それは、自分が誰よりも認められていると知る故の、願い。

 愛されていることを誰よりも知っているが故、必要とされることを疑わぬ故の、強さ。

 持ちうる者だけが知る、穏やかさ。


 称号なんて、他者の評価など必要ないと、心から言える。

 それが持たない者にとって傲慢にしか写らないことを、はまだ、知らない。





 ネジとナルトの試合は滞りなく終了した。

 やはり、ナルトが勝利した。

 ナルトの、勝ちだ。





「やったってばよ!」





 ガッツポーズでナルトが帰ってくる。

 皆それぞれ祝いの言葉を述べたが、シカマルは残念そうだった。





「俺・・・・・負けるかも。」

「なんか、やる気ないね。」




 が突っ込むが彼には元々やる気なんてものは皆無だ。

 仕方ないと言えば仕方ないのだが、それでも呆れる。





「まぁ、わたしも、もういいや。」

「え?、おまえ中忍試験やめんの?」

「うん。別に中忍にならなくても良いかなって・・・・別にいらないし。」





 俯いて言うと、シカマルは複雑な顔をしたがひとつ頷く。





「中忍なんて面倒くさいだけだもんな・・・・ま、の考えが悪いとは言わねぇよ。、やっぱ向かな
そうだもんな。」

「やっぱり・・・?」

「だって、いっつも引け腰だし。」





 元々観察力のあるシカマルだ。

 の性格も把握している。


 要するに彼女は忍云々の前に戦いに向かない。

 無理して頑張って後から駄目でしたでは、本末転倒だ。





「サスケやナルトは怒るだろうけどな。」





 シカマルはふっと息を吐いて笑う。





「だねぇ、でもちゃんと父上様に話してくるよ。」





 やっぱりそういうことはきちんとしないといけない。

 そう言うと、シカマルはぽんとの肩を叩いた。




「がんばれよ。」

「ありがとう。」 





 は何も言わないシカマルの態度に驚きながら礼を言った。

 彼はよくの話を聞いてくれる。


 聞いてくれるだけだが、それでも救われる部分はある。


 たまに背中も押してくれるシカマルは、とても優しい。






「ところで、次シカマルだよね。頑張ってね。」

「おー、あーめんどうくせぇ。」

「さっさといけってばよ!!」





 ナルトがシカマルを試合会場に蹴り落とす、





「あららら、」 





 は目を丸くして下をのぞき込むと、頭から落ちたのか座り込んで頭を抱えていた。





「哀れな。」




 サスケが呆れたような目をナルトに向ける。

 ナルトは先ほどの勝利で気分が高揚しているのか、気にした様子もなかった。





「サスケは次の試合だっけ?」

「そうだ。砂の奴とだ。」





 楽しみにしとけよ、と静かながら強い意志を見せる。

 はサスケに曖昧に笑って、父にひとまず中忍試験の辞退のことについて話に行こうと階段を下
りようとする。





「どこ行くんだ?」

「あ、え、えと、父上様のとこ。ちょっと相談があって。」

「俺も行く。」

「え?でも次試合でしょ?」

「そんなに時間がかかることなのか?」





 サスケの質問に、は戸惑う。

 きっとサスケに、中忍試験を辞退するなんて言ったら怒られるだろう。





「いや、そんなにかからないと、思うけど。」






「だったら俺も行く。」





 サスケははっきりと言って、の手を掴む。





「行こう。」





 はサスケに掴まれた手をぼんやりと眺めていたが、サスケに言われて慌てて頷く。

 サスケの手はなんだかイタチよりも少し小さいが、やっぱり自分とは違ってなんだか頼りがいが
ある。

 うちはの家紋の描かれた背中を眺めると、サスケが凄く大きく見えた。





「サスケ、背が伸びた?」

「あ?かもな。成長期だから。」

「ずるい、わたし、ぜんぜんのびないのに。」






 はぶすっと頬を膨らませる。


