斎がやはり呼び出したのは、の想像通り甘味で有名なお好み焼き屋だった。

 サスケは甘いものが嫌いなので有名な甘味は食べられなかったが、お好み焼きは2枚食べて、結構機嫌がよ
かった。




 ナルトは甘味までしっかりと奢って貰っていた。




 帰り、とナルトは当然の如くついてきていたイタチと帰ったが、斎はうちは一族の人に挨拶をしたいから
と珍しくサスケと一緒に来ることになった。

 背の高い斎の背中をぼんやりと見つめる。






 夜道は暗い。

 電灯の光と夜の暗い影の中で、彼の髪が青色に光っていた。










「みんなすごいな。アカデミーを卒業したばかりであっさり予選を通過してしまうんだもんね。僕なんか中忍
になるのがもの凄く遅かったのに。」











 斎は軽い口調でサスケに笑いかける。





 斎が中忍になるのが遅かったという話は、イタチから聞いたことがある。

 面倒くさがって、中忍への登用を拒んでいたからだ。




 まだサスケが幼い頃、担当上忍を信頼してやまなかったイタチはサスケに、たくさん斎の話をした。 

 その話のほとんどが、批判の多い兄には珍しく賞賛や羨望でしめられていた。

 兄は斎の前では非常に弟のサスケから見ても生意気で、憎まれ口ばかり叩くのに、斎を心のそこから信頼
している。





 そのことを多分、斎は知っているだろう。




 彼は知っていても、いつも言わない。

 言わないで寄り添って、その言葉は必要なときまで残しておくのだ。












「・・・兄貴は、10歳で中忍になった。」












 サスケは小さく、彼に聞こえるか聞こえないかの声で言う。




 確かに、サスケは優秀かも知れない。

 でもイタチはもっと優秀なのだ。




 其れは事実。












「大蛇丸とか、そういう強い奴を見て、焦ってるのかも知れない、オレは・・・、」









 いつまでたっても兄に追いつけないこと。

 周りが追いかけてくること




 そして、外にはたくさんの天才がいること。





 大蛇丸を見たとき、サスケは恐怖に一瞬動けなくなった。

 絶対的な死を感じた。





 自分が、大蛇丸より弱いことに気づき、逃げたいと思った。

 強さに、怯えたのだ。




 外にはきっと、そう言う奴らがたくさんいる。



 強くなりたいと思う心ははやるが、突然強くなれるものではないことは、サスケにもわかっていた。

 もう一度、あの男と向き合ったときサスケは勝てる自信がなかったし、同じように恐怖を感じると思った。












「うーん、そうだねぇ。サスケももうしっておいた方が良いかな。外には強い奴がたくさんいる。」












 斎は少し困ったような顔をして、はっきりとそう言った。

 サスケの胸がずきりと痛む。












「事実としては、知っておいた方が良い。大蛇丸は一応五影と同じ力を持つと考えて相違ない。珍しいとは言
えるけど、五大国だとそれぞれの里に多分平均3,4人はいるんじゃないかな。当然だけど、確実に大蛇丸を
倒せるものも存在する。」

