白い蝶が発光して、鱗粉を巻き上げる。
の血継限界である白炎の結晶である蝶はを守るという役目を担っている。
他者から攻撃を受けた時、自動防御を行う。
「どう、して?」
は呆然とした面持ちで、目の前の少年を見つめた。
蝶が熱量によって起こった風で砂埃を払っていく。
ぼやけた視界がはっきりとしていけば、そこに立つ少年はでも分かるほどはっきり舌打ちをした。
は無傷だった。
千鳥を受けても全くの無傷だった。
が防御を命じたのではなく、ただの血継限界が、自動的にサスケの攻撃を防御した。
蝶が白い鱗粉をまき散らして、とサスケの間に立つ。
何が起こったか分からず、は胸の前で手を握りしめる。
「さ、すけ?」
自分を殺気の混ざった瞳で睨み付けてくる彼は、自分の知っているサスケなのだろうか。
はそう思わざる得なかった。
攻撃的に歪んだ瞳と心の中にある憤りが、まっすぐこちらに向けられている。
そのことを感じて、は一歩後ずさる。
「どうして、」
ふるりと首を振る。
自分が攻撃されたという事実を、信じたくない。
サスケが何をしたいのか分からない。
たくさんのどうしてがの心を支配する。
「オレと、戦え、」
サスケは、を睨み付けて言い放った。
「なんで、」
には到底受け入れがたい言葉。
「どうしてそんなことをしなくちゃいけないの?」
どうしていいかわからず、が尋ねると、サスケは追い詰められた表情で言った。
「オレが、おまえよりも優れていると、強いと証明するためだ。」
綱手や斎は、を小隊長に相応しいと思った。
サスケの父であるフガクもを認めている。
今まで努力し、頑張ってきたサスケよりもの方が優れていると判断したのだ。
その判断を覆すためには、よりも優れていることを証明しなくてはならない。
戦って優劣を決めるのが一番早い。
「嫌だ。嫌だよ。」
はサスケのはっきりとした答えに、拒絶する。
「どうして、戦う必要があるの?」
自分と彼は、里の同じ仲間だったはずだ。
そして幼馴染みで、幼い頃から知っている。
サスケと自分が戦わなくてはいけない理由なんてないはずだ。
「なんの意味があるの?」
は紺色の瞳に涙を溜めて、後ずさる。
「オレたちは忍だ!、忍の強さは、戦って相手を倒せてこその強さだ。」
サスケはに一歩詰め寄る。
は一歩下がる。
「強くないと、認められないんだ。」
サスケのその声は、あまりにも厳しく、彼の立場がにじんでいた。
認められたいという感情がありありと浮かぶ。
「そんなことない!」
は首を振って叫んだ。
「人を傷つける強さで、認められるなんて、そんなの違うよ!」
戦いは誰かを傷つける物だ。
強さは誰かを守るためにある物だ。
誰かに認められるために、誰かを倒して、傷つけて、それで強さが認められるなんて、酷すぎる。
誰かを踏みつけて、それが良い事なんて、あり得ない。
「誰かを傷つけるための強さなんて、」
いらない、はサスケを睨み付ける。
「じゃあなんでオレは認められないんだ!おまえより、弱いからだろ。」
サスケはの言葉に表情を歪めた。
里にも、上層部にも、そして、ナルトやサクラにも、サスケは認められていない。
少なくとも小隊長にを相応しいと彼らは思ったのだ。
サスケではない。を。
「そんなことない!みんな、サスケを…!」
は首を振って、悲鳴のように叫ぶ。
小隊長との決定は上層部に言われたことで、彼らはそれに従っただけだ。
相応しいと思っているかどうかは、また別の話。
ナルトは文句を言うけれども、誰よりもサスケを認めている。
サクラだってだってそうだ。
「わたしは、人を傷つけることで認められる強さなんて、いらない!!」
は守りたいと思った。
自分を守り、そしていつか他人を守りたいと思った。
それによって認められたいと思った。
貴方だって、そうでしょう?
焦燥に揺れるサスケの心にはの言外の叫びは届かない。
あるのは、そこにある、は認められたと言う事実だけ。
「おまえは、認められることを必要としてない。」
サスケは静かにぽつりと言った。
「いつもおまえは誰かに認められてる。無条件で愛される。」
ははっとしてぎゅっと拳を握りしめる。
ただそこにいるだけで愛されている。
病弱で外に出なかったが当たり前のように甘受していたことで、当たり前ではなかったこと。
一族の人間は皆、の存在そのものを喜ぶ。
病弱で役に立たない東宮だ。
それでも、彼らは無条件にを慕う。
両親だってそうだ。
斎も蒼雪も、が何も出来なくても、愛していくれる。
が求めなくても、心から大切にしてくれる。
「オレはこんなに、認められることを必要としてる。努力だってしてる。」
サスケはくしゃりと泣きそうに表情を歪める。
認められたいのに、兄より優れていないから、より劣っているからと、認められない。
と違って、こんなにも求めている。
認められるように、努力もしている。
「なのに、なんでおまえは認められる。オレは認められない!」
叫びは、血を吐くようだった。
努力している自分が認められなくて、何も望んでいないが認められる理由を探していた。
境遇と片付けてしまうには、あまりにも悲しいから。
境遇と言ってしまえば、変えようがないから。
「おまえがオレよりも強いから、里にも、父さんにも認められるんだろう。」
理由を探していた。
そう思わないと、本当に諦めてしまうことになるから。
「だから、イタチにだって大切にされるんだろ。」
は涙が頬を滑り落ちるのを感じた。
否定する事なんて、出来ない。
否定すれば彼の今までの努力も、思いも、全部壊してしまう。
視界がぼやけていく。
涙と悲しみが視界をぼやけさせて、サスケの輪郭が朧気になる。
黒髪のシルエットが、風にまぎれて、誰なのかすら区別がつかなくなる。
「オレはおまえより強い。だから、それを、証明するために、」
声は、もう泣いているようにしか聞こえなかった。
サスケは泣いていない。
泣いているのはだ。
風がすべてを攫っていく。
その風は、の届かないところに去っていくのかも知れない。
すらも、攫っていくのかも知れない。
「だったとしても、」
は握りしめていた拳をとく。
「わたしは、傷つける強さなんて、いらない。」
手を伸ばして自分の蝶を人差し指に止まらせる。
明るい鱗粉を飛ばす蝶。
それはの力の源。
サスケは満足したように、千鳥を構える。
は涙を溜めた瞳のままに、静かな笑みを浮かべた。
値
( 自分の価値 ひとから得られる評価 )