は三日後、やる気もなく綱手との修行に出て、当然だがまったくなんの成果も得られぬままに敗北した。
「何やってんだい!」
綱手が吹き飛ばされたに呆れたように言う。
手加減はしているとはいえチャクラの使い方のうまい綱手だ。簡単に吹っ飛ばされたは、岩に背中を打ち付けることになった。
「いたたたた、」
は自分の手に出来た擦り傷を見て、ため息をつく。またイタチに心配される。
「おまえ頭ん中で何考えてるんだい?!」
「ご、ごめんなさい。」
考え事をしていたのはバレバレだったらしい、忙しい中修行の相手までしてもらっているのに申し訳ないと項垂れれば、ぽんと頭を撫でられた。
「今日は修行はやめだやめ。」
「あ、でも…」
「身が入らない修行はやるだけ無駄だ。来い。」
綱手はの手を引く。
綱手とて忙しいのに、を構ってくれたのだ。先日サスケのことがあったとはいえ、それは言い訳にはならない。失礼だっただろうとは綱手の手を握りながら、顔が上げられなかった。
修行場にしている森の近くには、宿屋や商店が建ち並ぶ一角がある。綱手は問答無用での手を引いたまま、一件の団子屋に入った。
「よし、店主。2つ三色団子をくれ。」
綱手は奥の席に座って、茶が出されると同時に三色団子を頼んだ。
はどういった状況に置かれているのかよくわからず、首を傾げる。すると綱手は怒ることもなくからりと明るく笑った。
「ま、おまえとは修行ばかりでゆっくり話していなかったからな。」
「え、え、あ、はい…。」
綱手と顔を向き合わせる機会はあったが、修行ばかりしていて、確かに真面目に話す機会はなかった。ふわんと柔らかな湯気がお茶からはたっていた。はそれに綱手の顔をぼかす。
「こんにちは、2本ずつ、だ。サービスしときますぜ。」
店主が綱手への挨拶と共に三色団子を持ってくる。白髪の店主を、もよく知っていた。イタチが好きで病気で屋敷にいた頃も買ってきてくれていたし、が元気になってからは二人で訪れることも多かった。
「姫、今日はお父さんやイタチ君と一緒じゃないのかい?」
は大抵イタチや父とこの団子屋に訪れることが多かった。だから火影と来たことに驚いているのだろう。
「はい。最近父上様やイタチは忙しいんで。」
「そうか、そりゃ寂しいな。」
店主はを宥めるように言って、「後で団子を一個おまけしよう」と笑って厨房へと戻っていった。
「よく来るのか?」
「はい。イタチと。イタチ、ここの三色団子が好きだから。」
彼は何かと甘いものが好きだ。だが、それは綱手にとっては意外だったのだろう。
「まじか?あの渋い顔で三色団子か?」
「え?イタチ、父上様とよく甘味の食べ歩きしてますよ?」
斎はとても甘いものが好きだ。イタチも甘いものが好きで、性格が全く違う師弟だが、甘い物好きという点では一致しており、二人仲良く甘味屋散策に行っている。最近はそれにもついて行くことになったが、昔は二人だけで行っていた。
『斎先生と行くと、何故だか違和感がないんだ。』
イタチが昔ぽつりと零したことがある。
童顔で何故かもう三十路のはずなのに子供っぽい斎は、甘味屋にも溶け込めるらしい。誰も男二人が甘味屋で黙々とパフェを食べていても、斎がいると気にしないと言っていた。
「ふたりそろって 甘味か、まさかな接点だったな。」
綱手はげらげらと笑って、机を叩く。はそんなに笑うことかと首を傾げたが、ミスマッチの師弟の接点が、まさか甘味だとは誰も思いはしない。
綱手は一通り笑い終わってから、の方に向き直った。
「サスケのことは、聞いた。斎からだ。」
強い彼女の言葉に、は俯く。あの後、サスケを病院に連れて行ったのは、斎だったから、当然だろう。里の任務も一時停止されるので、サスケの怪我が火影に伝わるのは当然だ。
