焼き肉祝賀会の次の日、はいつも通りイタチと一緒にイタチの早朝修行に同行した。

 沈むが心配だったが、本人が大丈夫だと虚勢を張るので、イタチも何も言わない。







 演習場までの途中、にいろいろな話を聞いた。





 中忍試験でのサスケやナルト、サクラのがんばったところや、自分が怖かったこと、楽しかったこと。

 予選ではあまり木の葉の人間でも残れなかったと、は残念そうにつぶやいた。

 本戦に残ったことは本人にとっては大変不本意だったらしく、棄権も含めて少し考えるとのことだった。



 本戦最初の相手は音の里の君麻呂という男らしい。




 どうやら強いらしく、その上はあまり戦うこと自体に乗り気ではないようだった。











「サクラに、わたしの分まで頑張ってって言われた。」

「あぁ、チームメイトの女は落ちたのか。」

「うん。木の葉の女の子は、わたしひとり。」











 は沈んだ様子で答える。




 の性格からして、早々棄権してしまいたいだろう。

 それをしないのは、アカデミーに入って初めてできた友人達がみんなを応援しているからだ。





 彼女らに、他意はないだろう。

 でもを追いつめている。戦いに、かり出そうとしている。




 自分の力を疑って信じないを、









は本戦に出たいか?」









 イタチは三本並ぶ丸太に飛び乗って上からを見下ろす。

 は太陽を背にして暗い影を帯びるイタチの顔をぼんやりと見つめた。





 戦うのは怖い。誰かを傷つけるのも怖い。






 でも必死でがんばってきた友達は落ちてしまって、自分だけ本戦に進んだのに、戦わずに逃げることが、許
されないこともわかっている。

 はイタチのまっすぐな目から逃れるために、俯く。







 予選で見た、対戦相手の君麻呂の目を思い出す。

 彼は自分の力を疑っていない。信じている。






 一瞬でにもそれがわかった。




 を見た彼は、の覚悟のなさを見抜いて笑った。

 本戦に進んできた者は皆そうだ。

 自分の力を信じて、ここまで進んできた。






 でもだけが違う。




 だけが自分の力を信じず、ただ現状に流され、目の前の邪魔な人をたまたま倒しただけでここまで来た。

 勝とうという意識も、自分の力を信じて戦う強い心も 恐怖を克服するだけの忍道もそこにない。




 今だって戦うのが怖くて怖くてたまらない。





 とても弱くて、情けない。

 それが、自分だ。









「・・・出たくない・・・」












 は素直に答える。




 出たくない、戦いたくない。

 紛れもない、の本心だ。




 対戦相手の君麻呂という人の目が、怖くて仕方がない。





 覚悟も、強さも、忍道も、そこにある。





 だから、怖くてたまらない。きっと勝てない。



 力とか、能力とかそういう意味でなく、は彼に勝てないと感じた。

 気力で、負けているのだ。




 イタチは、の答えを聞いても軽蔑することも、しかりつけることもなかった。










は、自分が嫌いか?」









 寂しげにに問いかける。









「・・好きじゃない。」









 弱くて情けない自分が、好きじゃない。

 はこみ上げてくる涙を必死で堪えた。





 もっと勇気があればよかった。

 もっと強くなりたかった。




 明確な目標があるサスケやナルトが、他の忍び達がいつもには遠く思えた。

 彼らと自分は違う。



 イタチは丸太から降りて、と目線をあわせるべくかがむ。




 イタチとの背は20p近く違う。

 見えているものもの方が遙かに狭く、イタチの方が遙かに広い。









「それでも俺はが好きなんだよ。」












 イタチは穏やかに微笑んだ。



 が目を丸くして顔を上げる。


 涙をいっぱいためた紺色の瞳を見て、イタチはそっとたまった涙を拭った。 

 その拍子に涙がの白い頬をこぼれ落ちる。

 弱くて、小さくて、まだまだ目が離せない




 それを、イタチは酷く愛おしく思う。


 の小さな手を取って、イタチは笑う。











「出るか出ないか、決めるのはだ。どうして出ないって責めるような奴がいたら、俺が殴ってやる。だから
が決めるんだ。」

「わたし、が?」

「逃げても良い。前も言っただろう?けれど、それを決めるのもだ。」










 逃げる決断も、戦う決断も、他人が決めるものではなく、が決めるものだ。

 ただどんな決断をしようとも、自分がを好きなことは知っていてほしかった。






 の紺色の長い髪を撫でていたイタチは、そっとに顔を近づける。




 いつもの触れるだけのキス。

 なのに、は顔を真っ赤にした。










「?」










 はいつもキスされても幸せそうに嬉しそうな顔をするだけだ。

 顔を真っ赤にしたことなど無い。




 それはが恋愛に疎い純粋培養のお姫様である故だ。



 突然頬を染めたに、イタチの方が戸惑う。

 はほてった頬を両手で押さえて、目線を下げた。











「どうした?。」

「・・・・・・・わかんない。」











 にもわからない。






 わからないけれど、酷くいたたまれない気持ちになる。

 逃げ出したいような、嬉しいような、とてもくすぐったい気持ち。 






 が初めて認識した“恋”だった。



 













( 木や花の種から生える 小さな葉っぱの前 総じてまだ成長していない意志や思考 )