木の葉の里は酷い状態だった。

 あちこちで煙が上がり、蛇や忍達の戦いが行われている。



 遠くかつてサソリのところへ行く途中に通った国境付近では戦闘が行われているようだった。

 は母の蒼雪が心配であたりを見回せば、遠く城壁近くで侵入してくる砂と音の忍を一蹴してい
た。

 流石、里で1,2を争う手練れである。


 は元々体力がない。

 大きな犬神を口寄せし、上にのせてもらう。

 犬にサスケの臭いをかがせれば、犬が鼻で追ってくれる。


 透先眼を使う必要もなくなるので、チャクラを温存できる。

 これからの戦いに備えてチャクラを温存することは、絶対に必要だった。

 犬神の白い毛並みに顔を埋め、目を閉じる。





「怖いな、」





 戦うのは怖い。

 けれど、集中しなければならない。


 戦い、相手を倒す。


 それによって守れる者がある。

 そう思えば、心が徐々に研ぎ澄まされていく。

 静かに目を開けると、わんと大きく犬神が鳴いた。


 犬神が示すところを見ると、見覚えのある影が懸命に走っている。

 サクラとナルト、それにシカマルだ。





「サクラ!!」





 は大きな声で叫び、犬神に指示を出す。

 突然現れたに驚いたようだったが、三人ともほっとした顔をする。





「良かった。無事だってばよ。」





 ナルトは安堵の息を吐く。





「話は進みながらしようぜ、」






 シカマルのもっともな意見から、とナルト、サクラはまた走り出す。

 鬱蒼とした木の葉の森を、臭いを頼りに進んでいく。

 景色が過ぎ、遠くなる。





「そうか、斎さんにサスケをおうようにいわれたのか。」





 シカマルはの話を聞きながら、納得したようだった。





「うん。父上様が式神で里の一般市民の避難を優先させるように知らせたみたい。母上様は城壁の方で敵を追っ払ってるから、これ以上は入ってこないけど・・・」

「中にいる奴らの始末には時間がかかるか。増援はなかなか望めそうじゃねぇな。全く・・」





 冷静な状況の分析は、こちらが不利であることを物語っている。

 もちろん我愛羅やサスケを追うことも大切ではあるが、一番守るべきは里だ。


 里で1,2,を争う手練れである斎や蒼雪は、里の中の者達を守るために必要だろう。

 火影も、火影の地位にあるとはいえ老齢だ。

 なおさら、彼らの力がいるだろう。

 も頷いて、険しい表情で透先眼で後ろを確認する。





「追っ手も来てるか?」

「うん。君麻呂だ。」





 どうやら我愛羅を追っているのは自分たちだけではないようだ。

 もしくは、彼には彼の別の思惑があるのかもしれない。


 が把握できているのは、大蛇丸と砂がともに里に侵入していることだけだ。

 シカマルもらもそうだが、まだ下忍であり、里や外部との折衝などの情報を知らないため、こ
の状況が何を示すのか、“戦争”ということ以外、どちらにしても想像の域を出ない。





「ともかくだ、俺たちは単独で我愛羅を止めるという任務を与えられ、それはカカシ先生だけでな
く斎さんの見解でもあるってことだな。」

「うん。ナルトか私が戦えば勝てる可能性があるって。」

「サスケじゃなくて、俺が?」





 ナルトが驚いたように空色の目を見開く。





「うん。わたしとナルトはチャクラが多いからって・・・。我愛羅も、同じだって」





 は一生懸命自分がわかる状況をシカマルに説明する。


 斎は、サスケではなく、ナルトか自分が我愛羅と戦えば勝てる可能性があると言った。


 その意味がには正確に理解できてはいないが、それなりにきちんとした理由があるのだろう。

 シカマルもの意図だけはきちんと理解する。

 火影候補として絶大な支持を受ける斎だ。


 シカマルの父シカクも、尊敬している。

 彼がそう言うには、それなりの理由があるのだろう。





「要するにだ。」






 シカマルは頭の中で瞬時に情報を整理し、理解する。





か、ナルトかを我愛羅の元に送り届ける。そして援護する。それが俺とサクラの役目ってこと
だな。」






 最優先は、もしくはナルト。

 斎がサスケでは駄目だという限りには大きな欠点が彼の中では見いだされているのだろう。






「どういうことだってばよ!俺っ・・・」





 まだ自分が役に立つとは理解できないナルトは、戸惑ったように叫ぶ。

 シカマルがちらりとを伺い、めんどくさそうに頭をかいて、サクラとナルトを交互に見て口を
開いた。





は、体調を崩すほどチャクラが多いんだ。」

「え?どういうこと?」





 意味がわからないサクラが首を傾げる。






は元々アカデミーを休んでただろ。はな、一族的な身体的な性質の問題と、遺伝性の関係で
生まれつきチャクラが馬鹿でかくて、躯を圧迫していたんだ。うちは薬師でもあるからな。」






 シカマルの家は薬の原料ともなる鹿の角を作っている。

 その関係での病の正体も知っていた。

 チャクラ、それは自分たちが術を使うのを助ける物であり、多すぎれば毒になる恐ろしい物だ。





「うちはイタチが、そのチャクラを半分肩代わりして、は普通の生活が出来るようになった。」






 半分でも莫大な量だが、の躯がなんとか支えられる量だ。

 それによっては普通の生活を手に入れた。





「ナルト、おまえにはそれと同じだけのチャクラがある、もしくは何らかの可能性があると斎さん
が認めてるってことだ。」






 斎はナルトや、ならと考えた。


 血継限界を持ち、莫大なチャクラを持つと同等であると考えた。可能性があると思った。

 火影候補に挙がり、里からの人望もある斎が、だ。





「俺に?」





 まだ示された自分の可能性が信じられないように、ナルトは自分の掌を見つめる。





「俺にも出来ることがあるってことだよな。」






 その掌を握りしめ、ナルトは斎の穏やかなほほえみを思い出して、うんと笑う。


 彼は、ナルトの後見人だ。


 何故後見人になったかとかを教えてくれたことはない。

 だが、それでも彼はよく様子を見に来てくれたし、術を教えてくれた。

 彼がそう言うなら、本当に自分には力があるのかも知れないと思えるし、なくても精一杯頑張ろ
うと思う。





「へっへ、俺、火影になる男だもんな。」





 できる、と一言呟いて、隣を走る犬神に乗るを見上げる。





「頑張って、そしてサスケを鼻で笑ってやろうぜっ!」





 ナルトは気楽に笑う。

 その軽い様子は、期待をおわされて緊張するを癒す。





「うん。」





 が淡く微笑む。

 その笑顔は、ナルトの記憶にある斎によく似ていた。





( 強さを 認めてくれる人々を )