒しに行こう。」

「え?」

「二手に分かれるしかないよ。サスケはほっていけない。今何とか動けるのはわたしとナルトでしょ?

サクラは、サスケと一緒に敵との遭遇に備えて。」

「オレ達二人でやんのか?」

「向こうに3人みたい、難しいけど・・・彼らは正確なわたし達の居場所を見なければつかめない。で
もわたしの目があるから、わたしたちは相手を待ち伏せできる。」







 音の忍者の実力はどうであれ、ひとまず3人を倒さなければいけない。


 そして、安全を確保する意味でも、その場に倒れたサスケがいては、上手な戦いはできないのだ。

 なら、こちらにできるだけ有利な状況を作り出すために、道で待ち伏せした方が良い。







「でも・・・」








 サクラが、不安そうににすがる。



 だが、今一番怪我が少ないのはとサクラ。


 はその目を持っているがために、戦場に出向かなければいけない。

 でないと待ち伏せするのも場所がつかめなくなる。

 ナルトはだいぶ怪我を負っていて何とか動ける程度だから、援護しかできず、サスケを守れるとは思
えない。

 サクラは自動的に、残らなくてはいけなくなる。






「ねえ、サクラ。貴方は忍びだよ。」








 がまっすぐ紺色の瞳をサクラに向ける。







「サスケを守れるのは、サクラしかいないんだよ。」








 サクラは泣きそうな顔で、の言葉を聞く。

 そして、何度も頷いた。








「うん。うん。・・・」










 不安も恐怖も、みんな同じだ。

 サクラは泣きながらに抱きついた。






「がんばる。・・・だから、」








 早く帰ってきて。



 サクラは言えない言葉を飲み込んだ。

 はサクラに向けて、笑う。







「帰ってくるよ。すぐに。」







 無邪気で、でもサクラには酷く心強く思える。


 どうしてだろう。

 あんなにいつもおどおどして、小さくなってよく俯くが、とても頼りになる気がした。












( 感情 こころ 慈しむことのできる内情 )