すぐにうまくいくはずがない。




「まぁた失敗したってばよ。」





 風に吹き飛ばされたナルトは地べたに這いつくばる。

 風遁の失敗はもうかれこれ10回目くらいだ。

 5回目を超した頃からだんだん数えるのも嫌になってきた。

 たまたまこの間イタチがいた時に風遁・鎌鼬を教えてもらった。

 一応一年ほど前にアカデミーに斎が来た時に見た術だが、鍛錬を怠らなければ数年後には出来るだろ
うと言っていた。


 数年は一年も入ると、屁理屈をこねてイタチに強請ってみると教えてくれたが、やはり難しい。

 サスケがカカシに教えてもらって千鳥を修得したので自分もと考えたが、そう簡単にはいかない。





「あれぇ?風遁?」





 が心配そうに這いつくばるナルトをのぞき込む。




「飯だぞ。」





 サスケも隣で不機嫌そうな顔をしていた。

 起き上がってみると、サクラが少し向うで弁当を広げていた。

 弁当の数が多いのは、忙しい合間をぬっての母蒼雪が持ってきてくれたからだ。



 上忍のほとんどが里の外へ任務に出かけている。

 木の葉崩しで国力の衰えた火の国はそれを周囲の諸国に見せることは出来ないし、日頃以上に国境付
近を警戒しなくてはならない。 

 木の葉崩しでは死者も多かったため優秀な忍が減った。

 そのくせ任務だけ増えるからイタチを初め、手練れである蒼雪も任務に引っ張りだこだ。

 逆に上忍がいなければ動けないアカデミーを出たばかりのぺーぺーの集団である7班はカカシがいな
ければ動きようがなかった。



 自主修行と銘打った暇つぶしが公然と行われている。

 一応みんなで集まって修行はしているのだが、コミュニケーションをとったり、食事をしたりと完全
なる時間つぶしとかしていた。

 流石にそれでは駄目だと修行のカリキュラムはないかとカカシに聞いたが、個人で違うから難しいと
言われた。

 ひとまずサスケとサクラはカカシが作ったカリキュラムを、そしてナルトとはカカシの助言でイタ
チに相談に行った。

 2人とも性質変化が風であるという共通点から、性質変化が風のイタチのところに行ったのだが、イ
タチが教えたのは水面立ちなどの基本的な事項と、模擬戦だった。


 明後日、夕方イタチが暇なので、2人ともイタチに模擬戦を行ってもらう予定だ。

 一発ぐらいかすらすことは出来ないかと模索中である。





「ひとまず、飯だな。」




 かりかりとナルトは頭をかいて立ち上がる。




「根を詰めてちゃ駄目だよ。」




 はにこりと笑って言って、サスケを見る。




「明後日の模擬戦はサスケも見に来るの?」

「あ、あぁ、斎さんが是非ともおいでって、」




 イタチとの確執があるサスケは呼ばれていなかったのだが、斎がおいでと言ったらしい。

 イタチの担当上忍である斎をサスケは案外慕っている。

 そこにはやはり兄が心から尊敬して慕う人であるというのがあるため、複雑らしいが、大抵斎の申し
出には弱かった。





「ひとまず用意できたわよ。」





 サクラが弁当をきちんと広げて、微笑む。





「美味しそう…」





 はぽつりと呟いて、好物の鮭があることに気付き、目を輝かせてサクラの隣に座る。

 ナルトもサスケも座って、ひとまず食事にすることにした。




「それにしてもイタチさんと模擬戦かぁ。」





 サクラはしみじみと言う。





「ん?」

「だって、私たち、カカシ先生にぼろ負けだったもの。」





 先日、サスケとサクラは任務の合間の時間をぬったカカシに模擬戦をしてもらったが、ぼろ負けだっ
た。

 擦りもしない。


 それが2人の実力だった。

 やはり中忍試験で成長したかも知れないと思っても、やはり上忍との間には大きな実力差が存在する
と思い知らされた。





「まぁ、おんなじ感じだと思うよ。」




 は苦笑して鮭を一番に紙皿にとる。

 イタチも暗部である。

 実力は上忍並と言われ、天才との誉れ高く、挙げ句の果てに火影候補の父・斎の弟子だ。


 そう簡単に攻撃があたるなんて思ってはいけない。


 所詮自分たちは下忍である。




「写輪眼を持つイタチの兄ちゃんにどうやって一発当てるか、難題だってばよ。」




 ひとまず一発。

 それがナルトとの共同で考える課題だった。




はいつも、模擬戦してもらってるのよね。」




 サクラはちらりと鮭を口に含むに尋ねる。




「むぅー、むめまもー?」

「口から物をなくしてから話せ。」




