は数日後には綱手に話を聞いてもらってすっきりしたため、あっさりと七班の任務や修行に戻った。

 代わりにイタチは3日間謹慎だとかで、炎一族邸にいることになっていた。

 そのため、サクラ、ナルトはの家に集まり、カカシが任務でいないため、イタチに修行をつけてもらうことになった。




「つ、強すぎる…・」




 サクラはぜいぜいと荒い息を吐きながら地面に突っ伏す。



「…うぅ、わたしももうダウン・・。」




 は庭のこけだらけの岩にぐったりともたれる。

 炎一族邸の南対屋跡地は修行も出来るほどに広い。庭には船が浮かべられるほどに広大な池もあるので、修行場にはもってこいだ。だが我が家だと言うことが勝敗に関係するはずもなく、当然三人ともイタチ一人に全く歯が立たず、修行を初めて20分で体力は尽きた。




「強すぎだってばよ…」




 最後にタフにがんばっていたナルトが突っ伏して、結局30分で全員がダウンすることとなった。




「まぁ、よくがんばった方じゃないか?」




 イタチは口元に手を当てて苦笑して、欄干に腰を下ろし、近くにあったドリンクをたちに向けて放り投げる。

 ナルトは疲れのせいかそれすらも受け損なって、大きく息を吐いた。




「あー!強すぎだってばよー!!」

「そんなに簡単に追いつかれちゃ、こっちも困るさ。」




 ナルトの悪態にイタチは笑って、次はタオルをナルトに放り投げた。池にはまった彼は水浸しだ。寒い季節ではないが、気をつけるに越したことはない。




「でも全然手応えが無いんだもん。」




 は水を飲みながらため息をついた。




「最初はそんなものだ。」




 イタチは欄干から降りて、の方へと歩み寄る。そしてずれたの髪留めを外して、櫛での髪を梳き始めた。




「俺も最初斎先生に相手をしてもらっていた頃はまったく勝てる気がしなかったさ。」




 懐かしそうに目を細め、「だって見てただろ?」とイタチは笑う。

 確かにはイタチの修行をよく端近から見ていた。いつも負けていたのは事実で、なんとなくイタチの言っている意味も分かるような気がした。




「イタチの兄ちゃんも、そんな時期があったのか?」

「当たり前だ。本当に今でも何で勝てないのか信じられない。」




 少し剣呑な色を宿しながら、ナルトにイタチは返した。





「そう言えば半年前に本気でやってたもんね。」




 は思い出してイタチを見上げる。

 本気でイタチと斎がぶつかり合えば、今は大事だ。二人とも今や里有数の忍で、場所も、任務などの関わり合いから、時間も選ばなければならない。昔のように簡単に修行で、なんてことは出来ない立場になっていた。

 だから、ここ2年ほどは、1年に一度程度でしか、本気のぶつかり合いはしていない。

 前回は半年ほど前で、イタチは奥の手である術が完全に防がれたらしく、酷く悔しがっていたのを覚えている。




「へぇ、今でも斎さんの方が、強いんですか?」




 サクラは首を傾げると、不本意そうにイタチは頷いた。




「そうだな。…あの見た目で、滅茶苦茶強い。」




 斎は童顔で、背はひょろっと高く、子供っぽい動作が目立つ。日頃はただの人の良いお兄さんと言った感じだが、あがめ奉る人も多い。

 それは彼が予言の力を持つだけでなく、強いからだ。

 火影候補は伊達ではないし、もともと蒼一族の最終血統であり、一族特有の術も持ち合わせている。隠し種があるのは皆同じだが、その量が斎はこちらが泣きそうなほどに多い。弟子で一緒にしょっちゅう任務に出ているはずのイタチですら、さっぱり知らない術を今でもばさばさと繰り出してくる。





