久々にがうちは一族のシスイにあったのは、本当に偶然だった。




「あれ?イタチだ。」




 振り返ってきた背の高い人物に、とイタチは顔を上げる。人の波に紛れていた彼は、とイタチを偶然見つけたらしく、手を振ってきた。




「ふたりでこんなところでデートか?」





 シスイは気さくに声をかけてくる。





「あぁ、最近忙しかったからな。」





 照れ隠しなのか、それとも邪魔されたせいか、イタチは少し不機嫌そうに早口で返した。

 ここは木の葉の中でも有名な団子屋で、とイタチがよく来る店だった。はカカシ不在であるため任務が少ないし、イタチも昨日知らせが来て、偶然休みが入ったのだ。久々に二人でデートをしようと言うことで、ひとまず甘味処であるこの団子屋に来た。




「相変わらず仲が良いな。」





 腰に手を当てて、シスイは気さくに笑って見せた。

 うちは一族の中でも少し一族と距離を置くシスイはイタチよりいくつか年上で、イタチとも仲が良かった。お世辞にもイタチは友人が多い方だとは言えないので、非常に珍しいとも言える。




「何か頼むか?」





 イタチは団子の櫛を口にくわえたまま、近くに立ててあったメニューをシスイに渡す。





「良いのか?邪魔しても。」




 シスイは気兼ねしてイタチに尋ねる。イタチはの方をちらりと見てきた。テーブルの椅子は四つあるため、シスイが来ても問題はない。




「良いよ。もちろん。」




 はシスイの同席を了承した。

 彼はカカシ達と同じようにが病弱な時によく遊びに来てくれた忍びの一人で、もよく知っている。だから抵抗は全くなかった。




「何がおいしいんだ?」




 あまり甘味処に来ないのか、シスイは首を傾げてメニューを睨む。




「あらかたは美味しいがな、ここは。」




 イタチは自分の三色団子を平らげてから、また追加の皿を頼んでいた。

 しばらくすると店員がイタチが頼んでいたうどんと餅、それについてくる汁粉、が頼んでいた汁粉と桜餅を持ってきた。




「わたしは桜餅が好き−。」




 はにこにこ笑って言う。小食なので汁粉の中に入っている餅だけでギブアップの気もしたが、シスイは何よりもイタチの食事の方が気になっていた。




「イタチ、おまえそれにまだ団子を食う気か。」




 うどんに餅、ついてる汁粉の中にも餅が入っているだろう。その上にまだ彼は三色団子を食べる気らしく、食事を持ってきた店員に頼んでいた。




「本当に甘いもの好きだな。」

「そうでもない。」




 素っ気なくイタチは返して、の桜餅を一つとる。




「食えなくなったら汁粉も食べるぞ。」

「うん。ありがとう。」




 には多すぎるだろうと思っていたが、どうやらが食べられなかった場合はイタチが食べるつもりらしい。




「胸悪くならないか?」




 シスイはイタチが心配になったが、イタチはシスイの言っていることが分からないと言った雰囲気だ。




は小食で、俺は大食だからうまく出来ているんだ。」

「そういう問題じゃないだろ。」




 小食大食はともかく、それだけ甘いものばかり食べていたらかなり辛そうだ。

 シスイは彼を見ていると甘いものを食べる気をなくし、カレーうどんだけを頼むことにした。は不器用なのか、餅が箸で切れないらしく、汁粉の椀の中を探りながらごそごそしている。そのまま餅にかぶりつこうと一度試みたが、大きいのでうまくいかないようだった。




「大丈夫か?」





 イタチはうどんを食べながらの様子を横目で確認していたが、あまりに長い間格闘しているので心配してを窺う。




「うーん。」




 はまだ汁粉の中の餅と戦っていた。





「仕方ないな。」





 イタチはの椀の中の餅を自分の箸で切り分ける。





「これくらいで口に入るか?」

「うん。大丈夫だと思う。ありがとう。」





 は礼を言ってイタチから椀を返してもらって餅にやっとありつく。それを見てシスイは思わず笑ってしまった。




「本当に仲が良い。でも、少し雰囲気が変わったな。」

「誰のだ?」

「おまえらの。」





 シスイは幼い頃からとイタチのやりとりを見ている。

 少し正直大人らしくなったと思う。は幼さばかりが前は目立っていたが、イタチの目を見て笑うことが増えた。彼女は自分では気づいていないだろう。だが、無邪気さばかりでイタチを慕っていた彼女に恥じらいや、恋愛らしい感情が見え隠れするようになったのは成長だと思えた。

 またイタチもそれに伴って変わっている。

 前はの不都合がないように前もって前もってすべてを整えていたが、今はぎりぎりまで助けようとはしない。徐々に庇護する存在から、恋人へとイタチの心の中におけるの位置も変わっているのだ。




「そうか?」




 イタチは意地悪く唇の端をつり上げた。それは親しいものだけに見せる皮肉だった。

 イタチが18歳。もう大人と言える年頃であるのに対して、はまだ12歳だ。この差は非常に大きく、イタチは大人としてのことをすべて知っているのに、は何も知らない。
 普通にまだ手を出すには早い。





「焦るなよ。」





 シスイは意図を察して同じように笑った。

 イタチは確かにのことが昔から好きで、その感情は変わっていないが、それなりに経験もある。知らないわけではないのだ。だから、に対して物足りなさを感じる時もあるだろう。だが、くれぐれも焦ってはいけない。




「イタチの藤宮だからな。」




 シスイは少し唇の端を上げた。

 藤宮の藤は要するに紫を暗示している。要するに源氏物語の紫の上をに例えているのだ。宮はの敬称である。





「否定はしないし、別に焦っていないさ。」





 イタチは軽くお箸の先端をくるりと回した。

 ただやはり一緒に暮らすことになれば、色々今まで見えていなかったことも見えるし、身近になる。その分イタチが我慢することも増えたが、楽しみももちろん増えた。だからしばらくは我慢できると思う。

 多分。





「・・・?」 




 はよく分からないのか、シスイとイタチを交互に見て、また自分のお汁粉のお椀に視線を戻した。そっちの方が興味があったのだろう。そういう所は子供そのものである。ついでに大人の訳の分からない会話にもなれているため、気にしていないようだ。





姫も相変わらずおまえが大好きみたいだし、斎さんはおまえを本当に気に入ってるし、俺も安心しているさ。」




 シスイはとイタチに優しい眼差しを向ける。

 うちは一族を出ても、イタチにちゃんと帰る場所があって、迎えてくれる人がいる。それがどれほど幸せなことか。





「おまえはうちはにもう関わらない方が良いよ。」





 自嘲気味の低い声音で、彼はそう言った。イタチは少し眉を寄せる。はふと顔を上げてシスイを見ると、彼はを見て笑った。




「イタチを頼むよ。」





 その言葉をはじっと聞き入っていた。



( それはすべてがはじまるあいず )