塔が見えてくる。




 サスケの背中のは、気力が尽きたのか、眠っているようだった。

 仕方がない、ここ四日ほどちゃんと寝たのは数時間だけなのだ。




 体力がないとしてはよく頑張ってくれたと思う。

 の透先眼があればこの鬱蒼とした森の中でも他の班を探すことができるが、これ以上のむりは望め
まい。もう十分だ。









「ここからは慎重に歩いていこう。」







 カブトがかけ声をかける。


 独特の緊張とがいるために味あわずにすんでいた、どこに敵がいるかわからない恐怖が一気にサス
ケやサクラ、ナルトを襲う。

 いつもが周囲を見張っていてくれたから、自分たちは敵の位置を把握し、怖がらずに敵に対処でき
たのだ。



 塔に向かって罠にかからないように慎重に歩き出す。





 全員が緊張しているのがわかる。

 しばらく歩いて、突然サクラが膝をついた。








「もうだめ・・・、どれくらい歩いた?ちっとも塔が近くならないじゃない。」








 サクラは荒く息を吐いて言う。








「すぐ目の前に見えるのにおっかしいなぁ・・・・。」








 ナルトも疲れたのか、サクラの隣に座り込む。





 確かにそうだ。

 歩いているのに、塔は近くならない。







「幻術。」






 いつの間にか起きたが、サスケの背中から言う。







「おろして、」

「だがまだ・・」

「大丈夫だよ。」







 いつも通りの無邪気な笑顔を返して、はサスケに言った。








「幻術だよ。くるくる同じ場所を回らされているの。」

「そのようだね。」







 の意見にカブトも賛同する。







「このままじゃあ体力を無駄に削って、疲れ切ったところを叩かれるだろう。」








 体力があるままだと、なんぼ子供でも倒しにくい。

 だから、くるくる同じ場所を回らせて体力を削り、弱ったところを倒そうとしている。










「出ようか。」







 としてはよく頑張ってくれたと思う。

 の肩で、ぱたぱたと白色の蝶が羽ばたく。




 炎の蝶は他人のチャクラを焼き、術を阻害するため、は全く幻術にかかっていない。

 の後ろからついていけば、幻術からも逃れられるはずだ。







「そういうわけにも、いかないようだよ。」







 の案に、カブトは肩をすくめた。



 ざわっと周囲の木々が揺れる。

 気配が現れ、緊張に心が凍り付く。

 の顔が強ばった。

 第二次試験の最初にあった、雨隠れの忍びだ。







「生きてたんだー、」







 は脳天気そのものと言った感じで素直に感心の声を上げる。



 雨隠れの一人は、少なくともが起爆符を背中に貼り付け、爆発するのもちゃんと見届けた。

 背中に大やけどを負ったはずだから、回復してこうして襲ってきていることを考えれば、その回復力
は素直に評価できる。







「あの時のお返しはさせてもらうぜ。」







 変なマスクをした男達は意気込んでいるようだ。



 彼らも合否がかかっているので必死なのだろう。

 達とてなんとしても、天の書を手に入れなくてはならない。

 疲れで目眩がするところなのだが、は透先眼を開く。



 しかしそれよりも早く、男達が分身をした。






「!!」








 ナルトが目を見張る。



 分身は、影分身と違って実態がない。

 なのに、一斉に攻撃してきた彼らがクナイをこちらに投げつけてくると、ナルトの手が切れた。







「くっ!!なんで!!」







 分身には実体がない。

 当然クナイを投げる動作を見せることができても、実際に切れることはないはずなのだ。

 なのに、ナルトの手が切れた。








「気をつけろ!分身の中に本物がいる!!」








 賢いサスケが、一瞬で答えをはじき出す。



 分身の中に本物がいる。

 これではの透先眼で辺りを見回せたとしても、何の意味もない。









「きゃあ!!」








 クナイが飛んできて、とっさのところでサクラが避ける。

 が悔しそうに唇をかみしめる。








「あれ?」








 次の瞬間、は妙に間抜けな、ぽかんとした顔で声を上げた。






「なんだ。」

「なんだってばよ。」 








 思わずサスケとナルトも聞いてしまう。

 あまりに間抜けすぎる声だった。







「隠れてる、」

「どこに、」

「土の中。」







 土の中に隠れる必要があるのは、本体でしかあり得ない。

 分身の中に本物がいるのではなく、分身の陰に隠れて、土の中にいる本体が攻撃していたというわけだ。








「ナイス、!」








 サスケは叫んで、近くにおちていた木の棒をの示した場所に突き立てる。







「がっぁあああ!!」







 男の一人が出てきて、痛みに悲痛な雄叫びを上げた。

 の透先眼は、嘘はつかない。








「おっしゃ!!まかしとけっ!」






 ナルトが出てきた男を間髪入れずに蹴り飛ばす。

 一人ノックアウトである。

 は残りの二人から目を離さないように動きを追う。



 後は簡単だ。

 男達は気づかれたことに焦り、地面に出てこようとする。







「そこの変な草の生えてるところの下。」

、えっらい!!」







 が教える場所をサクラが思いっきりその場所を殴りつける。

 出てこようとしていた男達は頭を強打され、倒れ伏す。



 もう、モグラたたきの要領だ。

 残りの二人も気絶させ、荷物をまさぐると幸いにも天の書が出てきた。








「みつかったってばよー!!」







 ナルトが元気に飛び跳ねて喜ぶ。

 やっと天の書を見つけた喜びに、は一緒になって笑いながら、隣で薄ら笑いを浮かべているカブト
を横目で確認する。



 は透先眼で、遠くを見ることはできるようになった。

 透先眼の能力は、世界のすべてを見透すこと。

 使いこなせれば過去や短期の未来をも視ることができる。

 はまだ、使いこなせていないから、未来や過去を視ることはできない


 だが、カブトが出てきたとき、には視えた。

 カブトが誰に何をするように言われ、どうしてここにいるのか。




 取引を持ちかけたのも、そのためだ。



 カブト達にとっての誤算は、の透先眼がまだそこまで映せないと思いこんでいたことだ。

 おそらく、カブトはの父・透先眼を使いこなせているはずの斎を避けてさけて通っていただろう。

 彼の目ならば、すぐにばれてしまうから。







「さぁ、塔へ行こうか。」







 カブトが手を叩いて喜ぶナルト達を促す。


 は大きく息を吐いた。

 自分がした取引が果たして正しかったのか、間違っていたのか、自身にもわからなかった。











( 暗いこと 見えなくて人の恐怖をあおるもの )