は屋敷に帰ると風呂に入り、食事もとらずにひとまず柔らかい布団で爆睡していた。





 やはり疲れていたせいかイタチにへばりついたまま食事もせず、眠りについた。

 服を掴まれたままのイタチは、仕方なくの傍で眠るを見ていた。

 幸い怪我はほとんど無い。









「ご飯・・・・、」









 榊が無表情で夕食を運んできたが、は眠っていた。

 イタチは夕食を食べながら、を見つめる。

 炎一族の者達は、それはもう大はしゃぎだった。

 がまさか中忍試験の本戦にまで残るとは思っていなかったのだろう。




 集落のあちこちで小豆がよく売れ、赤飯が炊かれた。



 今までは病弱で、一族の者とてに不満はなかっただろうが、ずっと心配していた。

 だから、喜びもひとしおだったのだ。









「外、うるさい。」










 榊は不快そうに言う。




 どうやら彼は沈黙やら、静寂を尊ぶ性格らしい。

 だが、200人規模の一族を率いる炎一族ではそれは難しい。

 そして、今日は大目に見てやるべきだ。









が、がんばったんだ。」









 イタチはそっとの頭を撫でてやる。



 まだほんの子供の

 とても、とてもがんばった。









「怪我は?」








 少しだけ眉を寄せて、榊が尋ねる。









「ないけど、体力は限界まで使い果たしたらしい。」

「平気?」

「寝れば直るだろう。」









 イタチは淡く笑って答えた。



 榊はわずかにほっとした顔で頷く。

 感情表現の少ない彼も、やイタチにはそれなりに気持ちがあるようで、わずかでも表情を動かす。

 榊はしばらく黙っていたが、この部屋が暑いと思ってか氷水を持ってくると御簾を上げて部屋を出て行った。

 イタチはに団扇で風を送りながら、微笑む。

 しばらくすると、の母親の蒼雪がやってきた。








「あら、ぐっすり。」








 優しく笑って、イタチがこの間の任務で破って帰ってきた服を、イタチに手渡す。








「ありがとうございます。」








 イタチはお礼を言ってそれを受け取った。

 蒼雪は家事全般まったくできない。

 それは炎一族の姫君として育った故だ。




 だが、縫い物の腕だけはよく、イタチの母が一時習いに来るほどだった。

 将来夫の服を縫えるように縫い物だけは習ったそうだ。








「姫宮をイタチさんにまかせきりでごめんなさい。」








 少し哀しそうに、蒼雪は謝る。




 蒼雪は炎一族の女宗主として、忍びとして、里の外交手段の一つとして、大変忙しい。

 また、一族の者をとりまとめる仕事もある。



 特に中忍試験で各国の思惑が蠢く中では、時間を空けろという方が難しいだろう。

 母親として、娘が一番つらいときに傍にいてやれないのはつらいけれど、そればかりは仕方がない。

 里が無くなれば、里に追随している炎一族も大きな打撃を被ることになる。を守ることも難しくなる。

 の傍にいられないのは、どうしようもないことなのだ。








「大蛇丸が、中忍試験に入り込んだそうですね。」

「はい。」

「榊は風の国で大蛇丸にさらわれた。風の国は、大蛇丸と繋がっているのかも知れないと、私も、斎も考えて
おりますの。上層部は、考えが少し甘いですわ。」









 大蛇丸はもう15年近く前に里を抜けた忍びだ。




 当時、四代目火影と火影の地位を争っていた。



 もちろん大蛇丸は火影の地位をとれなかっという復讐で、里をねらう者ではない。

 ただ、自分の娯楽と、自分の不老不死のためだけに、里をつけねらう。

 木の葉隠れの里がある火の国は大きな国だ。

 各国の中では珍しく、神の系譜である炎一族と友好関係を結び、繁栄を謳歌している。









「大蛇丸は、力を求めている。力を持つ、子供達を。」








 九尾のナルト、うちはのサスケ、そして神の系譜 雪花姫宮


 まだひよっこの強者の芽が確実に一歩一歩育っている。

 木の葉という大樹に守られて、徐々に強くなっている。

 それを、ねらっているのだ。

