が綱手の弟子になるという話は、あっという間に里中に知れ渡った。

 のように医療忍者としてではない弟子を綱手が持つことはほとんどない。

 そのため、家柄故だとする批判や、中忍昇進を蹴ったの隠された技量を問う者もいた。


 だが、当のはそう言ったやっかみや僻みをよくわかっていないのか、首を傾げるだけだ。




「朝は修行につきあってもらって、昼からは7班として通常任務に出ることになったの。」




 綱手は火影で忙しい。

 にばかり関わっているわけにもいかないからと言うことなのだろう。


 楽しそうに言っているの頬と首には大きな湿布が貼られている。

 綱手との修行でが避け損なったらしい。

 痛々しいほど大きな湿布だったが、綱手に手当をしてもらって大きさの割に痛くはないらしい。




「本当に痛くないの?」

「大丈夫大丈夫、」





 心配するサクラに手を振って笑うの表情は、明るかった。

 ナルトもナルトで自来也とともに帰ってきたと思ったら、傷だらけだった。

 大蛇丸と会ったらしく、額あてで隠れる位置に大きな傷がある。

 とサクラは2人で手を繋いで、階段を上っていく。


 サスケは2人の様子を見て、ため息をついた。


 これから七班は任務をもらいに行く。

 カカシがいないとはいえ、里は未曾有の人員不足で、火影が帰ってきた今、任務の振り分けを終え、
出来る任務を下忍に回すことになったのだ。

 中忍以上の隊長がいないので重要任務に出ることは出来ないまでも、簡単な任務は単独で行わせるこ
とに形が変わった。

 だから今から、火影のところに任務をもらいに行くのだ。




「あ、、やぁ。」




 火影の部屋に入ると火影の執務机に半分もたれた斎が笑って迎える。

 は父親に目を輝かせる。


 火影の椅子の方には、金髪の女性が偉そうに椅子に腰掛けていた。

 サスケは初めて見る5代目火影に眉を寄せる。

 見事なプロポーションに美貌。若い、年齢だけならば30代前半か、20代後半に見える。




「綱手のばっちゃん、任務くれってばよー。」




 明るくナルトが言うと、綱手は嫌そうに眉を寄せた。




「おまえ、そのばっちゃんって言うのをやめんか。」

「だってもう…」




 ナルトが年齢を口に出そうとすると、途端綱手は自分の靴をナルトに投げつけた。




「黙らんか!」




 柳眉を逆立てて怒って、それから七班の面々と書類を見比べた。




「…ナルトに、アカデミーでの男女トップのうちはサスケと春野サクラ…か、」




 七班は、本来ならば能力的に高い者ばかりが集められた。

 ナルトとは里内で有数のチャクラの持ち主、うちはサスケと春野サクラはアカデミーでの男女の首
席である。




「将来有望でしょう?」




 斎が尋ねると、綱手も頷く。

 確かに、おそらく同期の中では将来有望な者が集められ、カカシという優秀な師を与えられた班だ。




「あぁ、そうだな。頼りにしてるさ。」





 綱手は椅子の背もたれに凭れて悠然と微笑む。




「明日から任務に出てもらう。内容は斎から、」

「はーい。を引きつれての結界の破壊任務になるよー。Cランクだからランクはそこそこかな。」




 斎は綱手に促されて書類を見ながら無駄に明るい声で言う。

 Cランクは上忍である彼にとっては“そこそこ”かもしれないが、下忍である達にとってはそこそこ
どころかかなりの高ランクだ。

 ナルトは爛々と目を輝かせ、は不安そうに俯く。




「内容としましてはー、前にイタチと行ってもらった感じー?」

「感じってなんだ、感じって言うのは」

「要するに−、上忍達の重要任務の援護?とはいっても一応押さえみたいなもんだから、気楽にね。
に結界を破壊してもらうと言う奴。総合指揮官は僕だけど、班ごとで分かれて頑張ってもらうから」




 綱手の突っ込みを軽くスルーして斎は言う。

 要するに上忍が行う重要任務の一部を担うと言うことだ。

 の白炎は他人のチャクラを焼く性質を持つ。

 普通の忍では破れない結界などを破る力があるため、を必要とする任務は多数存在するのだ。




「武器庫の媒介だし、上忍が襲撃してからだから、気軽なものだけどね。今回は残念ながら人員不足の
ため、班に暗部はつきません。僕も一緒だけど、君たちのすることの手助けは行えません」




