上層部と上忍が集まる会議の場、

 二週間に一度行われるこの会議で、議題としてのぼったのはの中忍への昇格だった。

 イタチは斎の隣に控えて、静かにその話を聞いていた。


 最近、イタチは斎の副官化している。

 一応は暗部に所属しているので暗部の任務にも出るが、それ以外の時は斎につっききりだ。

 普通の忍ではなかなか斎の今の仕事量を手伝い、処理することが難しい。

 かといっていつものように人員を増やせば、木の葉崩しで人も犠牲になったので任務に出る人間
がいなくなる。


 結局のところ、判断が速く要領も良く、斎の処理方法を理解しているイタチを一人を残して手伝
わせた方が効率的なのだ。




は、中忍には相応しくない。」



 はっきりとそう意見したのは、火影代行をしているの父親、斎だった。

 誰よりもを知っているはずの彼は、子供の昇進よりも教育という観点から、昇進に真っ向から
反対した。




「実力的にもそうだし、任務として見てもそうだ。には誰かを率いる力も、守る力もない。」




 親で、の努力も知っているはずの斎は、を昇進させる意向の強い上層部に言う。

 本来ならばごのような公の場で議論すべきことでもないのだが、会議の場で意見した原因は、他
の上忍達の反応だった。






「確かに、炎一族の東宮は確か12歳だと聞く。まだ早いのではありませんか。」

「斎様のおっしゃるとおりだ。流石に炎一族とはいえ、それは…容認しかねます。」




 控えめながら他の上忍もの昇進に異を唱える。

 中忍試験の本戦で見せたの実力は確かに中忍としてやっていける物ではあった。


 血継限界もあり、能力も高い。

 向上心もあり、真面目だ。

 事態に陥った時の取捨選択の判断力も下忍に勝る物がある。

 その見解はの中忍試験での戦いを見た全員が一致している。


 だが、中忍としての資質は実質的には実力ではない。

 精神力、統率力だ。

 中忍試験全体を見れば、確かに彼女は優秀な戦いぶりをしたが、彼女は切羽詰まらないと戦わな
い。
 仲間が危険に陥ってどうしようもなくなった時以外、全くと言って良いほど自分から戦っていな
いのだ。


 実際に戦う時でも、が先に手を出すことはまずない。

 その姿はしっかりした精神的な芯もなく、その時々で追い詰められて戦っていたことを如実に示
している。

 彼女のぎりぎりまで戦わないという決断力のなさ、そして覚悟の欠如は任務において重大な決め
てを欠くミスとなるだろう。

 また、隊長としての判断が出来ないという風に見える。

 小隊長も任される中忍という立場に立つ人間としては、あるまじきだった。


 それは誰の目から見てもわかる。

 上層部にかみつくことはなかなか難しい。

 斎は会議の場でわざわざ上層部に意見することで、上層部にの昇進を見送ることが、上忍全員
の総意であると示したかったのだ。


 上層部のコハルは斎の的を得た抵抗に渋い顔をする。 

 斎はその予言の力のせいで昔から上層部に出入りしている。

 彼はいつの間にか、上層部の中でどう立ち回れば自分の思い通りにことが運ぶのかを理解してい
た。



 一番酷かったのは4代目火影がいた頃だ。

 4代目火影は急進的な指導力で様様なことを解体していった。

 その片棒を担いだのは間違いなく兄弟弟子で、口論も討論もうまければ、上層部に話を通すことの慣れている斎だった。

 決定に関して単独で抵抗してもその力はたかが知れているが、上忍の総意であれば話は変わって
くる。 

 上忍の賛成がなければ任務は円滑に進まない。

 それをうまく使ってくるのが、斎だった。



「しかし、炎一族の東宮として、これからの成長を期待することは出来るのではありませんか。」




 うちは一族のフガクが、慎重な意見をする。

 炎一族の東宮ともなれば、どのみち後々上に立っていかなければならない。

 ならば先に上の地位を与えて経験を積ませた方が良いのではないかというのだ。


 それは事実上昇格の容認を意味していた。

 上層部の面々が賛成の意見に安堵の息をつく。


 フガクからしてみればせっかくの昇格を不意にすることがもったいないと思っているのだろう。

 イタチの例に漏れず、やはり早く昇進すればそれは優秀さの印となる。

 昇進自体はよいのではないかというのが、、フガクの意見だった。


 斎とフガクは全く別の思想を持つ。

 斎は自由奔放だ。臨機応変で本人にとって一番良いかどうかを考える。

 フガクは現実的だ。何が社会的に必要なのかを一番に心がけている。

 社会的には確かに今昇進しておいた方が、評価は高い。


 だが、斎は娘にとって昇進は望ましくないと考えていた。

 今まで、斎はフガクと正反対の思想を持ちながら、面と向かって対抗するようなまねはしなかった。

 イタチの中忍試験の時も、フガクが推薦することを望めば意に沿った。

 しかし、今回は違った。





「いいえ、本人も昇進を嫌だとしている。だからこそ、昇進すべきではない。」




 斎はフガクにはっきりと反対の意を示し、自分の意見を曲げなかった。

 フガクが目を見張る。




「本人が嫌がっていることが、一番の原因だと思うよ。」

はいつも逃げ腰ですからね。」




 斎の意見に、の担当上忍であるカカシが同意する。




「ただ状況に流されているだけの気が非常に大きい。最近は改善もされてきましたが、まだまだだ
と思いますよ。」



 それは、カカシの素直な意見だった。


 一応カカシとてを中忍試験に推薦したが、に関しては少しでも彼女の自信のなさと心持ちが払拭されてくれればと考えたくらいだ。

 実際に受かって欲しいとは思っても、相応しいと思ったことはない。

 斎の反対は完全に的を得た物で、流石親だと思う。


 は自信を持っておらず、人を率いるどころか自分の心すら曖昧だ。

 そんなが昇進などして小隊を率いる立場になって良いはずがない。

 そして火影代行をして忙しかろうがなんだろうが、この場での昇進を踏みとどまらせることが
親の責任だと斎は感じたのだ。




「娘のことが一番わかっていると言うわけではないよ。しかし、は昇進を嫌がっている。覚悟の
ない娘を中忍に無理矢理することは、僕は出来ません。」




 斎は上忍や上層部の顔を見ながら、言い切る。

 イタチはなかなかの昇進を取り下げない上層部に癖癖しながらも、斎の強い反対にどこかで安
心していた。



 は、弱い。

 現状で流される気が強く、任務が忙しくてなかなか会えていないし、話し合えてはいないが、君
麻呂への敗北がかなりの気分を沈ませる原因になっているようだった。

 食事の量も減り、体調も良くない。

 気分が沈んだ上に来たのが、昇進の話だ。


 は完全に自信をなくした。

 君麻呂へ敗北して、その上家柄と血継限界だけで昇進させてくれるというのだから、は自分の
力への自信を完全になくしてしまったようで、夜も眠れないほど沈んでいた。


 がアカデミーに通ったのは一年。下忍になって一年もたっていない。

 たった二年足らずの間に、子供達がアカデミーの時に悩んだ全ての答えを見つけられるはずもない。

 他の子供達と同じレベルで物を考えられるはずがない。

 だからむしろ、人よりもゆっくり進むくらいで良いのだ。


 娘のためにと懸命に頑張る斎を頼もしい思い出見つめながら、イタチはそう思った。










( だれかのために貫き通さなければならない物 )