結局その日、の家に泊まったのはナルトだけだった。サクラは急用が出来てしまい、家に帰ったのだ。

 東の対屋は基本的にだけが使っているし、今日はイタチも任務で少し遅くなるらしい。

 斎に食事に連れて行ってもらった後、とナルトは二人だけでゲームなどに興じたが、それも飽きてきて、ふたりで布団を並べてごろごろすることになった。

 ちなみに布団は三つ。

 ナルト、、そしてまだ帰ってきていないイタチの分である。




んちの布団って柔らけー。」




 満足げにナルトは枕に頬をすり寄せる。




「そんなに違う?」

「全然違うってばよ。ま。俺も悪いんだけどな。」





 やはり男の一人暮らしとなると、洗濯などもきちんとしないものだ。

 布団も毎日干したりなどしないし、洗うこともそもそも少ないから、これほどふっくらとした布団に入ることはほとんどない。

 の屋敷は沢山の侍女がおり、そういった家事は基本的にすべて侍女が行っている。

 だからこれほどの柔らかさがあるのだろう。まぁもちろん、布団自体が上等だと言うことも十分あるが。





「なぁ、−。」

「ん?」

「イタチ兄ちゃん。なんか言ってたか?」

「なにも。」




 は首を横に振る。

 をサスケが攻撃しようとして、イタチとサスケが喧嘩になった。当然サスケはイタチに敵うはずがなく昏倒したわけだけれど、はそのことについてイタチから一言も聞いていなかった。

 サスケに酷い怪我を負わせたことには、正直驚いた。

 なぜならイタチが年の離れた弟であるサスケを可愛がっていたことは重々理解していたからだ。




「サスケ、難しいんだ。イタチに対しては。」





 には兄妹がいないからよく分からないが、サスケはずっとイタチが大好きだった。

 お兄ちゃん子で何かと修行に一緒に連れて行ってくれとねだり、だからこそイタチの担当上忍である斎がいるこの屋敷に、しょっちゅう一緒に来ていたのだ。イタチもそれを疎ましく思っている様子はなく、好んで術を教えてやっていた。

 たまに斎の前で照れ隠しにサスケを冷たく扱うことはあっても、仲が良く、可愛がっていたと言うことも自身よく知っていた。

 サスケもそんな兄が大好きで自慢していたし、兄に追いつくのが夢だとも言っていた。ただ、一族の中では複雑だったのかも知れないとは思う。天才と言われ誰よりも認められるイタチがいて、誰よりも優秀であれと年下のサスケがイタチと同じものを求められるのは非常に難しい。

 認められたいと願う気持ちはとてもよく分かる。

 でもその気持ちが、純粋な誰かを大事だと思う気持ちを食い尽くしているような気がして、は酷く不安だった。




「今、うちは一族も難しいらしいし、なんか、わたしたちではどうしようもないんだろうね。」





 炎一族と、うちは一族との複雑な関係も聞いているし、うちは一族と上層部の不和に関しても達に出来ることなど何もないのだろう。




「なんか、大人って難しいな。」




 ナルトは思わずそう言わずにはいられなかった。




「うん。難しいね。」




 もナルトに同意する。

 大人には大人で達には分からない事情があって、達とは違うところで生きている。事情は複雑で、上層部とうちは一族の不和が、サスケにも繋がっていく。サスケの苛々は達にも関わる。





「最近怖いよ。なんか、みんな離れて行っちゃうみたいで。」






 は布団の上で膝を抱えた。

 多分自分は成長したのだろう。でも、みんなの心は屋敷で一人で待っていた頃よりも遠くなってしまったような気がする。もちろん両親やイタチの愛情を疑ったわけではないし、病弱のままでいた方が良かったと思っているわけではない。

 でも、知らない方が良かったことは、案外沢山あったのではないかと思う。




「わたしも変わっているのかな。」





 も不安になって仕方がないのだ。

 変わっていくのは決して悪いことではないのだと分かっていても、心が離れていくようで、手から皆がこぼれ落ちていくようで怖い。




「わたしも、誰かを大切に出来てないのかな。」




 膝を抱えて、は大きな息を吐く。

 イタチや斎が取り込んでいて、今悩んでいるようなので、は最近弱音を彼らの前で吐き出せずにいた。





「そんなことねぇよ。」





 ナルトはの頭を軽くこづく。




「おまえは変わってねぇし。優しいさ。それは俺が保証する。」




 確かには成長しているし、変わっていっているのだろう。

 でもその根底は変わっていない。ナルトだって一緒だ。沢山のことを知りたい。知って行って成長していると思う。

 ただ、自分の大切にしてきたものだけは、根底だけは変わりたいと思わない。




「みんなが忘れても俺たちが覚えてりゃ良いさ。」




 強くの手を握る。




「うん。」




 はナルトの手を握り替えして、頷いた。

 こうして自分たちが覚えていれば、大切にしていけば、変わらないのかも知れない。自分たちが忘れない限り、変わらない限り。




「そういえば、イタチの兄ちゃん、本当に帰ってこねぇな。」




 ナルトは庭の松明を見過ごしに見据える。




「そういえば、今日は夜の任務じゃないから、帰って来るはずなんだけどな。」




 イタチは基本的に飲み会などにも行かないし、あまり出かけたりもしない。

 そのため里の忍びからはその美貌と地位故に人気はあるが、近寄りがたい人物として知られていた。仕事ぶりは頗る真面目だが、特別仲の良い友人もいない。




「シスイさんと話し込んでるのかな。」

「シスイさん?」

「うん。イタチよりいくつか年上で、気の良い人だよ。」




 うちはでイタチよりいくつか年上のシスイとは、仲良くしていたはずだ。最近うちは一族に帰っているから、話し込んでいるのかも知れない。もこの間会ったばかりだ。




「すごく優秀な人だって父上様も言ってたよ。」




 うちは一族ではやはりイタチが天才とうたわれているが、シスイも十分優秀な忍びで、またうちは一族と一定の距離を置いているのも事実だった。




「でもイタチの兄ちゃん、うちはと距離置いてたのにな。」

「うーん。まぁ、いろいろあるんじゃないかな。」




 イタチとて、炎一族とうちは一族の仲が悪くなれば、居心地が良くないだろう。斎に気を遣うところもあるだろうし、うちは一族に戻ることをは良いことだと考えていた。




「それに、わたし、うちはのおばちゃまとおじちゃま好きよ?優しいし。おじちゃまは、ちょっと怖いけどね。」

「怖いのか?」

「うん。サスケの不機嫌な顔にそっくりなの。」




 はころころと鈴が鳴るような声で笑う。




「へーそりゃっこえぇな。」




 ナルトもサスケの不機嫌顔を思い出して、からりと屈託なく笑う。

 結局話し込んで、夜更かしていたナルトとは、帰ってきたイタチに大目玉を食うことになった。




( やくめがひととかわること )