「軸が悪いんだよ。」 










 にっこりと笑って斎はの動きに端的な感想を漏らす。



 身体が柔らかく、舞うような美しい動きができるのは斎もも同じだ。

 けれどその早さは、何倍どころか、何十倍も違う。

 斎の方が無駄が無く、動きも綺麗だ。



 原因は、身体の軸が悪い。





 要するに平衡感覚に多大なずれがあると言われているのだ。

 軸が悪いと身体が揺らぎ、どうしてもどこかで無駄な動きを入れて軸をまっすぐに戻す必要がある。






 それが、速度の大きなロスなのだ。

 もちろんが年の割に動く速度が遅いと言っているのではない。

 の年にしては上出来だ。




 しかし、それでは負ける可能性がある。



 イタチも斎も、対戦相手の君麻呂の動きを見ている。

 おそらく本気でなかっただろうが、彼の動きからはかれば、強いことは間違いない。

 それに、はまだ人を殺すことをしらない。

 殺すせっぱ詰まった状況になれば、に隙ができるのは確実だ。



 ならば、圧倒的な実力を持って力でねじ伏せるしかない。



 そのためには、の苦手な体術も必要。



 とはいえ、力のないが体術で勝負するためには、速度しか手がない。

 軸を直すことは急務だと言える。











「これから本戦までの3週間、毎日僕とイタチが相手をするから、精一杯体術の感覚と忍術をコピーするんだ
よ。」

「わかった。」










 父親の言うことに、は真剣な顔で頷く。

 イタチがそんなを心配そうに見つめるが、戦うのを選んだのは自身だ。




 ここで諦めるわけにはいかない。




 絶対に、一族の東宮として、無様な戦いはしない。

 みんなに誇りだと思ってもらえるような宗主になると決めたから、精一杯やる。





 が強い瞳を斎に向けて身構える。

 親子の水色の綺麗な瞳が交わる。









「じゃあ、始めようか。」










 台詞が終わるとともに彼の姿が消える。












「後ろだ!!」











 イタチが叫ぶ、にもそんなことはわかっていた。





 動けない。早すぎる。




 父を弱いと思ったことはなかった。 

 だが、ここまで速く動ける忍びを、は見たことがなかった。









「気づいただけでも上出来かな。」









 呟いて、斎はが振り向いて足を出すのを待った。


 腰で一度ひねったため、非力なでもそれなりの威力はある一撃の蹴り。

 軽く止めて、一応加減したけりがのみぞおちに入る。




 曲線的で、柔らかな動き。

 直線的ではないから規則性が無く、次どこから攻撃されるか、全くよめない。

 は何とか受け身をとって、地面に足をつく。





 自分によく似た顔を睨むが、彼は穏やかに笑う。





 その顔は、やはり自分とそっくりだ。血のつながりを感じる。

 父が火影に推挙されるほどの人物と言うことは知っていたが、あまりに身近すぎて、彼のすごさをかけらも
理解できていなかった。






 彼は強い





 火影に推挙されるほどの実力を目の当たりにして、初めて父の偉大さを感じた。

 炎一族宗主の婿ではあるが、彼は宗主である母と同じように扱われ、母と対等の立場と地位を周囲から認め
られている。



 それは宗主の婿だからでも、血筋でもない、

 彼の実力そのものを認められているのだ。











「父上、様」










 貴方はすごい。



 は、心から彼が、自分の父親であることを嬉しく思う。

 誇りに思う。











「君は、僕の自慢の子供だよ。」










 まるで見透かしたかのように、斎は笑う。



 の心に呼応するように、

 暖かいまなざしは、幼い頃から自分に注がれてきた物だ。





 が悩んでいることも、ずっと知っていただろう。



 けれど自分で立ち直れるように、見ていたのだ。

 目を離さず、必要なときに手を伸ばして、優しい言葉をかけて、自分で歩めるように見ていた。

 は笑って、腰を低くする。









「うん。その意気だ。」









 斎は満足そうに頷く。



 イタチも未だ心配だったが、同じように満足だった。

 演習場を和やかだが緊張した空気が支配する。

 斎は、イタチに対してもそうだった。

 を見守り続けたように、イタチも見守り続けていた。





 心地よさにイタチは目を閉じる。




 斎に始めてであった日を思い出した。

 まだイタチが幼く、ひとりぼっちだった、遠い日。








( 子供を作ったもの 子供を愛し 見守るもの )