うちはと炎の衝突と表向きにはそう見られていることは、うちは一族にとっては幸運だったかも知れない。実質的にはうちはと上層部との確執であることは明白であったたわけだ。しかし斎が不快感を示したという噂が瞬く間に広がったため、炎一族との仲が悪くなったと里では噂されていた。
「…耳に入れる必要はあらせん。扇宮はわらわの猶子じゃ。」
それはかわらん、とあっさりと言い切ったのはの祖母であり、炎一族におけるイタチの後見人である風雪御前だった。
「しかし、うちはイタチはうちは一族ですぞ。それに最近は頻繁に帰っているという噂」
「無駄ごとを耳に入れる必要はないと言うておる。それに、言うてしまえば、これはうちはの浅慮じゃ。」
風雪御前ははっきりと吐き捨てた。
と言うのも、斎は実質的にはあくまで炎一族宗主の配偶者であって、宗主ではない。その斎に叱責されたからと言って両一族会議を拒否したうちはの行動は非常に大人げないと言える。
「我らは宗主が揺るがぬ限り、なんら変わらぬのじゃ。」
風雪御前が言い切るから、皆は黙り込む。
それをぼんやりと横目で見ながら、は対屋を通り過ぎて自分の住まう東の対屋へと足を勧めた。
うちは一族と斎が仲違いをしたというのはどうやら随分と波紋を生んでいるらしい。それは幼いでもよく分かった。要するにイタチがうちはのスパイをしているんじゃないかとか、そういったことで疑われているのだ。
実際的にその可能性は高いと思われているらしい。
時々うちは一族に帰るイタチのことを、よく思っていないのだ。
だが、未だ宗主である蒼雪が健在である。ましてやまだ30歳代と若く、下手をすれば体の弱いよりも長く生きるだろう。元来炎一族の宗主の寿命は常より長い。
それ考えれば決定権が委譲されるのはまだまだ先の話で、いまイタチが何かしていたとしても蒼雪が健在である限りは問題なかった。
「…」
は嫌なことを聞いてしまったため、足早に祖母の対屋を逃げるように離れた。
「…イタチにとって、うちはは家族だもん。」
確かに、うちは一族とイタチを否定したいと思う人が、炎一族にいるのはわかる。炎一族の人間の多くはの一族内で婿を迎えてほしかった。その理由をとて少しは分かっているつもりだ。里での地位を求めるうちは一族と、大きいが故にのんびりゆったり細かいことを気にしない炎一族の家風は、多分相違が大きいのだろう。
だが、イタチにとってうちは一族は、家族だ。父母がいて、弟がいる。関わるなという方が酷だというものだ。
「わたしは、イタチが傍にいてくれるだけで、嬉しいもん。」
別にちょっとうちは一族に帰ったって良いじゃないか。どうして過敏になるのか、にはよく分からない。
イタチはイタチだ。
「それに喧嘩ぐらい。あるよ。」
は一族と一族と言うことがよく分からず、炎一族とうちは一族の仲違いを友達同士の喧嘩のように感じていた。その上、うちは一族が上層部に不満を持っているという根本的なことも、よく分かっていない。
そのため、
「ー!おっそおーい。」
サクラが腰に手を当てて、怒ったように廊下で立っている。
「ご、ごめんね。」
祖母の対屋で話を盗み聞きしていた間に、サクラたちがもう来ていたらしい。
今日は謹慎処分が終わったサスケ、ナルトも含めて、の家で忍術の本を読むと言うことになっていたのだ。の家には希少な忍術の本が沢山ある。カカシが忙しくて任務に出られないが、自分たちは自分たちで勉強だけはキチンとしようという試みである。
「たくさんあるんだな。」
が持ってきた本と、置いてある本を見て感心したようにサスケが言う。
「うん。」
は頷いて、近くに本を置く。
忍術大全など基本的なものから、サスケ達には到底読めないような昔の代物までたくさんある。当然秘術などはまた別に保管してあるだろうから、これはほんの一部だろう。
「難しいのはわからねぇってばよ。」
本など嫌いなナルトは本に癖壁したらしく、近くのクッションを引き寄せる。
「いろいろあるから、何でも良いよ。」
はナルトに返して、沢山の本を見つめた。中には母の一族である炎一族と、父の一族である蒼一族の本がある。秘術と言うほどのものではないが、簡単な記録が書かれていた。
「すごいね。」
サクラがの手元をのぞき込んで、言う。
「これっての一族のでしょ?」
「なに?」
サクラの言葉にサスケも興味があるのか、の手元の本を同じようにのぞき込む。
『蒼一族の暦年』と表紙には書かれている。既に蒼一族は確認されているだけで、斎としかいない。
蒼一族はその血継限界の保持のために元々近親婚を重ねており、出生率は落ちていたらしい。透先眼という遠目の能力を持つ蒼一族は大戦の折、当然引っ張りだこになった。同時にそれは10人足らずになっていた蒼一族を滅ぼすには十分だったそうだ。
ひとり、ひとりと死んでいき、斎と、そしてその娘であるだけになった。
そっと汚れた表紙を開けば、そこに書いてあったのは年代順の、蒼一族の歴史だ。生まれた年、能力、地位や功績、そして死んだ年。それが淡々と書かれている。
はそれを一枚一枚めくっていく。
「すごい!二代目火影の奥さんって、蒼一族の親戚だったんだ」
サクラが感心したように叫ぶ。
「うん。遠縁だったんだって。まぁ、透先眼使いは生まれなかったらしいけど。」
血継限界はすべての人間が持っているとは限らない。二代目火影の子供達に、その能力を持ったものはいなかったが、親戚には間違いがなかった。
順番にめくっていけば、に近い時代の者も出てくる。
「あ、」
蒼聖(ひじり)、蒼梢(こずえ)と書かれている文字を、は指でなぞる。
「誰?」
サクラがの表情の変化に尋ねる。
「うん。わたしの、おじいさまと、おばあさま。」
の父である斎の、両親である。蒼一族の例に漏れず近親婚をしており、兄妹だったと言う。
が生まれる前、斎が12歳の時の大戦時になくなっている。が、一度も会ったことのない祖父母だ。
「優しい人だったんだって。」
父が話すふたりは、愛情深く、すこしぼんやりとして、優しかったという。
「っておじいちゃんとおばちゃんに会ったことないの?」
「母上様の方のおじいさまとおばあさまは会ったよ?おばあさま健在だし。まぁ、おじいさまは覚えてないけどね。」
の母、蒼雪の父は炎一族宗主白縹だったが、が1,2歳の時に亡くなっている。そのため、あったとはいえ当然覚えてはいない。祖母は変わらず健在である。
「の家って、大きいくせに仲良いわよね」
「確かに。ヒナタんちとかどろどろなのにな。」
サクラの言葉にナルトが賛同する。
ヒナタとネジのように、親族同士のもめ事が多いのが大きな一族というものだ。だが、あまり炎一族においては、噂は聞かない。それにの両親もに対していつも愛情いっぱいだとわかる。
「かな?わたし一人っ子だし?」
もめる人がいない。と言うのも事実だった。
宗家が絶対的で能力も違うため、そして自身も一人っ子であるため、競争相手がそもそもいないのだ。宗家のそもそもの能力の違いが、絶対的な格差を生み出し、逆に競争を生まない。
そのシステムの意味をはまだよく分かっていなかった。
図
( 思い描かれるシステム )