本戦まで残り三日となった月曜日、カカシの元に本戦出場者のサスケ、ナルト、は集まった。











「ぜってーおまえには負けねぇってばよ!!」

「はっ、」










 ナルトとサスケは久々の喧嘩に変に張り切っている。

 少し遅れてきたは眠そうに目をこすった。




 五時に起きて朝練をしてから朝食。

 その後七時から修行。

 昼ご飯を挟んで夜の八時まで修行をして、ご飯を食べてぱたりと倒れるように眠る。

 そんな暮らしをしばらく続けていたため、疲れがたまっているのだ。





 けれど、その成果は先日、イタチの髪をの攻撃がかするという形で現れた。

 もちろん負けたわけだが、着実にスピードはイタチや斎に追いついてきている。











「大丈夫。」










 少しだけついた自信。

 自分にも何かができると思えることが、にとっての一番の成長だ。











「ひっさしぶりだねー。」








 のんきなカカシの声が響いたのは、集合時間から二時間後だった。










「おせーってばよ。」










 怒りを通り越して疲れの見えるナルトは、ため息をつく。

 いつも通りは気にした様子がない。




 ただ、いつも以上に余裕が見えた。










「お?、顔つきが変わったな。」










 カカシは嬉しそうににこにこ笑っての頭をなでつける。




 和やかな瞳には、の成長を喜ぶ師としての安堵があった。

 とんとんとナルトとサスケの肩も叩いて、カカシは3人に向き直る。

 本戦に出る3人。










「おまえらがこの数週間よく頑張ったのは知ってる。で、残り三日だ。」

「おっし!!」 










 ナルトが大きな声で拳を振り上げる。

 うずうずしているのだ。




 も迫り来る本戦に怯えることなく神妙な顔つきで頷く。

 サスケがの変化に驚いて、目を見張る。




 いつもの彼女なら怯え、最後まで拒むだろう。




 幼い頃から身体が弱く、陰に隠れてきた最強の一族の東宮。

 彼女は常に戦いに怯えていた。



 なのに今はまっすぐと前を見つめている。










「おまえ・・・・・」










 サスケは思わず呟く。

 の変化に気づかないナルトは、一人ではしゃいでいる。












「ぜってー中忍になってやる!」

「うん。がんばる。」











 控えめに、は賛同する。




 誰かに引きずられていっているわけではない、

 本心から、そう言ったのだ。










「三日間、おまえらは休養。」

「は?」

「おい、どういうことだ。」

「どうして?」










 口々に反論を繰り出す3人に、カカシはため息をつく。











「会わなくちゃいけない人、お礼を言うべき人、いるだろう?」

「あ、」










 がぽかんと口を開く。





 みんなそれぞれ自分のことに一生懸命で、大切な人に挨拶に行くことも、本戦に出ることになったことも報
告していない。

 一族の人にも、祖母にも、何も言っていない。





 サスケが舌打ちし、ナルトが目を丸くする。

 たくさんの人たちの顔が浮かぶ。












「それと斎さんが、おまえらにご飯を奢ってくれるそうだ。」











 にこっとカカシが笑う。




 父上様が?とが首を傾げた。




 言いたいことを言ってしまうとカカシは消えてしまう。

 ナルトがイルカ先生に会わなきゃと笑う。





 サスケは訝しんでに尋ねた。











「斎さんは、オレたちに何の話があるんだ?」

「ただ、食事を奢ってくれるだけじゃないの?」












 は知らない、と首をふる。



 の父親の斎は、つかめない。

 穏やかで天然なのだが、本当にわかっていないのか、それともわかっていてそうしているのか全くつかめな
い。










は、誰かに会いに行くのか?」











 サスケは軽い気持ちで聞く。

 は口元に手を当てて考える。











「うーん。いっぱい。おばあさまの所に行って、それから明日一族の集会があるから、ちゃんと出る。」














 は、炎一族の集会に東宮であるのにほとんど出ていない。




 むしろ許嫁のイタチの方がよく出ているくらいだ。



 の父、斎は宗主蒼雪の婿であり、二代続けて婿を取ることになりそうな炎一族には、一族外から婿を取る
ことに反対するものもいた。

 同じ婿を取るなら同族の宮家から、という意見も強かったわけだ。





 うちはから里でも認められて優秀な嫡男のイタチがの許嫁に名をあげたこと、そして何より、の祖母で
ある風雪御前がイタチの援護をしたことで、反対派は一掃された。

 現宗主・蒼雪の実母である風雪御前は元々一族内の宮家の出身で、前宗主の正妻であることを抜いても身分
が高く発言力が強い。

 彼女は当初反対していたが何故か、斎が連れてきたイタチを気に入った。











「サスケは父上様と母上様?」












 は無邪気に尋ねるが、母はともかく、サスケにとって父は遠い存在だった。












「そうだな。」












 サスケは曖昧に答える。




 未だに家を出たイタチを望む父。

 兄が出て行ってから少しはサスケにも目を向けてくれるようにはなったが、それでもイタチを今でも望んで
いることを、サスケは父の言葉の端々から感じた。



 父に認められたいと思うが、兄は大きい。




 暗部で里で有数の手練れと呼ばれ、炎一族の東宮の婿である兄。

 まだ彼の背中は、あまりにも遠い。











「何奢ってくれるんだ?」













 ナルトが無邪気に尋ねる。













「なんだろう?」

「・・・ラーメンはないだろ。」













 炎一族の宗主の婿が、ラーメンを啜る姿は想像できない。

 サスケが言うと、ナルトがえーと項垂れた。














「ラーメンじゃないのかー。」

「でも結構うまいものを食わしてもらえると思うぞ、」

「そうかなぁ、イタチと一緒にいつもお好み焼き屋さんに行ってるよ。」












 イタチは甘いものに目が無く、斎も甘いものが好きだ。




 お好みやさんにはおいしい果物のアイスクリームがあって、二人がそれを食べている姿を、は良く目にし
ていた。

 お好みは、そのついでだろう。











「結構安物だな。」

「うん。」












 は頷く。

 別に炎一族の宗主の婿だからと言って、斎はちっとも贅沢しない。




 両親ともに、そう言う贅沢を嫌うのだ。



 サスケはイタチが話に出てきたせいか、微妙な顔をした。

 風が高く、里の木々を揺らす。





 あと三日だった。







( 物事の始まる前兆 戦うための準備 )