中忍試験本戦。

 他国の大名や商人が集まる会場に、本戦進出者全員が立たされる。

 たくさんの人が見ている中で、は受験者の中で一番背が低かったがしっかり胸を張った。




 人々の中には、一族のものだっている。




 彼らが恥じるような東宮でありたくはなかった。












「本戦は、ルールは一切なし、どちらか一方が死ぬか負けを認めるまでだ。ただしオレが勝負がついたと判断
したら、試合はそこで止める。わかったな。」










 審判のゲンマが口に楊枝を加えたまま言う。






 全員が真剣な顔つきで聞く、








 は隣に立つ自分の対戦相手の君麻呂を見る。

 イタチほど背は高くないが彼はよりもずっと背が高く、小柄なと並べばその差は歴然だ。

 それでも、はもう怯まなかった。




 自分にできる限りの力で戦うことを、決めたから。




 観客全員に頭を下げ、初戦で一回戦多い君麻呂とを残して全員が客席に映る。

 その中には彼女を心配そうに見守るサスケやナルトの姿もあった。

 木々のあるフィールドには遮蔽物の多くあり、隠れることもできる。

 の肩で白い蝶々がぱたぱたと羽を振るわせて鱗粉をまき散らす。





 音の忍である君麻呂は静かな目でを見た。











「一つだけ聞きたい、君は何のために戦う。」










 の目は、君麻呂が初めて見たとは全く変わっていた。



 本戦までの一ヶ月の間に、頼りなくいつもさまよっていた彼女の瞳に、強い意志が宿っている。

 大きな変化。









「僕は、ある人の力になりたいから戦う。」











 君はいったいどんな戦う理由を見つけたのだ。



 静かに君麻呂の目が問う。

 はまっすぐと対戦相手を見た。

 綺麗な君麻呂の瞳が、最初見たときはとても怖かった。





 実力差を感じたとか、そう言うわけではない。



 迷いが無くて、強い意志がそこに存在していて、だから怖かったのだ。

 でも、今は違う、だって決めた。











「わたしはね、みんなの誇りになりたいの。」












 にっこりとは一ヶ月前に怖いと思っていた彼に、臆することなく微笑む。












「わたしは身体も弱くって次の宗主なのに頼りなくって、でもね、みんなはわたしのことを誇りだっていって
くれるの。」










 弱虫で、身体が弱くって、情けなくって。そんなを、いつだって一族の人は受け入れてくれた。

 東宮様は一族の誇りだと、いてくれるだけで良いと、笑ってくれた。守ってくれた。



 だからは戦う。




 今度はが一族の人たちを守る。

 強くなって、誰にも負けないように逞しくなって、守る。










「みんながわたしのことを本当に自慢できるくらい、認めてくれるくらい、強くなりたいの。」












 一族だけの、いるだけで良いなんていう誇りなんじゃなくて、里の人々に自慢できるような、誇れるような
宗主でありたい。






 両親のように。

 イタチのように。






 すべての人に認められるような存在でありたい。



 それはとても頑張らなくてはいけなくて、遠い未来のことかも知れないけれど、一歩一歩進んでいけば、き
っとできるはずだ。

 審判のゲンマは、の答えににやりと満足げに頷くと、手を振り上げる。










「はじめ!!」










 ゲンマにそのつもりはないだろうが、酷く鋭い声が響き渡る。

 会場の人々は、炎一族東宮のが戦うのを心待ちにしていたらしく大きな歓声を上げた。



 しばらく、二人は動かない。




 ただ間合いを計るように、じっとお互いを見つめている。

 先に動いたのは、君麻呂だった。











「十指穿弾!」










 君麻呂の指先がに向けられ、指が半分に割れて何かが撃ち出される。




 出方を窺っていたは目を丸くしたが、日頃では考えられない驚くべき速度で立ちはだかった白い蝶の鱗粉
が、に当たる前に撃ち出された何かを、灰も残さず燃やした。

 はじっと君麻呂を見つめる。











「・・・・?」










 今撃ち出されたものは、の知るものでは説明がうまくできない。

 血継限界なのだろうが、それ以上のことが知識の少ないには全くわからなかった。




 君麻呂とて同じだ。

 白い鱗粉が、いったい何なのかを、彼もまた知らない。











「骨だ。これが我らかぐや一族の血継限界。」











 短い君麻呂の説明では、がすべてを理解するには足りない、

 は蝶々を手に取り、すっと君麻呂に向ける。




 途端蝶は膨張をはじめ、唐突にはじける。



 たくさんの小さな白い蝶に分裂したそれは、自分が炎であることを示すように一斉にゆらりと揺れた。 

 そのうちの一匹は先ほどと同じ大きさで同じようにの肩に戻る。











「白片、」











 本体である白い蝶“白紅”を分裂させた白片は、個々の能力は低いが広範囲にその能力を分布させることが
できる。

 とろけるように白い炎を発する白片達に君麻呂は眉を動かさない。

 だが、その本質はわからなくても、そこに宿る危険は正しく理解したようだ。

 すぐに蝶から間合いをとった。





 も同じだ。

 間合いをとりたかった。彼の攻撃の本質がわからないから。




 警戒しているのはお互いに同じ。



 本体の白紅は雫の肩の上で白片の様子をじっと見ている。

 このままお互いににらみ合っていても仕方がない。









「白片、行け!」











 の声に反応して、小さな蝶が一斉に動く。

 鱗粉を散らし、周囲のものを消滅させるその絶対的な力にも、君麻呂は目を見張ったが、ひるみはしなかっ
た。

 うまく避けながら、にむかってくる。



 白片の数は多いが、避けられない数ではない。

 君麻呂の腕から骨が伸び、鱗粉を払う。



 当然、鱗粉に当てられ、そのたびに骨は砕けるが、構おうとはしなかった。

 骨はほぼ無尽蔵に出てくると言うことだ。





 腕から伸びた骨が、の身体を捉える。

 捉えたかに見えた。










「残念。」









 楽しげな柔らかい声を上げて、の姿が一瞬で白い炎となり、崩れる。




 その途端、君麻呂は背後からの衝撃に吹っ飛ばされた。

 追い打ちをかけるように、とばされたその瞬間横から酷い熱量の爆発と爆風にあおられ、壁にたたきつけら
れた。

 爆風に吹き飛ばされながら、何とか振り返った君麻呂が見たのは、白いもやのような霧。





 それは一瞬にして風に吹き飛ばされ、一人の少女の姿を浮かび上がらせる。

 長い紺色の髪が爆風にはためく。










「これが・・、」










 主である大蛇丸が手に入れたいと願った神の系譜の力。

 君麻呂は、あらためて少女が強敵であることを認めた。













( 自分の考え 自分の信念 )