階段を駆け上がると、強い歓声が聞こえていた。

 は火影や斎の居る高台に登るべく、壁に足をつく。

 暗部の誰かが止めようとしたが、は構わずそのまま駆け上がった。

 チャクラでの吸着する方法は、イタチに教わっているから簡単だ。


 元々覚えが悪い方でもない。


 透先眼を開けば、斎が火影のいる高台の下の場所で試合を見ていることがわかる。

 手すりを蹴って中に入ると、斎が驚いた顔をしていた。

 イタチもその隣にいる。





?」

「父上様っ!」






 は血相を変えて父にすがりつく。





「大変、大変なの、あの、サスケがっ、」

「何?落ち着いて、大丈夫だから、」





 斎はの小さな背中を大きな手で何度もさする。

 その時、轟音が響き渡り、建物が大きく揺れた。


 斎は思わず娘を守るために腕に抱え込んで揺れをやり過ごし、視線をあげる。

 すると、中忍試験の選手達がいた棟が土煙を上げて崩れていた。

 中から尻尾を持った何かと、少年とおぼしき影が飛び出してくる。





「なんだあれは?」






 斎は目を水色の透先眼に変えて、焦点を定める。

 尻尾を持った動物の正体はよくわからないが、少年が誰なのかはわかる。





「サスケ?!」






 斎の口から出た弟の名に、イタチが動揺を見せる。





「あの我愛羅って言う子が、暗部の人を殺してて、サスケが里に喧嘩を」

「暗部を殺してた?本当に?じゃあ砂がハヤテを?」





 達には知らせていないが、中忍試験の試験官もしていた月光ハヤテが殉職した話はすでに斎達
は知っている。

 暗部を殺したのが我愛羅だというのなら、おそらくハヤテを殺したのも砂の人間だろう。

 斎はの話から瞬時に推測して、何をしなければ行けないかを判断する。

 ひとまず胸元から術式の書かれた紙を取りだし、声を吹き込んで空に放り投げる。


 その時、入り口の方から砂の忍とおぼしき人間が飛び込んできた。

 砂の忍は印を結ぶ。





「幻術か!」





 斎は一瞬で見抜き、クナイを取り出す。

 しかしそれよりも早く、写輪眼を開いていたイタチは砂の忍の動向を見抜いていた。

 刀が彼の躯を貫く。


 が透先眼であたりの様子を確認すると、砂の忍がたくさん会場に入り込んで、一般人や忍に幻
術をかけているところだった。






「やばいな。」





 透先眼でサスケと我愛羅の居場所を確認すると、徐々に移動している。

 斎は我愛羅が尾獣であることをすでに理解している。

 尾獣をサスケのような下忍がひとりで相手にすることなんて不可能だ。


 達神の系譜でも、忍界大戦の折りは尾獣に倒されたものがたくさんいたほどだ。

 カカシがナルトやサクラを追わせたようだが、戦力的に無理がありすぎる。

 砂と音の忍も、我愛羅とサスケを追っている。

 斎が追いかけて仕留めたいところだが、透先眼で見れば大蛇丸が火影を襲っているらしい。


 上の奴らの方が問題だった。


 それ以外にも音や砂の忍が大量に入ってきている。

 中には手練れもたくさんいるし、街では口寄せの蛇が暴れている。

 斎なしに彼らを倒すことは出来ない。





「久々の人出不足かな。」





 苦笑して、斎は娘を見る。






「ち、父上様っ、」





 は涙目で父親を見上げる。

 初めての経験に慌てるに対して、斎は幼い頃から似たような経験を数多くしてきている。

 を安心させるようににこりと笑って、頭を撫でる。






「良いかい、よく聞くんだよ。透先眼を使って、サスケ達を追うんだ。」

「え?」

「僕とイタチは別に仕事がある。我愛羅相手にサスケでは、敵わない。でも、もしかしたらナルト
くんやならどうにか勝てるかもしれない。」

「わたしと、ナルト?」

「そうだ。大きなチャクラを持つ。それは我愛羅も同じなんだ。」





 忍の天才には3つ種類がある。

 大きなチャクラを持つ者。天才的な忍術の技量を持つ者。そしてその両方を持つ者だ。


 とナルトは莫大なチャクラを持つ、だが幼いが故にまだ技量がない。


 サスケは確かに忍術においては天才的な技量を持つ者だと言えるが、この力は年と共に磨かれて
いく物だ。

 斎やイタチほどになれば大きなチャクラを持つ者に押されても揺るがないが、幼いうちは大きな
チャクラを持つ人間に力押しで来られれば勝てない。

 サスケではチャクラがなくなり、押し切られてしまうことは目に見えていた。






「勝てなくても、時間を稼いで。僕らが助けに行くから。」






 斎はを抱きしめる。

 娘を、戦いの場に送り出すのは辛い。けれど、それが忍だ。






「う、うん。」






 は瞳を潤ませながらも、何度も頷く。





「だ、大丈夫、がんばる。」





 震える声でそう言って、袖で涙を拭う。

 斎はを刺激しないようにそっと離れて、手すりの上に軽く飛び乗る。






「また、後でね。」





 いつもと変わらない様子で軽く手を振って、斎は上に飛ぶ。

 上を透先眼で見れば、中忍試験であった蛇の人と、3代目火影が戦っている。


 あちこちで戦いが行われ、人が死んでいく。

 その場所に足を踏み入れるのは勇気がいるけれど、それをしなければならないのが、忍だ。






、」






 イタチが、の腕を掴む。






「イタチ、うん。がんばるっ、このために、わたし、忍になったんだもん。」






 一族の人を守りたい。

 守られるだけじゃなくて、守りたいと思った。


 だから、忍として頑張ろうと思った。

 怖いけれど、その気持ちはウソじゃない。

 イタチはの答えに複雑な表情をして、それから思い詰めたようにを引き寄せる。






「わっ、・・・んぅ、」





 突然引き寄せられてイタチの胸に飛び込んでしまったは顔を上げて、今度は唇を重ねられた。

 いつもの穏やかさとは違う、熱の籠もった唇に驚きながら、その温もりに身を委ねる。





「生き残れ。」





 離れて、イタチが低い声で言う。





「絶対に、生き残れ、」




 死ぬ人間を、たくさん見てきた。

 戦いでは、簡単に人の命が失われる。

 きつくきつくを抱きしめて、イタチは確かな何かを求めるように繰り返した。





「うん。絶対、また、」





 も、精一杯イタチの抱きつく。

 またこの腕に帰ってくるんだと、いつでもこの腕を思い出せるように、心に感触を焼き付ける。





「愛してる。」





 イタチがの髪に顔を埋め、耳元で囁く。

 狂おしい程切ない響きに、は泪が出そうになった。





「うん、イタチ、愛してる。」





 その言葉一つに、精一杯の自分の気持ちを込めて、離れるしかない今を呪った。









( 狂おしい感情 温もり )