 3人の中で、特にサスケは不安定だ。

 一族から逃げたイタチを憎む反面、イタチを慕い、イタチに認められたいと願っている。



 がむしゃらに力を求めている。



 決して悪いことではないのだが、それが呪印の解放を促すこともある。

 呪印は大きな力を与えるが、その反面、精神を崩壊させていく。

 大蛇丸が、サスケを狙うのは、写輪眼をもつサスケを自分の器にするためだろう。

 精神が無くなってくれれば、逆に嬉しいはずだ。









「・・・・今のサスケでは、到底大蛇丸には及ばない。」

でも、危ないです。この子は、心が弱い。」










 絶対的な高温の炎を操るでも、大蛇丸の策にひっかかれば、わからない。

 サスケなどひとたまりもないだろう。









「気をつけて見ていてください。大切な大樹の芽です。」 









 蒼雪は心配そうに娘を見つめる。

 その目には母親としての愛情と、大きな危惧が含まれていた。



 イタチは大きく頷く。



 蒼雪は少し安堵したように穏やかに微笑む。 

 外ではもう夜も更けているのに、未だに灯りが煌々と辺りを照らし、人のざわめきが消えていない。

 まるでお祭り騒ぎだ。










「すごい喜びようですね。」










 イタチは感心したようにつぶやく。








「そうね。やはり姫宮は身体が弱かったから皆心配していたのでしょう。風雪御前なんて、涙ぐんで喜んでい
ましたわ。大げさな。」









 蒼雪はふっと小さく息を吐いた。


 風雪御前は、蒼雪の母親。要するにの祖母だ。

 風雪御前は元々宮家の出身で身分も高く、正妻として前宗主のたくさんいた側室をまとめていた。




 宗主の子供はみな宮号を与えられる。



 たとえば、は雪花が宮号で、雪花姫宮と呼ばれる。

 宮家とは宗主とならなかった宗主の子供達の家で、要するに分家だ。

 とはいえ200人もいる一族の中で宮家を名乗れるのはごく少数の人間で、身分が高いことを示す。

 風雪御前は、ここ数年長年の心労のせいか、病で伏せっていた。









「また、をつれて挨拶に行きましょうか?」

「そうしてくださる?きっと涙ぐんで喜ぶと思いますわ。」









 蒼雪は、この気の強い母が苦手のようであまり彼女の所に出向かない。

 と一緒によく彼女の所に行くイタチだが、彼女は気が強いと言うより豪快な人だろうと思う。




 こんな話をきいた。



 蒼雪は昔、宮家出身の男と結婚させられそうになって、後に結婚することとなる斎の所に家出した。

 もちろん蒼雪は幼なじみの斎のことが好きだったわけだけれど、一族では大事な次期宗主が家出したと大
騒ぎになったわけだ。

 嘆いた宗主が風雪御前に相談すると彼女は豪快に笑った。






 ―――――――――あないみじ!常々然りとばかり申すも面憎しと思いたり。あっぱれ我が娘や!





 訳すと、あぁすばらしい!いつでも“はい”とばかり言うのもこ憎たらしいと思っていた。さすがは自分の
娘だ、という意味である。

 娘の家出など、まったく意に介さなかったと言うから、驚きだ。

 その後宗主がその男との結婚を取りやめ、蒼雪に頭を下げ、その上斎を婿に迎えたのだから、驚くべき譲歩
である。

 影で風雪御前がこのままでは蒼雪はかえってこないですよと宗主を脅していたそうだ。

 強かかつ、豪快な女性だ。一族の者では宗主を脅すなんて考えられないだろう。

 が起きたら、彼女の顔も見に行かなくてはいけない。



 なんといってもの祖母だ。心配しているだろう。



 外は相変わらず騒がしく、人の気配が絶えない。

 夜明け近くまで、皆飲み明かす気なのだろう。









「明日、皆二日酔いで任務に失敗しなければいいけど・・・・」











 当然、普通の上忍や中忍は、明日も任務だ。祝日ではない。



 蒼雪は大きく息を吐いて、御簾を出て行くが、止めには行かない。

 わざわざ止めに行くなんて無粋なことはしない。

 イタチは御簾ごしにみえる光を、ぼんやりと数えた。










( 心が満たされて 笑うこと 騒がしく勝利を祝うこと )