透先眼を開けば、ナルト達が倒れているのが見えた。

 はイタチにおんぶされながら、そこにたどり着いた。

 サスケが木の上に、ナルトが地面に突っ伏しているが、全員生きている。

 ナルトとサスケは砂の我愛羅を倒したようだ。


 遠く見れば、シカマルやサクラも何とか無事だった。




「サスケっ!」




 イタチは慌てて自分の弟であるサスケに駆け寄る。

 喧嘩をしようが恨まれようが、やはり弟は可愛いのだ。


 怪我の具合を確認すると、応急処置を必要とするほどの怪我ではなかった。

 血も止っている。





「オレは大丈夫だ、それよりナルトは?」




 サスケは自力で立ち上がろうとしたが、腕を押さえてうずくまった。

 かなり痛むようだ。

 イタチは弟に肩を貸す。


 は怪我をした足を引きずりながら、ナルトを助け起こす。




「大丈夫だってばよ、」




 ナルトもふらふらしながら、に支えられて、と言うよりお互いが支え合うように立ち上がる。

 それでも立ち上がれるだけサスケよりましだった。




「こっちも大丈夫みたい、良かった。」




 酷い怪我ではあるが、生きている。

 みんな生きていたことに安堵すると同時に、里の方を見上げると、まだ狼煙以外に煙が燻ってい
た。

 透先眼で確認すれば、壊れている場所もたくさんあるが、戦いはもう終わっているようだ。

 砂の忍は遠く向うで撤退していく。


 戦いは、もう終わりだ。

 木の葉の忍だけではなく、砂の忍の遺体が一瞬見えて、は透先眼を閉じて視界を普通の現実に
戻した。

 ここから木の葉まで、結構距離があるが、歩いて帰るしかなさそうだ。 


 里の状況を加味すれば、救援は望めまい。




、大丈夫か?」




 サスケを支えながら、イタチは尋ねる。

 ナルトに寄りかかられているだが、だってかなりの怪我だ。


 イタチからしてみればやはりチャクラを封じられた後遺症が心配だった。

 しかし、は大丈夫だと頷いた。




「大丈夫だよ。このぐらいしないと、怒られちゃう。」




 結局、我愛羅はサスケとナルトが倒してしまって、は君麻呂を倒すことも出来ず、役に立てな
かった。




「君麻呂は?」




 ナルトが心配そうにを見ながら尋ねる。




「イタチだよ。ね。」




 は見ていないが、起き上がれば倒れ伏している君麻呂がいた。

 死んでいるかは確認したが、流石暗部だ。

 心臓を一突き、寸分のずれなく、後ろからの一撃だった。


 暗部は人体の構造も学ぶし、隠密での人の殺し方も知っている。

 だが、君麻呂ほどの人物の後ろをとるのは簡単ではなかったはずだ。


 それでも後ろをとれるのだから、イタチの実力はでは到底及ばないレベルなのだろう。

 哀しいし、悔しいがそれが今のとイタチの力の差である。




「まぁ。な。」




 少ししょげているを気兼ねして、イタチは曖昧な答えを返す。

 君麻呂とイタチではランクが2段程違う。

 特にイタチは暗部でもあるし、何よりも動きの速さでは木の葉でも三本の指に入る。


 それは風伯と呼ばれ、速さで恐れられる斎と同じである。

 風の性質変化であることも大きい。

 はまだ性質変化の修行も行っていないから、仕方が無いところも多々あった。




「そう、か。」




 サスケは頷いて、また表情を歪める。

 九尾を持つナルトは回復が早い。も莫大なチャクラを持っているので、その点ではナルトと同
じで回復が早い。

 もナルトもお互いに支え合えば歩けているが、サスケの方はそう言うわけにもいかず、歩けば
痛みが走るようだ。

 イタチは小さく息を吐いて、サスケをおぶる。




「おいっ!」





 サスケは叫んだが、抵抗する気力まではないらしい。




