中忍試験本戦までの一ヶ月、本戦出場者は各々鍛錬を積む。






 誰も休憩するものはいない。





 カカシはサスケの修行につきっきりで、ナルトは別の人について修行をしていて、は父かイタチに修行に
ついてもらえとカカシに言われた。

 けれど、父もイタチも予選が終わって一週間たっても、に修行をしようとは言わなかった。





 はやる気もなさげに演習場の芝生の上に転がる。




 父やイタチがに修行を望まない理由はわかっている。

 は本戦を本当に戦うのか、それとも戦わないのか、決めていない。

 現状に流されて戦うことを、父もイタチも望んでいないのだ。




 決める時間を、くれているのだろう。






 ぼんやりとぷかぷかと浮かぶ白い雲と、青い空を仰向けになって見ながら、は何も決められずにいた。










「とうぐうさま?」








 突然空しかなかった視界の中に、小さな子供が入ってくる。



 一族の子供だろう。にこにこ笑って、を見下ろした。

 は起きあがって子供を見る。




 たくさんいた。



 まだ小さな子供達は座る小柄なよりも少し背が高い。

 は立ちあがって子供達を見下ろす。



 六人、炎一族内の幼なじみ同士なのだろう。仲良さそうに手をつないでこそこそと話す。










「とうぐうさまなの?」

「ばか、しらないの?とうぐうさまだよ。」

「とうぐうさまー、」











 遠慮もなしに、一人の子がに手を伸ばす。

 はきょとんとした。










「だっこー、」










 子供は手を伸ばしてにすがりつく。




 だっこ、なんて初めて言われた。





 は戸惑いながら、その子を抱き上げる。
 年はだいたい三,四歳だろう。男の子で、炎一族ではよく見かける銀色の髪をしていた。




 炎一族では銀と、黒の髪の人が多い。



 そう言う意味ではの紺色の髪の色はとても珍しかった。

 抱き上げてよしよしと背中を撫でると、他の子供達がにすがりついていいなーと元気な声を上げた。





 は初めての経験に戸惑いつつも、応じた。



 は生まれてから常に宗家で育ち、宗家でと年が近いのは母の異母妹にあたる緋闇だったが、彼女も
り年上で、は小さな子供と接する機会は少なかった。




 あっというまに子供が歓声を上げての周りにまとわりついて、いろいろと叫ぶ。

 どうして良いかわからずはしばらくされるがままになっていた。

 しばらくすると、一人の子供が言う。









「そー、とうぐうさま、ちゅうにんしけんのほんせんにでるんでしょ?」











 大人の事情に通じているのだろうか。


 その女の子は、にこっと笑って尋ねた。



 はうっとひるむ。

 本当に出るのか出ないのかはまだ決めていない。










「すごい、だって、まま、いってた。」

「そーそー、あかでみーでたばかりでちゅうにんはめずらしいんだって。」

「とうぐうさますごいー、」








 すごいーと、子供達が一斉に声を出す。

 そして子供達がの肩にいる白い炎のチョウチョを指さした。









「しろいね。ぼくのはあおくてね、カメレオンっていうとかげみたいなんだ。」

「わたしのはあかくてはちみたい。」











 子供達が血継限界・鳳凰扇の炎を見せ始める。



 形は様々だが炎の色は青か、赤か、そして白かの三つに分かれる。

 青を持つ子供は宗家に近しい血筋の子供が多く、比較的少ない。





 だが、白い炎を持つのは、宗主とその直系だけ。も然りだ。

 神の系譜特有の血継限界のため、炎一族の血筋で血継限界を持たないものはほとんどいない。










「とうぐうさまはつぎのそうしゅさまになるんでしょ?」

「そうだよ。」











 は小さな子供の質問に答える。

 でも、本当はなりたくなくて、逃げたくて仕方がない。



 イタチはいつも逃げることを許してくれる。




 多分、将来的にイタチと結婚すれば、宗主としての仕事をすべてやってくれるだろう。

 逃げ続けることが、にはできる。










「ねー、とうぐうさま。ぼくいつかとうぐうさまをまもるひとになるよ。」










 銀色の髪の男の子がにっと笑う。











「え?」

「おかあさんがね。とうぐうさまやそうしゅさまをほこりにおもってるって、いってた。だからね、まってて
くれる?」












 澄んだ瞳が、をまっすぐ見つめる。











「そんな、かなしそうなかおしないで。ぼくたちはあなたにわらっててほしい。まもるから」










 は男の子の顔を呆然と見つめる。





 たくさんの一族の人々の顔が、頭の中で駆けめぐる。

 東宮様といつも呼ぶ、自分を守ってくれる人たち。



 が泣くと駆け寄ってきて、泣かなくて良い、大丈夫だと繰り返し繰り返し頭を撫でてくれた。

 どんなことからも守られてきた。






 それはどうしてか。







 東宮に、に笑っていてほしかったからだ。




 きっと傷ついた人たちもいたと思う。それでもの笑顔を思って、守ってきてくれたのだ。



 誰だって戦うことが怖くないわけではない。イタチも、斎も、一族の人も、怖いはずだ。

 でも、そこに守りたいものがあるから、誰かのために、誇る志があるから、がんばる。




 なら、は何を守りたいだろう。何を守れるだろう。

 一族の者達が誇れるような何かに、なれるのだろうか。






 強く。










「とうぐうさま・・・・?」










 子供達が、を見上げる。












「うん。がんばるよ。」









 は大きく頷いて、子供達の頭を順番に撫でていく。








「大丈夫、わたしが、みんなを守るから。」












 強くなろう。

 みんなが自分を守ってくれたように、自分も他人を守れるように。



 常に志し高くあろう。

 彼らが自分を誇りに思ってくれたように

 これからも彼らが自分を誇りに思ってくれるように。

 そして、自分を誇りに思ってくれる彼らを、自分も誇りに思う。







 は大きな空を見上げて、ひとつ伸びをした。







 空は黒い雲はなく 青くて高い。






 心の闇が、晴れていく。

 少しだけ、世界が違って見えた。












( 志があること 自分を支える強い感情 )