 イタチの時もそうだったが、身長差というものは本当にあっという間に広がる。

 それが男女の差という物だったが、よくわかっていないがふてくされるとサスケは端で笑い飛
ばした。





「馬鹿だな、女は小さい方が可愛いよ。」





 ぽんと頭に手を置かれ、慰めるように撫でられる。

 サスケはいつも不機嫌そうな顔をしている印象がある。

 何が彼をそうさせているのかよくわからないが、笑うと格好良いのにと、は素直に思う。





「地下から行ったほうが早いかな。」





 サスケは階段を下りてから、別の向こうの階段の存在を思い出す。 

 おそらく斎は警備のために上の階にいる火影の近くにいるだろう。


 斎の直属の部下でもある兄のイタチに会うのは気が重かったが、斎からアドバイスの一つでもも
らえれば有り難いと思う。

 と、が、ふっと動きを止める。





「どうした?」





 サスケは尋ねて、すぐに後ろに振り返る。

 そこにはひょうたんを背におうた小柄な少年が立っている。


 サスケの対戦相手である砂隠れの我愛羅だ。


 気配もなく立っていたので、サスケも一瞬気がつかなかったのだ。





「・・・」





 も振り返って、我愛羅をまっすぐ見る。

 彼の抱えるひょうたんから静かに砂があふれ出て、あたりに砂のヴェールが漂う。


 薄暗かったからわからなかったが、我愛羅の後ろには木の葉の忍の額あてをつけた忍が、倒れ伏
している。

 出血量と、手足が変な方向に曲がっていることから、生きてはいないだろう。





「何をしてる!」






 サスケが声を荒げて我愛羅と相対する。

 は嫌な予感がして、そっと指先に自らの能力の媒介である蝶を乗せた。

 白く輝く蝶の鱗粉が彼のチャクラを焼き払う。

 すると、どさりと漂っていた砂が地面に落ちた。


 我愛羅が目を僅かに見開いて、忌々しげに舌打ちをした。

 は手を胸の前で握りしめ、彼を睨み付ける。

 サスケの背中が一歩前に出た。





、斎さんと兄貴に知らせろ。」





 を背に庇い、サスケが言う。





「良いか、俺がアイツの気を引く。その間に斎さんと兄貴に知らせろ。」

「え、?」

「あそこに倒れてる奴らは暗部だ。他国の忍が暗部を殺す理由なんて、一つしかない。」





 暗部は暗殺特殊部隊で、手練れが多い。

 今回の中忍試験にもたくさんの暗部がいる。

 イタチも暗部の上、斎も元々は暗部で、手練れの上忍達も暗部出身であることが多い。


 里を影なら防備する存在。


 その彼らを里の中で殺すと言うことは、里の守りを手薄にしたいということ。

 そして、手薄にする理由など、限られている。





「砂は木の葉に喧嘩を売る気らしいぞ。」





 はサスケの言葉に目を見開く。





「・・・戦争?」





 ここ一〇年、木の葉の里は戦争に巻き込まれたことがない。

 戦略上や政治上でのもめ事はあっても、直接巻き込まれたことなどなかった。

 は初めて目の当たりにする事実に戸惑う。





「どうしてっ、」

「そんなこと言ってる暇はない。一般人の早急な避難のためにも、透先眼を持つ斎さんに早く連絡
して戦略を練らないと。」





 の父、斎は透先眼を持つ。

 過去と現在の全てを見通す瞳の能力には、千里眼も含まれる。

 彼に知らせることが出来れば、有効的に戦略を練ることが出来る。


 ましてや火影の最有力候補である男だ。





「斎さんならどうにかしてくれる。早く。」

「わかった。」





 は神妙な面持ちで頷く。






「ここで、対戦って訳か。」





 サスケはにやりと唇の端をつり上げる。






「おまえは、」





 我愛羅も何かを感じてか、表情を歪める。

 はサスケが千鳥を放つのと同時に、走り出した。






( あらそいごと 大切な物を けしていくもの )