「そんなに・・・?」

「うん。だってその中には里長に興味がない奴。里長としての争いに負けた奴。里に帰属しない奴とか、いろ
いろいるし。」












 斎は事実をはっきりと述べた。




 斎はその中でもおそらく、里長に興味がないものに入るのだろう。

 確かに、火の国でも火影の候補者はひとりではない。数人いる。

 彼らは五影レベルと言うことだ。













「他にも蒼雪やのように神の系譜の直系も能力が低い時も稀にあるけど、五影レベルに達している場合が多
いね。はまだまだだけど。」










 五大国にはひとつずつ神の系譜が存在する。



 一族としての形を持ったまま存在するのは火の国の炎、土の国の堰、雷の国の麟。

 水の国の翠は堰家に取り込まれたが、風の国の飃もこの間保護された宗主・榊だけならば残っている。

 特殊な能力を持つ彼らもまた、五影レベルであることが多い。











「五影レベルで世界に20人以上。上忍くらいになれば腐るほどいるだろう。」












 世界の、実状。


 でもね、と斎は続ける。










「でもね、同じレベルのものしか、必ずしも倒せないというわけじゃない。」

「え?」












 サスケは意味がわからず眉を寄せる。

 斎は笑う。










「五影レベルでも、倒された奴はいくらでもいる。」

「どういうことだ?」

「そういうことだよ。勝てるか勝てないかは、相性やそのときの調子、年齢、周囲の状況による。」












 例え強いものであっても、寝首をかかれることもあれば、大人数に襲われることも、相性の悪い能力にあた
ることもある。

 勝てる確率は確かに強ければ強いほど高いだろう。

 だが、中忍であっても下忍であっても、一%でも勝てる確率はあるのだ。




 戦いとは、そう言うもの。



 勝利する確率を高めるために、人は鍛練を積む。

 しかしどれほど強くなろうとも、負けるという確率がなくなるわけではない。

 そのときは突然やってくる。










「天才でも、馬鹿でも戦場では関係ない。ただどれだけ瞬間に優秀な判断を下せるか、勝率を高める技術をど
れだけ持っているか。その結果が天才と、凡才を分ける。」











 斎は、たくさんの人々を見てきた。



 驕り、滅んだもの。

 最後まで諦めず、勝利を掴んだもの。




 確かに鍛練や、技術は大切だ。




 それでも戦いの瞬間に、その力を一〇〇%出せるかは、その日の調子にもよるし、有効な手だてを思いつけ
るかも、半ば運だ。

 知っていても、思い出さないこともたくさんある。

 そのミスで、死んでしまうこともある。




 模擬戦の天才と、実戦の天才が違うというのは、こういうところだ。












「一番大切なのは日頃鍛練を怠らないこと。そして絶対の強者などいないと言うことを覚えておくことだ。」









 相まみえたときはもう逃げられない。




 ならば、恐怖を押し殺しむかっていくしかない。

 勝率が一%であっても、そのときは覚悟を決めてかけるしかないのだ。









「勝率を上げるにはね、仲間と協力する、と言うことも大切だ。」

「仲間と?」

「一人より二人の方が予測不能な動きができる。最悪囮にもできるだろう?」










 斎は残酷な台詞を苦笑しながら言って、サスケの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。










「大蛇丸に会ったのは、やっぱり衝撃的だった?」

「・・・・それは・・・、」

「初めて見た時、僕も悪寒がしたよ。舌があんなに伸びるなんて、気持ち悪いじゃないか。」










 そこかよ、とサスケはつっこみそうになったが黙っておいた。

 多分、彼のことだ。本当にそう思ったのだろう。

 一般的なところから感性がずれているのも、斎の変なところだ。











「忍の中にはね、死体を操ったり、何らかの限定条件をつけることで不死身に見せてる物なんかもいる。死体
を操るのはね、そうすると元々相手が持っていたチャクラまで使えるんだ。」

「人間・・・・、」










 サスケは気味の悪い話だと思いながら、でも事実だろうとわかっていた。




 それからはたわいもない会話が続く。



 忍としていろいろな場所を回ってきた斎は、他の里の変わった武器や忍具を知っている。

 特に霧の忍刀7人衆の話は、興味深かった。

 いつのまにか、サスケの家の前までついてしまう。









「おかえり、サスケ。・・・あら?」








 笑って息子の帰宅を迎えた母・ミコトは一緒に来た斎の姿に目を丸くした。









「すいません、サスケを送ってくれたんですか?」

「いえ、話をしていただけです。」









 斎はね、とサスケに笑いかけてから、ミコトに尋ねた。










「フガクさん、いますか?」

「いますよ。どうぞ。」









 ミコトは、快く中に入れる。

 斎は頭を下げて玄関に上がった。









「あぁ、サスケ、」










 突然、思い出したように斎が振り返る。












「悲観することはないよ。」










 斎は、柔らかく笑っていった。


 サスケはえ、と顔を上げて斎を見る。

 紺色の夜空のように優しい瞳が、ゆったりと細められる。









「だって、君には仲間のために、恐怖に立ち向かう勇気があるだろう?」









 斎の言葉が、綺麗にサスケを射抜いた。




 心が、ゆっくりと温かくなる。





 それは安堵だろうか、それとも認められたからだろうか。

 大蛇丸と相対したときの恐怖。

 仲間を失いたくないと必死になってそこにみつけた、勇気。










「今はそれで十分なんだよ。」









 斎はそう言って、フガクのいる部屋へと案内するミコトについていく。

 取り残されたけれど、サスケは淋しくもなければ、もの悲しい気持ちにもならなかった。




 灯ったのは、小さな自信。








( いさましい感情 ちいさくて 時にもっとも大切な こころ )