「今回は、おまえも頑張ったさ。」




 イタチは久々に弟を労るそぶりを見せる。

 サスケはまだ何か反論しようとしていたが、やはり苦しいらしく、黙り込んだ。


 とナルトはゆっくりと二人で歩く。

 イタチはサスケを負ぶったまま、ナルトにも手を貸した。




「ごめんってばよー。」




 ナルトは申し訳なさそうな声を出して謝るが、かなり苦しいはずだ。

 回復が早いと言っても、決して辛くないわけではないのだから。




「気にするな。それに、後輩を助けるのも俺の役目だ。」




 まだ伸び白のある子供達を助けていけば、また彼らが芽吹き、次の時代を紡いでいく。

 それで良いのだと、イタチは思う。


 斎が全力で自分を守ってくれたように。

 だから、今は頼っていてくれて構わない。

 自分の方が年上なのだから。




「あ、カカシ先生が来る。」




 はぽつりと呟いて、木々の間を見る。

 しばらくすると、ガイとカカシが木の陰に現れた。




「あれま、満身創痍」




 ぼろぼろの子供達を見て、カカシは苦笑した。

 写輪眼を開いた彼も小傷が多く、なかなか辛そうだが、弟子達をわざわざ迎えに来たらしい。




「大丈夫か?オレが来たからには大丈夫だ!」




 一緒に来たガイが意気込んで、ナルトを問答無用で背中におぶる。

 ナルトが嫌そうな顔をしたのを、は見逃さなかった。

 相変わらず濃い顔のガイであるが、気は優しい。

 ただこの熱血系の空気を嫌う人は後を絶たない。


 案の定イタチも顔をしかめていた。

 クールなイタチなので、熱血系で理論の通じないガイが苦手なのだ。

 その点の好悪は師弟で共通しているらしく、の父でイタチの師・斎もガイが嫌いだった。




『あの暑苦しい空気がさ。だるいんだよね。』




 元々さぼり癖のある斎は、何度もガイに詰め寄られたことがあるらしい。

 馬鹿で理論を理解してくれないので理詰め出来ない上、変な熱血精神で諭してくるからうざいと
言うのが、斎の弁だ。

 父がはっきりと他人を嫌いだと言うのは珍しいことなので、も印象に残っていた。

 そして、



「おぉ、久しぶりだな姫よ。元気だったか?」




 ガイはに目を向けて、すちゃと手を挙げてにこやかに挨拶をする。

 はこそっとイタチの方に身を寄せる。


 斎と同じようにもガイが苦手だった。

 この暑苦しくて濃い雰囲気が耐えられないのだ。




「あははは、サスケをおぶるの、交代しようか」





 カカシはの態度を知ってか知らずか、乾いた笑みを浮かべて、イタチに申し出る。

 カカシがサスケをおんぶして、イタチがをおんぶして早く帰ろうと言外に言っているのだ。




「え、わ、わたし、大丈夫だよ。だからゆっくり歩いて帰るよ。」




 足を引きずりながら、は主張するが、カカシは首を振った。




「早く、帰る必要がある。」

「え?」

「戦いは、終わったんですよね?」 




 驚きの声を上げると反対に、イタチは冷静に事態を問う。

 全員がカカシを見つめる中、カカシは重い口を開いた。




「火影様が、亡くなられた。」




 全員がカカシの言葉に目を丸くする。

 イタチだけは懸念していたことに、目を伏せる。


 大蛇丸と火影が戦っていたので、里での防衛戦の指揮は完全に斎が執っていた。

 予測できなかった事態ではない。

 イタチはサスケをカカシに託して、を背中に背負う。




「しっかり掴まれよ。ちょっと早く走るぞ。」




 注意してをしっかりと抱え込む。

 はイタチの首に手を回し、目を閉じる。

 火影の、掠れたような笑い声が、響いた気がした。








( ひとがいなくなること )