は白い炎の蝶を従え、眼前の敵をまっすぐと見つめる。

 その瞳には誰も見たことがない芯の強さがあった。

 爆発をまともにうけた君麻呂は幾度か骨の攻撃を打ちだしたが、あたらないと確信したのか潔くやめて身
を退く。






「ふん、」






 君麻呂の腕から、長く伸びる骨が出てくる。






「骨は、固いだけじゃない。軟骨というものもある。」






 君麻呂は長く伸びた其れを軽く振る。






「鉄線花の舞。」







 鞭のようにしなやかに、ぱしりと音をさせて木に打ち付ける。

 の身体の二倍はありそうな木が、ばっさりと切り落とされた。



 鞭自体の長さは5メートル、

 射程距離が長い。



 木を綺麗に切り落としたことから考えるに、長いからと言って失敗してくれることもなさそうだ。

 彼は、慣れている。

 骨だからと言ってしなやかさに欠けることもないだろう。







「困ったな。」







 競技場は広いが、5メートルの鞭からうまく逃げ続けることは難しい。

 人間の走る速さや動く速さはたかが知れているが、鞭はその数倍の速さでこちらへ向かってくる。


 いつまでも逃げ切れるかと言われると、体力のないには無理だ。

 かといって捕まってしまえば相手の思うつぼである。



 鞭を燃やすにしても速すぎて鞭自体を捕まえるのは難しいし、蝶が炎を生み出すまでにはタイムラグがあ
る。

 鞭が待ってくれるはずはない。






「さって、どうしたものかなぁ。」






 は真剣に頭を悩ませる。

 炎は攻撃には向いているが、守備には向かない。



 鞭が来てしまえば、炎は何の助けにもならないのだ。

 は腰を低くしてから相手の動向を窺う。






「いくぞ、」






 鞭が振り上げられ、を捕らえようと一直線にむかってくる。

 は右に飛んでその攻撃をうまく避けた。


 鞭は壁面を削りながら、またをめがけて振り下ろされる。

 は壁面に着地して、また飛んで避けた。



 が着地していた壁面を一歩遅れて鞭が叩く。

 轟音を立てて壁面が爆発し、砂埃が辺りを埋め尽くした。






「起爆符か?」






 君麻呂が呟き、鞭を一瞬自分の手元に戻す。






「甘いな。」






 土煙が舞っているとはいえ、人影は見える。

 あれ程の爆発であれば、本人とて視界がきくはずがない。



 鞭が来たら避けられないのだ。

 案の定、土煙の間から紺色の髪の少女が見えた。





「見つけた。」






 君麻呂が鞭を勢いよく振り下ろす。

 人影に鞭が絡まった。






「捕らえたな。終わりだ。」






 は困ったように絡まった鞭を見下ろす。

 動こうとはしない。



 その緩慢な動きに君麻呂は首を傾げ、は絶体絶命の状態であるにもかかわらず、小さく笑んだ。

 の身体が白く光り、炎を吹き出して爆発する。







「!?」







 君麻呂は驚いて手を顔の前にして頭を庇う。


 一瞬出来た隙を、は見逃さなかった。

 スピードだけを見るならば、の方が遙かに速い。



 軽く君麻呂の後ろをとる。

 近距離線は腕力のないには不利だ。




 だが、自信はあった。

 腰を捻ってその勢いのままに君麻呂の腰を後ろから蹴り上げる。

 それ程の力がないため、数メートルとばされただけで君麻呂は着地した。


 急襲に余裕のない彼の首筋に、ひらりと蝶がとまる。

 炎の蝶が熱を発しながら、静かに主の指示に従うべく、羽を震わせた。






「・・・・・、」





 君麻呂がを思いっきり睨みつける。

 殺気だった目には思わず怯みそうになったが、それを表に出すことはなかった。



 君麻呂が動こうとする。






「白紅、」






 小さく蝶に呼びかけると、君麻呂の首にとまっていた蝶がじわじわと熱を発する。



 まるで、君麻呂の周りに熱を集めているように。

 鞭を振ろうとしたが、彼の鞭はさっきの爆発でぼろぼろに崩れてすぐに修復できる状態ではなかった。







「ぐっ、」






 君麻呂は口惜しげに唇を噛んで、客席を仰いだが、結局項垂れた。

 もしも彼がこれ以上暴れたならば、蝶が彼の首を吹き飛ばすだろう。



 そのことは彼自身も容易に想像できていた。






「ここで本気で戦っても仕方がない。」

「・・・?」

「降参だ。」






 息を吐いて、君麻呂は審判を見る。

 審判のゲンマは一つ二つと頷くと、手を挙げた。






「勝者、雪花姫宮蒼!」






 高らかに宣言する。

 それをは信じられない思いで聞いた。








( 人よりすぐれていること ひとを倒すこと )