「最近やっと、底が見えてきたと、思ったんだが…、」




 イタチはの髪を梳いていたが、悔しさを思い出したのだろう。の肩に後ろから自分の額を置く。




「駄目だったの?」

「あぁ、多分気のせいだった。」




 相変わらずイタチにとって、斎は超えられない壁らしい。




「ってことは、イタチの兄ちゃんに追いつくには後5年かかるってことかー、長いってばよ。」

「そして斎さんには10年かかるのかな?はぁ…長いわね。」




 ナルトとサクラは自分たちとイタチや斎の年齢を計算しながらため息をつかざるえなかった。




「今、先生は里で一番強い忍とも言われてるからな。仕方ないさ。」





 自分に言い聞かせるようにイタチは言って、の肩から顔を上げる。




「だから、まぁアカデミーを出たばかりのひよっ子が焦っても仕方がないってことだ。努力は必要だし、焦ることも時には力だが、すぐに敵うなんて思わないことだ。」





 皆積み重ねてきた年月、術、努力がある。それをたった数ヶ月、数年で追い抜こうなんて不可能だ。焦っても構わないが、結局積み重ねなければならない。




「イタチも焦って父上様に叱られてたもんね。」

、」





 がころりと笑って暴露すれば、イタチはコツンとの頭を軽く叩く。

 イタチも斎に昔は焦っても出来ない時は出来ないとよく叱られていた。それでも急ぐのが若いと言うことなのだろう。

 どうしてもアカデミーから出れば大人の力が見える。大人の世界が見える。それが焦燥の原因になる。でも結局は早道なんてなくて、皆同じように努力していかなければならないのだ。


 通る道は、皆同じ。





「でも、カカシ先生からのこと聞いた時はびっくりしたわ。体が弱かったとは知ってたけど、まさかチャクラが多すぎてはだめなんて。」






 サクラは幼なじみ同士であるイタチとのじゃれあいを見ながら、うんと一つのびをする。





「確かに、チャクラって多い方が良いイメージあるもんな。」





 ナルトもサクラに同意する。

 一般的にチャクラの量はある意味で忍びの才能を意味する。チャクラは一定の年齢を超えると成長が止まるため、それまでにどれほどのチャクラを成長させる努力をするかは大きな課題だ。そのため生まれ持ったチャクラが大きいことは忍びとしての利点とも言えた。

 だが、の状態を聞くと、の体は弱く、自分の持つチャクラにすら耐えられないなど、チャクラが多いということは必ずしもよく働くわけではなかった。





「物事は一長一短ってことさ。」





 イタチはの髪の毛をもう一度梳き、まとめなおしてわらう。




「でもイタチの兄ちゃんだって危なかったわけだろ?」




 カカシの話では、のチャクラを肩代わりしたイタチだが、もし仮にそれが失敗すればイタチも死んでいたという。彼のに対する思いの深さはよく知っているが、それでも死というのは恐ろしいものだ。




「それも一長一短だ。」




 ナルトの疑問に何も考えることなくイタチははっきりと言った。




「確かに危なかったのかも知れないが、はこうして今生きてる。俺ものチャクラを肩代わりしたことによってのチャクラを間接的に使える。要するにの力を使えるってことだ。」




 ハイリスク、ハイリターンだ。

 イタチはのチャクラを肩代わりする際に、と生きるか、と共に死ぬかということしか考えていなかった。正直、どちらでも良かった。だが結果的にたまたますべてがうまくいった。そしてイタチはのチャクラを使用できるという利点まで手に入れた。

 もちろんそれはやはり大きな危険の伴う行為だ。他人のチャクラを使用するのだから。だが、それによってイタチは大きな力も手に入れた。




「失う覚悟をするよりも、命をかける覚悟をする方が楽だったしな。」




 イタチは目を細めてに優しい眼差しを注ぐ。

 幼い頃からがいつか死ぬことは分かっていたけれど、覚悟なんて何年たっても出来なかった。代わりに、自分の命をかける覚悟をした。大切なものを守るために、自分の出来るすべてをかけると。


( 人と等しいこと )