「サスケはしばらくチャクラを押さえる、と言うことになった。」
「え?」
は目を丸くして綱手を見る。そもそもサスケは自宅謹慎の身だった。その上にイタチと喧嘩をして、怪我を負ったのだ。私闘は基本的には禁止されている。罰則は当然のことだった。
「イタチの方も、3日自宅謹慎だ。理由は公示せん。」
罰則に理由が公示されないことは多い。特に忍びの場合は罰を受ける内容が任務に関わることがあるため、よほどのことでない限りは公示されないのだ。それは忍を守るためにもある。
「イタチの方は、周りは明らかに仕事のしすぎの休みだと思うだろう。そちらは気にするな。」
イタチは昇進したばかりだ。彼の名声に傷がつくようなことがあれば、彼を推薦した斎にも関わる。上層部と争っている立場にある綱手にとって、上層部と上手に渡り合う斎の存在は欠かすことが出来ない。イタチへの処分は必要だったが、表向きには誰もがただの休暇のように思うだろう。
わざと、綱手もそれを狙った。それにイタチはを守ろうとしての正当防衛だ。反省はしてほしいしやり過ぎだと綱手も考えてはいるが、を守ろうとしたという大義名分がある限り、強く責めることは出来ない。
「だからこの際イタチは置いておいて。」
綱手は右から左へと持ってくるジェスチャーをしてから、机に肘をつく。
「おまえは、サスケをどう思っとる。」
「どうって?」
「おまえは、サスケに攻撃されたんだろう?何故だったのか、私はおまえの口から聞きたい。」
綱手の質問は直球だった。は俯いた。
これは話しても良いことだろうか、と考える。イタチや、サスケの気持ちだってある。斎だって多分事態の処理にいろいろと苦労したことだろう。真相をここで彼女に話して良いのだろうかと、は戸惑いを覚えた。
「…ここでの話は、誰にも言わん。ただ、私は弟子であるおまえの口から聞きたい。」
「でも…」
「おまえはなかなか辛いことは話さないと、うちはイタチがのたもうとった。」
「え?イタチが?」
「あぁ、厳しいことを言って泣かせてはき出させないと、なかなか話さないから、ストレスをためてないかと心配しておった。」
綱手もの師になると言うことで、斎と違って真面目ながどういった人物なのか、他人から見た目を知ろうと思い、何人かに聞いた。大半の忍から高評価をえているだったが、イタチはまた個人的な目線からであるため、綱手としては非常に面白かった。
彼はの恋人であり、幼なじみでもあり、一番身近にいた存在だ。しかし親族ではなく、他人である。
長年培った勘からか、イタチはの扱いがうまい。また本音を引き出すのは親である斎たちよりもうまいと言う。そして綱手は斎からの火影業務の引き継ぎの際、引継業務をサボった斎に代わって彼の副官代わりをつとめていたイタチと仕事をすることになった。そのため、雑談の機会も仕事の合間にとることが出来ていた。
「おまえは私の弟子だ。おまえがどう感じたのか、真面目なおまえが修行に身が入らないほど悩んでいることを、聞きたいと思ってる。」
「…でも、その、とてもつまらない、ことだから…」
は俯いて口を噤んだ。
父も母も忙しかったため、はどうしても自分のことは自分でと思ってしまう。イタチは良く話を聞いてくれるが、やはり自分の悩みという些細なもので誰かを煩わすのも気が引けたし、何よりそれが“言いたいだけ”の代物で、自分でどうにかせねばならないと言うことも理解していた。
「つまらないことでも良いさ。おまえを知っておきたい。」
自分の弟子だから、と綱手はの頭を撫でる。優しい手に促されるようには顔を上げて綱手を見た。綱手の言葉が酷く心に響いて、背中を押された気がした。
背
( じぶんのうしろ )