 明日の夜に草隠れの里の砦を急襲する。

 指揮官は斎で、狙いは草隠れが匿っているテロリストのハザマとその一派の殺害である。

 達は直接殺害に関わるわけではないが、武器庫の破壊のために武器庫の結界をとき、破壊すること
が求められる。

 前回の結界破壊任務はイタチもついてきたが、今回はイタチも任務中、暗部も忙しくて到底ついてこ
られる状態ではない。

 本当ならば手練れを1人でもつけた方がの身のためではあるのだが、そこはと班の実力を信頼する
形になった。




「本当はのチャクラコントロールが若干心配なところではあるんだけどぉー、」




 斎は顎に手を当てて悩むそぶりを見せる。


 懸念は、当然のものだった。

 ナルトはチャクラが多くてもその上から封印がかけられており、簡単に漏れ出したりしないし、うま
く引き出せば自分の必要な分だけを封印から出すことが出来る。

 しかしはチャクラを自分のものとして保有しており、巨大なチャクラの安定も難しければ使用も鍛
錬がいる。

 感情によってチャクラを暴走させることは、イタチが半分肩代わりをした後も何度かあった。




「朝の修行でもきちんと出来たはずだ。うちはイタチがおらずとも問題有るまい。」




 綱手は信頼のまなざしをに向ける。




「はい。綱手先生、」





 は紺色の瞳を丸くしたが、表情をただし、神妙な顔つきで頷いた。





「まったく、おまえも過保護でいかん。うちはイタチもだ。は忍だぞ。」





 のしっかりした任務への意思表示を受けて、綱手はため息をついて手をひらひらとさせる。

 を班と共に任務に出すと言った時のイタチの顔と言ったら、なかった。

 彼はいったいをどのように考えているのか疑問に思うほどだ。


 は、忍だ。生死にも触れる。


 なのにうちはイタチも斎ですら、それを当然のことだと考えていないような口ぶりで反対した。

 が幼く病弱で純粋に育ったのはわかるが、忍として志した限りは、超えていかねばならない壁もあ
る。

 そう言う点では蒼雪も同じくに対して過保護だった。

 斎は少し考えるそぶりをしたが、何も言わずに肩をすくめる。

 斎とて自覚がないわけではなかった。娘に甘いと言うことが。




「小隊長は、の予定だ。明日の夕刻5時。良いな。」




 綱手ははっきりと4人に告げる。

 サクラとナルトはが班長だという意見に頷いたが、サスケは首を傾げた。




が、小隊長なのか?」




 素朴な疑問だった。

 常ならば火影の決定に従っただろうが、綱手をまだ火影と認められていないサスケだからこそぽろり
と口から出たのだろう。




「うん。今回はね。」




 斎は軽い調子でサスケに言う。

 別にの小隊長選定に、深い意味はなかった。 


 サクラとナルトはまず除外された。

 サクラは決め手となる術を持っていないため援護、ナルトは理性的ではない部分があるので現状では
安定性に欠けると判断されたのだ。


 と、サスケはどちらでも良かった。

 ただ今回はは忍であるため語弊が存在するが、の護衛である。

 最終的に結界を破壊できるのはだけで、誰でもなく、が死なないことが重要であり、を失った
らそこで任務失敗だ。

 は透先眼も持っているので遠距離を見渡せるし、が自分の身を守るために自分の力量の足りない
部分のところに班員を配置すればそれで事足りる。

 そして何よりも綱手の支持が大きかった。

 の気弱は自信がない故だ。

 を小隊長にすえ、積極的に任務に関わらせることで、彼女の自信にしようとしたのだ。




「説明もなしに、が小隊長なのは、わからない。」




 サスケは自分の意見をはっきりと口に出す。

 は彼の反応に驚いたが、当然のことと受け取ったのだろう。

 僅かに俯き、目を伏せてしまう。

 綱手は疎ましげに舌打ちをして何か言おうと口を開いたが、斎が目で制す。

 斎は彼の視線を真っ向から受けて、ふっと笑む。




「ん?透先眼を持っているから。全体を把握することが出来るはずだよ。」

「透先眼の情報をから聞いても判断は出来る。」




 サスケは斎の言うことに反論する。

 的を得た反論ではあるが、聡い斎はそこにサスケの違う部分を見いだしていた。




「で、君は誰が相応しいと思ってるの?」




 静かな問いに、ふと沈黙がおりる。

 当然だが、何も考えていなかったであろうサスケは言葉に詰まる。

 が小隊長になることは不満だった。


 だが、誰がと問われればその答えは簡単だ。

 サスケはナルトを認めていないし、サクラを相応しいとも考えていない。


 自分が相応しいと主張するつもりはなくても、間接的にそうなってしまうことすら、サスケは気付いていなかった。

 ただ、への焦燥故に、口に出しただけ。

 サスケは言葉を失う。




「…・」

「あぁ、ごめん。…そこまで考えていなかったみたいだね。悪い、今のなし。」




 黙り込んでしまった面々に、斎はへらりと笑って肩をすくめる。

 本質をつくことのうまい彼にとっては、サスケの本心など一発でわかる。

 その上、斎とサスケは幼い頃からのつきあいだ。

 どこに本心があるかは簡単にわかっているから、サスケがそこまで頭が回らなかったことはすぐに理
解できた。




「ま、ひとまず今回はが隊長ってことだよ。そこに深い原因はない。たまたーま!」



 斎は人差し指を軽く振って、言う。




「別にどうせ誰か決めないといけないし?適当にくじで引いたんだけど。だめだった?」




 疑うこともあほらしくなるほど、あっけらかんとした意見に、ナルトやサクラは思わずため息をつい
た。

 どちらでも良いからと言って話し合いもせず、くじ引きで決めるなど論外だ。

 あまりの言い方にサスケもぽかんとして反論を忘れる。


 だが、は1人小首を傾げる。

 綱手は何も言わず腕を組んだまま、背もたれにもたれかかっていた。

 

 

 







( ひとを正しいと思うこと 誰かをみとめること )