、すごいじゃん!」

 ナルトが一番に試合会場に下りてきて、に抱きつく。

 は歓声に溢れる観客を呆然とした面持ちで見つめ、自分の勝利が信じられないように硬直して
いた。






「わたし、え、あのっ、」

「勝ったんだ。、勝ったんだってばよ!!」





 ぶんぶんとの手を掴んで振り回し、ナルトが笑う。






「おまえにしてはよく頑張ったな。」





 サスケも試合会場に下りてくる。





「わたし、勝った・・・・」

「そうだってばよ!!」




 は何度も自分で勝利の感触を確かめるようにして頷き、ナルトの青い瞳を見る。




「勝った・・・・やったぁ!!」




 やっと実感がわいてきて、ナルトに思いっきり抱きつく。

 ナルトは驚いたようだったが、抱き留める。




が勝った!!」

「わたし勝った!」




 一通り抱きついて満足したのか離れ、二人はぶんぶんと手を繋いで手を振る。

 その様子に、サスケは呆れた顔をしたが、それでもいつものような文句は言わない。



 嬉しい気持ちはうまく表現できなくても一緒だ。





「おまえはすごいよ。」

「頑張った?」

「頑張った。」





 の紺色の髪を、サスケはくしゃりと撫でてやる。

 は目を細めてその不器用な愛情表現を受け止めた。





「姫様勝った!」

「宮様が勝ちましたよ。やった!」

「東宮が勝った!!」





 観客席では炎一族の者が抱き合って喜ぶ。

 体の弱い東宮を何よりも心配していた。


 むしろ、怪我をしたり命をおとす危険性があるのだから、中忍試験などでないで欲しいとすら願
っていた。

 だが、自らの一族の未来が、東宮が、強くて嬉しくないわけがない。

 誇りでないわけがない。





「おまえの一族の東宮なのか?」

「そうなんですよ。うちの東宮様です。」





 炎一族出身の忍が、笑いながら自慢する。

 その姿を横目で見ていた、蒼雪はふっと笑った。





「本当によく頑張りましたわね。」

「うん。頑張ったね。」





 斎も自らの娘の勇姿に何度も頷く。





「東宮の姿が強きお姿が見れるとは思わなんだ。」





 日陰にあたる席に座したの祖母である風雪御前は皺の寄った目元を和ませ、涙をにじませそう
なほど柔らかに微笑む。

 心配そうにの姿を見ていたイタチは、ほっとした様子で息を吐いた。



 を、幼い頃から見てきた。

 に対するイタチの感情は誰よりも強い。


 が攻撃を受ける度にびくびくしていた彼だ。

 喜びよりも安堵の方が大きい。





「これはこれで、胃に穴が空きそうですね。」





 イタチはふっと長く細い息を吐く。

 自分で戦った方が気が楽なのだろう。


 もう気が気ではないと言った様子だ。

 斎は心配性な弟子に肩をすくめる。

 イタチはが忍になると決めた時も、中忍試験の本戦に出ると決めた時も、の意思を尊重してはいたが賛成はしていなかった。


 が傷つくのを極度に嫌うイタチは、過保護だ。

 今まではチャクラが多すぎて体調を崩すことが多く、屋敷からほとんどでなかったし、過保護
でも良かったが、これからはそうはいかない。


 そして、そのための翼を与えたのはイタチだ。

 イタチがの多すぎるチャクラを肩代わりするという形で、翼を与えた。



 皮肉な話だと斎は思う。

 誰よりもを大切に思い、それ故にを閉じ込めておきたかったイタチが、のための翼を作っ
たのだ。

 を思うが故に。



「まぁ、イタチも離れには良い時期なんじゃないかな。」





 斎は苦笑いを漏らして、イタチを見下ろす。




「・・・・そうなんですかね。」





 いつもいつもイタチだけを見て、イタチだけを頼ってきた

 徐々に変わりつつあるのかもしれない。


 自分が庇護するだけの幼いでは、なくなってきているのかもしれない。

 そう思うと、成長は喜ぶべき物だと思うのに、少し寂しい。



「そんな顔しないの。が子どもじゃなくなるって言うのも、悪いことばかりじゃないよ。」

「・・・?」

「君には君の、また別の役目が出来る。」






 大人になると言うのが、悪いことばかりではない。


 今の兄妹のような、和やかな関係は徐々に変わっていくだろう。

 兄妹のような親愛の情ではなく、男と女に。

 離れるからこそ深くなる物がある。


 蒼雪と斎は幼馴染み同士で、恋人同士になった。夫婦になり、子どもを作った。

 だから、わかる。

 でも、イタチがそれを理解するには時間がかかるのだろう。




「すぐに、寂しいなんて考えられないくらい。心乱されるよ。」

「・・・これ以上心乱されることが増えると困るんですけど。」

「心配じゃなくてね。」




 さっぱり理解できていないイタチに、斎は笑う。

 それを理解していくのも成長だ。


 隣で蒼雪が同じ思いなのか、悩み多き若者を優しい目で見守っていた。




「はいはい、とサスケは客席に上がる。ナルトは次ネジとだからな。」




 とナルトのはしゃぎように審判のゲンマは苦笑して指示を出す。

 はっとしてナルトらが顔を上げると、ネジがいつの間にか控えの席から下りてきていた。





「ナルト、頑張ってね。」

「おうよ!おまえに負けてらんねぇもんな。」





 とナルトはお互いに拳を握り、つきあわせる。





「勝てよ。」





 サスケもはっきりとした言葉でナルトの後押しをしてから、とサスケは二人で客席に戻る。





にしては頑張ったな。」

「木の葉の女子で残ったのひとりだもんな。めんどくせーけど、俺も頑張らないとな。」






 シノとシカマルがやってきて、ぽんぽんとの肩を叩く。

 木の葉の初勝利だ。


 その上木の葉の女子で残っているのが一人と言うことを考えれば、希少さも喜びに変わる。

 は少し嬉しそうな戸惑うような顔で頷く。





「わたし、勝ったんだね。」

「夢かなんかと間違ってんのか?」






 サスケはこつんとの頭を軽く叩いてから、を席に座らせ、の怪我の様子を見る。




「大丈夫だよ、傷はふさがってると思うし。」




 元々チャクラの多いだ。

 常人の数倍速で傷が治る。

 とはいえ、見た目は血が早く止まる程度だ。






「念のためな。痣とか出来てんぞ。」





 サスケはの言葉を聞くことなく、近くの湿布をの青痣に貼り付けた。

 こうしておけば明日には綺麗に後も残らず消えていることだろう。




「勝つかな、ナルト。」




 は不安そうに試合会場を見下ろす。




「勝つさ。必ず。」




 サスケはまるで確信しているように答えた。

 そこには、信頼がある。


 は目をぱちくりさせて、ふふっと笑った。




「いつも意地悪ばっかり言ってるのにね。」

「別に意地悪を言ってるわけじゃない。あいつがくだらないことばっか言うから。」

「そうなの?でも、信じてるね。」

「・・・・おまえもだろ。」

「うん。」




 信じてる。

 例え相手が強い人間だとしても、勝ってくれると信じている。


 それは、願いなのかもしれないけれど、

 信じている。



 は痣を湿布の上からなぞって、恐る恐る、けれど視線をそらさないように試合会場を見下ろし
た。





 信 ( こころをゆだねること いのること )