 サスケがあきれ顔で注意する。

 はもぐもぐと口を動かし、ごくんと飲み込む。





「あー、無理だよ。今回は写輪眼もありだって言われたし。わたしがかすった時、ろくに写輪眼使って
なかったから。」




 チャクラの流れが見える写輪眼は一筋縄ではいかない。

 の透先眼は過去視が出来るので、うまく使えば術の種類や印が過去の行動で全てわかるの
だが、の過去視はまだ早送りできない。

 過去を見ようとすればそれと同じだけ時間がかかるのだ。

 同じ術を何度も使ってくれたり前に見ている場合は別だが、実戦にはまだ使用できそうにない。


 それ以外は遠くを見るだけで、模擬戦というすでに相手を追跡する必要のない戦いでは結局のところ
有効的な手段になり得なかった。




「実力不足でございますー。」





 は困ったように笑いながら幸せそうに鮭をほおばる。




「そうか、」




 何に呆れたのか、サスケは息を吐いた。

 意外性ナンバーワンのナルトと、潜在能力はナンバーワンの


 イタチにどこまで食いつけるのか。

 見応えのある試合のように思えるが、結局ところ今の自分たちでは上忍レベルにはなかなか太刀打ち
できないだろう。





「ひとまず、絶対あてるってばよ!な、!」




 ナルトは相変わらずのガッツだ。

 もつられて頷くが、その気持ちに嘘はなかった。

 頑張りたいと思っているのは、一緒だ。




「うん。頑張る。」




 無理かも、とかそう言う後ろ向きなことは、考えない。

 自分に何が出来るか、少しずつ考えていこうと思う。




「それにしても、大変よねぇ。イタチさんも、斎さんも。この間火影の部屋に行ったら、2人で必死で
仕事してたわ。」




 先日サクラが報告書を出しに行った時、2人は執務中だった。

 日頃斎はのんびりしているが、その時は考えられないほど真剣な目で政務にあたっていた。




「…結局、斎さんが火影になるの?」




 サクラは素朴な疑問をに尋ねる。




「ならないよ。」




 は即答した。





「え、」

「は?打診はあったんだろう?」




 ナルトとサスケも目を見開いてぽかんと口を開く。

 現在の里で手練れと言えば斎だ。

 まだ30歳と若くはあるが、自来也の弟子であり、4代目が亡くなってからも長らく候補者にあげられ
ていた。

 元は名家であった蒼一族の出身であり、炎やうちは、日向などとも仲が良く、あの性格ならば上層部
ともうまく渡っていくだろう。


 当然のことのように斎が火影になると思っていたナルトとサスケは顔を見合わせる。





「ないない、父上様は絶対にないよ。それが4代目火影との約束なんだって。」





 は手を振って2人に笑う。

 斎が4代目火影と仲が良かったことは周知の事実だ。 

 年齢は10歳近く離れていたそうだが、兄弟弟子で、幼い頃から自来也の弟子だった斎を構い倒し
ていたそうだ。




「なんか、5年ごとくらいに打診を受けてたらしいんだけど、最初はわたしが赤ちゃんで手がかかった
から嫌。で、次はイタチが弟子になったばかりで手がかかるから嫌。」

「…理由が、ちっこい気がするってばよ。」

「そうかもね。で、今回は大きいこと考えるの苦手だし、4代目と自分は下から子供達を守るから嫌だ
って。」




 教育者として、定評のある斎は、暗部や様様な場所で弟子を育てていた。

 今は特定の弟子はいないが、弟子達の動向は常に見ているし、無茶をしているようならうまく止めて
いる。

 上に立って上から弟子を見るのではなく、縁の下の力持ちでいることが、斎の性に合っていると言う
ことらしい。

 一回目と二回目の断った理由が、彼らしい。

 本当に彼は目の前の大事な物を守ることが大切なのだ。





「いろんな考えがあるんだなぁ。」




 火影になりたいナルトは、斎の考えが少し理解できないようだが、そう結論づけた。





「うん。でも、わたしそんな父上様が大好き。」




 身近な存在であってくれる方が、は嬉しい。


 火影はなんだか遠い気がする。

 真剣な顔をしている父も好きだが、だれだれと寝ぼけながらイタチと喧嘩をしている姿がもっと好きだ。

 父がいるー、という感じがする。




「そう、か。」




 サスケは煮え切らない様子で頷く。

 一応理論はわかるが受け入れがたい。

 表情がそう言っている。


 はそんなサスケを横目で見ながら、小首を傾げた。






( 何かが煙をあげること 水面下で浮き上がる何か )