店のメニューに並ぶのは沢山の団子だ。

 団子だが種類が沢山あり、どうしても迷ってしまうところだ。はそれを睨み付けて10分以上たっているが、未だに決められない。




「うちは一族と、炎一族の不和ねぇ。」




 いのは団子の櫛をかじりながら言う。




「まだ決まらないの?ちゃん。」




 ヒナタがの手元を隣からのぞき込む。




「ちょっとー。遅いわよ。流石に。」





 サクラは呆れた様子を見せて自分の手元の団子を食べ終わる。サクラやいのが二枚目の皿に手を出そうというのに、は未だに最初の一枚を決められていなかった。




「だって、いっぱいあるし、それに、あんまりわたしいっぱい食べられないから。お汁粉食べたいし、」




 小食のである。

 お汁粉と2本入りの皿を一枚頼んでしまえば、それでお腹いっぱいで次が食べられない。なので、一枚目が重要なのだ。




「じゃあ、ちゃん。私と一緒に頼もう。一本ずつ。」




 ヒナタが二枚目を頼むために妥協案を出す。




「え、いいの?」

「良いよ。もちろん。」

「じゃあお願い。」




 決めかねていたはあっさりとヒナタの提案を受けいれ、お汁粉と三色団子、安倍川餅のような醤油の塗られた団子を一皿ずつそれぞれ頼んだ。




、甘いもの本当に好きよね。」




 サクラが呆れたように言う。

 と同じ班になってから下忍になり給料も入るようになったこともあってよく共に出かけるようになった。は総じて小食だが、そのためか、食事そっちのけで甘いものだけを食べることが良くあった。




「うん。好きだよ。でも、わたしよりイタチとか、父上様のほうが絶対好きだよ。」





 はそう反論した。









「斎様よね?」






 いのは確認するように言う。イメージに合わなかったのだろう。

 木の葉の里にいるものなら、斎の噂は誰でも畏怖と敬愛の念と共に聞いている。かといって性格を知るはずもなく、すごい人なんだろうなと想像だけの存在だったりする。そのため、サクラは頻繁にの家に行くようになり、斎を見てからイメージが崩れた。




「本当に、の父さんって、子供っぽいわよね。」

「ね。」




 もサクラに賛同する。

 イタチにたたき起こされながらも、あと五分とうんうん言っている斎の姿は、どう見ても子供と変わらない。むしろ娘のの方が聞き分けが良い。




「でも、その斎様、うちは一族を公に叱責したって…。」




 ヒナタが申し訳なさそうにに話を振る。どうしても気になったのだろう。




「うん。らしいね。」




 も話は母の異母妹の緋闇から聞いているため、素直に頷く。隠し立てしても仕方のないことだ。大きな噂になっている。




「わたしも、びっくりした。父上様って、あんまり怒らないから。」





 注意することはあっても、他人を叱責する姿をは見たことがない。

 イタチと斎の修行姿を幼い頃よく見ていた。たまにイタチは勝手なことをしたり、無理もしていたが、それを諫めることはあっても叱りつけるようなことをしたのを見たことがなく、怒られた記憶もない。

 そのため、叱責した、と聞いてもはあまりぴんと来なかった。





「でも、なんでそんなに大事になってんの?だって、斎様の叱責一つでしょ?」





 いのが不思議そうに尋ねる。






「…うん。でも、ちょっとうちは一族、今、孤立してるから。」




 サクラがに、肩を竦めて言う。

 サクラの両親も忍びだ。それに、交友関係も広いから、上忍や中忍から情報を聞くのだろう。事情をよく知っていた。





「もともと、ほら、炎一族以外に仲良くしてるところもなかったから。多分。」




 ヒナタも同じことを言った。

 日向もそうだが、一族は本来自らの一族だけで動くことが多いし、強い結束力を持っている。里が下手をすれば手を出せないほどに。かなり大きな一族であるため緩い結束しか持たない炎一族と違い、規則などでかなり締め付けが入っている。

 日向の分家であるネジが一族に反発した原因も、宗家が分家を押さえつけるために行っていた呪が原因だった。

 それに比べて元々炎一族は宗主とその他の分家の能力のレベルが絶対的に違っているため、わざわざ呪や規則を設ける必要がなかった。呪がなくても、炎一族においては宗家に反逆など、できっこないのだ。

 根本的に炎一族とその他の一族はシステムが違うとも言うことが出来る。

 そのため、炎一族はの母蒼雪の時代に急速に木の葉の里の忍びとの通婚が増え、忍びとして生計を立てる炎一族出身者が増えた。おそらく数世代たてば、宗家以外は緩やかに里に組み込まれていくだろうと考えられている。

 それでも宗家が残るのは、宗家能力があまりにも特殊すぎるからだ。

 だが、他の一族は未だに一族という枠を強く規則で結びつけて守っている。




「最近うちは一族、上層部と仲も悪かったから、斎様と喧嘩してからは、本当に立場がないらしいの。」





 ヒナタはちらりとを見た。

 上層部はなんだかんだ言っても斎の予言能力に依存しているため、斎に頭が上がらない。だがおそらく、斎の妻である蒼雪の率いる炎一族がうちは一族と仲が良いから、うちは一族に目立って処罰をしなかったのだ。また斎の愛弟子であるイタチもうちは一族出身である。

 だがその斎が公でうちは一族を叱責したことは、斎がうちは一族を見放したと上層部からは見えたのだろう。





「…なんか、嫌だね。それ。父上様のせいみたいじゃない。」





 は少し頬を膨らませる。

 そもそものことの発端は上層部とうちは一族の不和であって、斎は何ら関係ない。だが、それだけを聞くと斎が原因でうちは一族が上層部に虐められているみたいだ。





「うん。斎様は全然悪くないよ。でも、なんて言うのかな、ここだけの話だけど、その、うちは一族って、んー、噂、だけだけど…」





 ヒナタが言いにくそうに口ごもる。





「なに?」





 いのが興味津々で尋ねる。それに促されるように、ヒナタがゆっくりと口を開く。





「里、自体に不満を持っているって、だから、そのことを起こすんじゃないか、って噂がね。」




 ヒナタは旧家の出身で聞くところがあった。それは噂話でしかないが、あながちヒナタの両親から言うと、それだけではなさそうだった。




「でも、それって、反逆なんじゃ。」





 が小さな声で問う。

 火影への反逆は、一番の犯罪である。ましてや上層部へ入りたいがため、里を牛耳りたいがために里の上層部を押さえるなど、そんなこと無謀だ。うちは一族以外にも里には日向など手練れの一族がおり、斎やカカシと言った火影の候補者も健在だ。

 彼らを全員倒して里を牛耳るなど、不可能である。




「冗談でしょう。…そんなこと。」





 まだ子供で下忍のサクラでもそれが馬鹿みたいなことだと理解していた。





「…第一、そんなことしたら、多分。とても怒ると思うよ。みんな。」





 も首を振る。

 犠牲者を出すために暴力で訴えても、父である斎や、師である綱手がそんなものに屈するとは到底思えない。むしろ態度を硬化させるだろう。





「うん。だから、噂だけ、だけど…」






 歯切れの悪い言い方で、ヒナタはそう言った。彼女自身もそれ程真剣に信じているわけではなさそうだ。だが、実際に噂はあるのだと思えば、は不安を感じずにはいられなかった。









( 責任のない讒言 )